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懐疑
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胸中がざわめく。風に煽られる傘がわずらわしい。
記憶違いか否か。早く、確かめたい。
自宅に戻り、鍵をポケットから出すのももどかしく玄関を開ける。
靴と濡れてしまった靴下を脱ぎ、そこらに投げて階段を上がった。東雲が目撃していたら烈火の如く怒るだろう。
「あぁそうだった、また鍵だ!」
自室に入った侑は学生鞄の中身をぶちまけ、家のものとは違う小さな銀色の鍵を手に取った。
それは唯一かかる机の引き出しの鍵。貰い物の机だが有難かった。東雲は息子のプライベートに干渉しないが用心に越したことはない。
ここには今、テスト以上に見られたくない例のストーカーからの手紙が入っている。
本音は燃やして塵にしてしまいたい。手元に置いておくのも触るのも嫌だ。
だが個人の焚き火は木造住宅の多い村では厳禁だし、喫煙者のいない侑宅には灰皿もライターもない。商店を営む祥の所にはあるかもしれないが、そんなもの欲しがった日には不良少年として名を馳せる事になってしまう。実に不名誉だ。
かと言って普通に破って捨てるのも怖くて出来ず、こうして後生大事に取っておく羽目になっている。
いささか乱雑に開けたため、写真が飛び出る。
しかし用があるのはそれじゃない。封筒だ。引っ掴むと表書きを見る。
「…無い…」
侑は慌ててもう一つ、約一時間前に読んだ二通目も同じように確かめる。
やはり、無かった。
切手に押されてある筈の、消印が。
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