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広がる傷
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「僕が、バカだって?」
俺の前まで来ると、ガッと無造作に肩を掴むとそのまま後ろへと引き倒した。
ドスンッと重い音が広い部屋に響く。背中に軽い痛みを感じながら、表情の消えた自分と同じ顔を下から睨みあげた。
「バカは君じゃない? 学習能力がないというかなんというか……僕を怒らせていつも泣きを見てるのは誰だっけ」
「俺は泣いてねえ」
「泣いてるじゃない。ああ、鳴く……の方かな君の場合」
「泣いてねえっつってんだろ」
始めは……そう、初めてこいつにやられた時は泣いた……かも知れない。けど今は。泣かない、絶対。
「学習能力がねえのはどっちだか」
「……なに?」
「そうやって怖い顔して、脅して……犯せば俺が黙ると思ってんだろ。そんなの今更なんだよ」
今更だ。ほんとに、今更……だ。だって俺は。
「俺はもうお前を怖がらない。どんなに恥ずかしい事されても、どんなに痛い事されても、どんなに……傷付ける言葉をいわれても俺は……お前を怖がらない。逃げないって決めたんだ」
「また強がり言っちゃって。どうせ……最後には」
「怖くねえっつってんだよ! お前だってしつけーんだよいい加減!!」
声を荒らげた俺に秋都が目を見開く。
「今更なんだよ! 今更……お前が何してきたって俺は……受け入れるって決めたんだ。あの日、お前がぶっ倒れた時。病院で言っただろ自分を傷付ける事だけはやめろって。自分を傷付けんなら俺にあたれって。あん時にもう俺は腹くくったんだよ!」
殴られるのは嫌だけど、お前に抱かれるのは嫌じゃないって。それは……その気持ちは。
「……お前が好き、なんだ俺は。好きだからそんな顔見たくないんだ。苦しんでるってわかっててほっとけねーんだよ」
「何言ってるの君。好き? 君が、僕を?」
「そうだよ! お前に抱かれるのが嫌じゃないのはそういう事だ。お前の為になりたいって、そういう事なんだ」
俺はお前が……その言葉を遮る様に秋都が大きな笑い声をもらす。本当に面白そうに、馬鹿にしたような笑いを。
「好き? 僕の事が?」
クツクツと喉を鳴らし笑う。
「馬鹿だね。ほんっとーに馬鹿だよ君。好き、好き……僕が好き?」
「そんな……笑わなくてもいいだろ。俺は本気で……っ」
突然ガッと髪を鷲掴みにされ畳に潰す様に押し付けられる。打ち付けた後頭部と髪を引っ張られる痛みに顔をしかめていると、眼前に秋都の顔が近付いてくる。
「こんな事されても……僕が好きだって言える……?」
「え……?」
「例えば、そう……こうやって」
スッ……と秋都の長い指が俺の喉にそわされる。親指がギュッと軽く喉仏を押さえた。
「秋、都……?」
「ねぇ、海都。死んで?」
恐ろしい程低い声が俺の鼓膜を擽る。
「君がいなければね、僕は幸せになれると思うんだ。君に奪われた神宮の当主の座も、兄さんの愛情も全部独り占め出来る。君がいなければ……こんな心が荒ぶる事もなくなるんだ僕は」
ググ……と少しづつ親指の力が強くなる。喉のしまる苦しさを感じながら俺は秋都から目をそらせずにいた。
「僕の事が好きなら……出来るよね? 僕の幸せを願ってくれるなら、死んでよ海都」
「…………」
今までで一番悲しかったのは、秋都と初めて喧嘩したあの日だった。その次はこいつが自殺未遂した日。あの時より辛い事なんて、この先ないだろうって思ってたんだ。
けど、これは反則だ。
これは……きくわ流石に。
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