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[序章]葵さんの七夕!
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──七月七日。
世間では七夕。彦星と織姫が年に一度会える日、だっけ? ま、どんより曇り空の雨だから会えないだろーけどね。天の川もこの歌舞伎町じゃ、ネオンの明かりの方が勝ってどっちにしろ見えねぇし。
大体、そんな物語自体俺にはどうでもいい。金と欲だけが渦巻くこの世界では涙の一つだって出やしないしな。
一人だけを一年で一度しか会えないのに想い続けるなんて。
馬鹿げてると、この時の俺はそう思っていた。
「今月の売り上げトップは、葵だ。おめでとう」
「へーい。どーも」
ホストクラブ・zeneru。クラブが多数ある歌舞伎町で、一番人が入っている。
「また葵かよー!」
「二位とすげー差だな。さすが」
「悪かったな!」
「んな妬くなよ。李緒」
そう返すと尚更悔しそうに睨んでくる。
「るせぇ! 次は絶対抜いてやる!」
「はいはい」
俺がいる間は無理だろーけどね。zeneruでも、歌舞伎町全体でもこの座を譲る気は更々ない。
「ま、トップの葵もみんなも気を抜かずにお客様に尽くせ。それが最短で実力を伸ばす」
そう言った後でマネージャーはそれと、と続けた。
「今日から俺達の仲間になる奴が増えた。来なさい、真緒」
は? 仲間?
呼ばれてホールに入ってきたのは髪の色素が抜けたような銀髪の男。のわりにはチビで、幼い顔からはまだ中学生に見えた。
「……綴真緒です」
緊張してるのか無表情で頭を下げる。
(? 何、今少し……)
顔を上げたソイツと目が合った瞬間、無表情が揺らいだ気がした。即目は逸らされたけど。
「へー! 美人な子が入ってきたんだ!」
「マネージャーにしてはいい子取りましたね」
「お前らなぁ。まぁ、いい。今日からよろしく頼むぞ」
あー、やっと終わる。ミーティング怠いから嫌いなんだよ。新人なんか俺には関係ねぇし。どうせすぐ辞める。
「あとミーティング後、葵は残ってくれ。他のみんなは開店準備だ。それでは解散」
そう言って、店が慌ただしくなる中仕方なくマネージャーの元に向かった。
「なんスか。高山さん」
マネージャーの事ね。
俺はかったるいと思いながら椅子から立ち上がって高山さんの元に向かった。
「あぁ、悪いな。実は、お前に真緒の面倒を見てもらおうと思って」
……は?
「面倒?」
「そうだ。真緒はホストの仕事初めてだから、お前がゼロから教えてやってくれ」
はぁああぁぁ!? 何を言い出すかと思ったらっ。
「絶対やだ! めんどくせぇ! なんで俺がっ」
とんでもない高山さんの頼みに俺は叫ぶように拒否した。敬語すら忘れて。
そのせいで周りの奴らが見てくる。
「いーじゃん。見てやれば」
「そーそー。葵、お兄ちゃんだろ?」
「そー言う問題じゃねぇよ! てか、お前ら黙れ!」
睨んだらこわーとか言って去って行きやがった。
(マジでムカつく!)
「葵。俺はお前を信頼して頼んでいるんだ。俺も社長も留守の時はお前がリーダーをとって、みんなをまとめてくれているだろう?」
「……そうですけど、」
「あとお前に必要なものは、教育する力だ」
教育!? 待て待て待て待て待て待て!!
「俺がそれ一番嫌いだって知ってますよね!? 高山さん!」
仕事中は一人の方が断然好きだし(ヘルプも要らないくらい)、もうずっとそう言ってんのに! ランクを争うこの仕事なら尚更。なのに教育って!
「苦手なものこそ克服しなければならない。これはもう社長と俺の間で決まった事だ」
職権乱用かよ!
「だからってこんなガキのおもりなんかっ」
チラッとソイツを見ると、特に表情を変えずに俺を見上げていた。
それが余計に腹立つ!
「お前、弟二人いるんだから大丈夫だろう。今日の七夕イベントから頼んだぞ」
「は!? ちょ、高山さん!」
俺の肩を叩いて、高山さんは笑う。
てか、全然理由になってねぇし!
「真緒、頑張れよ」
最後にそう言った後、高山さんはホールから出て行った。
「マジかよ……」
「あの、」
「あ?」
「よろしくお願いします」
今まで黙っていたソイツは頭を下げてそう言ってきた。かろうじて聞こえてきたか細い声に、俺は言い返す余裕すらなかった。
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