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病院
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それからの事は、あまり記憶にない。
人が沢山来て、かなり慌ただしかった事だけは覚えている。
場所柄か、救急車は来ていなかったと思うが、駐在さんは居た様な気がする。
うわぁ……大事になっちゃうのかな?と、他人事のように思ってたのが、その場での最後の記憶だ。
都雪くんのあまりの状態に、自分が怪我をしている事も忘れていたせいか、途中で貧血を起こし、俺は倒れてしまった。
目を覚ました時には、見知らぬ天井を見つめていた。
ぐわんぐわんと回る頭をなんとか持ち上げ、上体を起こす。
直後に肩に鈍い痛みを感じ、反射的に触れると、そこはガーゼを当てられていて、治療された形跡があった。
傷口が痛み、熱を帯びる度に、先程までの事が夢じゃなかったのだと言っている様な気になった。
着ている物も、上だけTシャツから、前開きの古臭い寝巻きらしき物に着替えさせられていて、そのカビ臭い匂いを嗅いでいる内に、一転して、この状況すら、まだ夢の中なのかもしれないと言う思いにも駆られた。
壁や床、天井、ベッドに布団まで、殆どが古びて黄ばんでいたけど、執拗までに白で統一された部屋を見た時から、ここが病院なんだろうと予想していた。
だが、どう考えても、充分な設備と手入れの行き届いたとは病院とは言い難く、下手をすれば俺が通う高校の保健室の方がマシだろうと思う。
こんな処に全員が運ばれたとは端から思ってはいないが、閉ざされたカーテンの向こう側に都雪くんが居る事をどうしても期待してしまう。
俺は、軋む身体をベッドから無理矢理降ろし、ほぼ倒れこむようにカーテンを勢いよく引いた。
そこには、俺が寝ていたのと同じスペースが対面であるだけで、他に人影はなかった。
予想通りではあったが、目の当たりにしてしまうと、どこかに諦めきれないと言う思いが湧いてくる。
もしや、他の病室に居るのではなかろうかと、虚しい期待を抱きつつ、俺は、ドアの方へと重い足を引きずって行った。
ドアを開けると、病院特有のひんやりとした空気が流れ込んで来た。
辺りは暗く、非常口を示す緑色の光だけが白い壁や床を不気味に照らしている。
ふと、今は一体何時なのだろう?と思う。
右を見れば、そこは非常口、兼搬入口となっており、目の前がボイラー室と関係者以外立ち入り禁止の札がかかっている。
その隣はトイレで、何故か女性用しかなかった。
そして、俺の居た部屋の隣に、もう一つ扉があり、恐らく、作りが同じ病室となっているのだろう事が予想できた。
慎重に部屋から出て、隣のドアに手を掛けようとしたその時、
「シゲ」
と、皺枯れた声に呼ばれて、ビクリと肩が跳ねる。
恐る恐る振り向くと、そこには、ばあさんが不安気な表情で立っていた。
「ばあちゃん……?」
いつの間にと言う焦りと、緑色の光りに照らされて浮かび上がる小さなシルエットが不気味で、思わず問いかけると、ばあさんは呆れた様にため息をついた。
「何言うちょるん?はよ、戻りぃね」
そう言いながら、ばあさんは、やや強引に俺を病室へ連れ戻そうとした。
ばあさん相手に激しく抵抗するわけにもいかず、軽く足を突っ張りながら俺は
「つ、都雪くんは?」
と、聞くと、ばあさんの顔が、一瞬、青くなった気がした。
俺が、どうしたのか問おうとするのを遮るように、ばあさんは無言で俺を病室へ押し込んだ。
そして、ドアを閉めるなり、両手で顔を覆った。
「うちらが悪いんよ……全部、うちらが悪いんよ」
と言うなり、ばあさんはわっと泣き出した。
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