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見ないふり②
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初めてそれをされたのは、もちろんあの晩の布団の上でだ。
あの晩は、俺の方がよっぽど誰かの側に居たい状況だったので、その行為に深い意味など感じなかった。
その次は翌朝、殆ど早朝に家を出る俺に、都雪くんはついていくと駄々を捏ねた。
都雪くんの通う中学も決して近い訳ではないが、俺と一緒に出ても、きっと鍵を開けてもらえるまで一時間程度は待つ事になるだろう。
そう説得するも、首を縦に振らないので、結局は一緒に家を出た。
朝まで抱いて寝てしまった気まずさと、昨晩の体験から、一人になりたくないと言う気持ちから、俺は都雪くんと登校する事に異論はなかった。
二人乗りでもすれば、少しくらいいつもの時間と遅くなったとしても、俺が遅刻する事はないだろう。
しかし、早々に彼を誰も居ない中学校へ置き去りにするのも憚られたため、もう遅刻覚悟で、中学校までは、自転車を押して一緒にゆっくりと歩いて行った。
その道中、都雪くんがふと足を止め、俺に寄り添って来た。
何事かと思い、目を向けると、村の境界にあたる石柱の辺りを嫌な物でも見る目つきで見ていた。
その時は、ほぼ無意識的にだろう。
俺のYシャツの裾をギュッと握ったのだ。
ふと、昨晩、都雪くんが同じ様にして居た事を思い出した。
黙っていると、その後に聞こえた不気味な唸り声も聞こえて来そうな気がして、不意に怖くなった。
「どうかした?」
その恐怖心をかき消す様に声をかけて見ると、都雪くんはハッと顔を上げた。
「なんでもない。ごめんなさい。」
何度も見た、遠慮がちな笑顔。
昨晩、助けを求める様な泣きそうな顔を見たから、この顔は無理している時の顔だと言う事がすぐにわかった。
「なんでもないわけないだろ?どうかしたの?」
と、言ってあげられるくらいの懐の深さがあれば、俺も今頃、彼女持ちだ。
俺は、「そっか…」とだけ呟くと、裾を握った都雪くんの手にそっと手を添えて、再び歩き始めた。
「お兄ちゃんと学校に行けて嬉しいな。僕、ずっと、お兄ちゃんが欲しかったんだ。」
都雪くんが無理矢理出したであろう明るい声が、なんだか痛々しかった。
恐らく、この時、俺は都雪くんには深く踏み込まないと言うスタンスを決めたし、都雪くんも無邪気に甘える弟キャラを演じる事を決めたのだろう。
そうやって、俺たちは一ヶ月を乗り切ろうとお互い了解した様な物だ。
言うまでもないが、その日は遅刻した。
担任も俺が長い距離を懸命に通っている事は知っているので、遅刻をしても、あまり煩くは言わなかった。
だが、遅刻した上に『通知表を貰ったらソッコー帰りたい。』と言ったら、流石にいい顔はしなかった。
都雪くんの事は話さず、家庭の事情を押し通し、やっと、わがままを聞いて貰うには少々骨を折った。
自転車を飛ばし、中学校まで行くと、調度、終業の時間で、俺を見つけた都雪くんは、目を丸くしながらも、とても嬉しそうに駆け寄って来た。
帰りは人目につかない所から、二人乗りをして帰ってきた。
その時も、何度かYシャツを強く握られる事があったが、俺は気付かないふりをした。
家に帰っても、都雪くんは俺にべったりで、昨日よりも、明るい笑顔を見せる様になったので、祖父さんも祖母さんも『仲良くなって良かった。』と呑気に喜んでいたもんだ。
年齢よりも幼く無邪気な弟と、その弟の言う事なら二つ返事で聞いて上げる優しいお兄ちゃん。
そんなかりそめの生活が始まった。
それはそれで、良いのだ。
割り切ってしまえば、今まで気になっていた色んな事がどうでも良くなったし、親戚中ではいつも下っ端扱いだったのだから、お兄ちゃんぶれるのも楽しかった。
まあ、ちゃんとお兄ちゃんが出来ているかどうかは、微妙な所だが…
宿題を見てあげようとしたが、全然役にたたなかった…
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