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「合宿中は練習という名目のテニスし放題だからよかったら門田さんも来るといいよ」
そんな不二先輩の言葉に、俺は二つ返事で参加を決めた。そして今から語るのはその合宿が始まるちょうど二週間ほど前の話になる━━━━。
「あ~っ暑ぃ! 何だよこの暑さ、毎年毎年いい加減にしろってんだよな! あ、国光麦茶おかわり」
「…………」
パタパタとうちわで扇ぎながら、空になったグラスを部屋の主に差し出せば、奴は小さな溜息と共に立ち上がる。
その背中に「腹減った」と付け加えれば、おおよそ中学三年生には見えない調った顔立ちが少し歪んだのが見て取れる。
「お前は何しに来たんだ。たかりに来たのか勉強をしに来たのかどっちなんだ?」
「え~……強いていうなら前者?」
「帰れ」
「まぁまぁそう言わなくてもいいじゃん。最近外でもヅラつけて女の子の格好してなきゃならないんだもん、大概疲れるっての。だからって家にずっといりゃいたでカチローから遊ぼうって電話ジャンジャン鳴るしさ。もー国光の家くらいなんだよゆっくり出来るの」
最初はいつ叔父貴的罰ゲーム(女装して学校へ行け)がバレるか冷や冷やしたこの二ヶ月間。今のところ顔馴染みの手塚国光以外にはバレていない。はず。
けど編入したその日に生来喧嘩っぱやい性格が難じて、一年をいじめる二年先輩をぶん殴っちまった俺は、罰として男テニのマネージャーという名の雑用係に任命される。
最初は神奈川の暴れ馬と呼ばれ恐れられた俺が何でこんな面倒を……とグチグチ言ってたものの、最近じゃ部の人達と仲良くなって来て楽しく思い始めたんだよな。
「ま、せっかく夏休みが始まった事だし? たまには思いっきりテニスやりたいってのが本望なんだけどー……」
どこから聞き付けたのか、俺がそれなりにテニスが出来るとしった男テニの顧問、竜崎先生が女テニに入らないかと声をかけてくれた時があった。でもいくら見た目は女子中学生でも中身は男だ。流石に女の子相手じゃ思いっきり打ち込めないしなぁと考えてそのお誘いは丁重にお断りした。
まぁそうなった場合俺がテニスをする為には学校、学区内以外で且つ俺の正体を知ってる奴に限られるわけだが……。
「なぁ国光」
麦茶を持って部屋へと戻って来た国光からグラスを受け取りながら名前を呼ぶ。
「あのさ、国光って部活以外でもテニスやったりすんの?」
「部活以外?」
「あ~、ほら学校以外でさ。ストリートテニスコートとかで」
「ああ。去年不二に誘われて大石と行った事があったがあまり俺には合わなかった記憶がある」
「え、何で? おもろいじゃんストリート。面倒なルール一切なし、ぶっ潰したもん勝ちって奴」
神奈川にいる時、叔父貴が病気になる前は毎日の様に二人で家の近くのコートに入り浸ってた。どっちが何人勝ち抜けるかってやって、結局最後は俺と叔父貴の一騎打ち。俺が負ける形でその試合は終わるんだ。
喧嘩じゃ叔父貴に負ける気はしなかったけど、テニスじゃ一度も勝てたことないんだよなぁ。
「こっちのストリートってどんなの? てかどこにあんの? 俺行きたい!」
「宿題が終わったらな」
「えー今がいい。今から。なぁなぁ行こうよ国光」
ド真面目に向かいでノートにペンを走らせる国光の後ろに周り、ガバッと背中から抱き着いた。そしてそのまま駄々っ子よろしく「行きたい行きたい」と国光を揺さぶる。
「中間テストで追試くらった奴が何言っているんだ。そもそも勉強を教えてくれって言ったのはお前だろう」
「そうだけどさ、もう2時間粘ったんだからいいじゃん。な?」
「まだ2時間だ」
「なぁ行こうぜ国光。俺あの喧嘩以来テニスやってないんだってば」
「ダメだ」
「~~なんっだよケチ!」
頑として動こうとしない国光に痺れを切らした俺は、奴から放れると机の上に広げられたノートと教科書をバサバサと鞄の中へ放りこみギロリと国光を見下ろした。
「帰る!」
そう鼻息荒く告げると、ダンダンッと足音をたてながら奴の部屋をあとにした___。
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