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ツ……と頬に何かが伝う。それが何かちゃんと認識出来ているはずなのにそれを拭う動作が今の俺には出来ない。
頭の中は真っ白で、でも心は静かだった。
うるりと歪む視界の先で、秋都が感情の読めない無の表情で俺を見下ろしている。喉を押える指の力は弛んではいない。
そんな場の状況はわかっているのに、何故だろう。秋都の言葉に返答を返す事が出来なかった。
ただただ頬を濡らしながら下から秋都を見つめ続けた。
__どれくらいそのままでいただろう。ふっ、と首を締めていた力がなくなる。
「……ごめん。ごめん、海都。嘘だよ、本気じゃない。泣かないで?」
いいながら首を締めていた指が涙に濡れた頬に触れる。
頬をスリスリと撫で、次に未だ涙を流す目を拭う。
「俺にあたれなんて、簡単に言わないで。君に受け止めきれる程僕は……」
ちゅ、と音をたてて唇が触れる。その感触さえも俺はどこか遠くに感じていた。
「海都。ねぇ、海都。愛にはね、色々あるんだって。親愛、友愛、家族愛、兄弟愛。僕が兄さんに感じているこの気持ちはどれにもあてはまらないんだよ」
それのどれとも違うんだよ、と囁くように秋都がいう。
「殺したい程あの人が好き……なんだよ。殺して僕だけのものにしたい。けど……あの人が死ぬなんて考えられない。声を聞きたい、笑顔がみたい、秋ちゃんって……呼んでほしい。ずっと、ずっと。ずーっと。でも死んだらそれは叶わなくなってしまう。そんな事……できるわけないんだ」
ポツリ、と頬に何か落ちてくる。それは一つではなくもう一つ、また一つ落ちて来て乾きつつあった俺の頬をもう一度濡らした。
「片思いだってわかってるよ。わかってるんだよちゃんと。兄さんに他に想う人がいる事、僕わかってたんだよ……?」
でもね、と口がわななく。
「無理なんだ。もう、無理なんだよ。あの人以外を好きになるなんて……無理なんだ」
ぽつ、ぽつ、と頬を伝う雫が増えていくと同時に秋都の声の震えが強くなっていき、最後は嗚咽がまじる。
「ねぇ海都? バカなのかな、僕は。そんな僕をバカだって、愚かだって君は笑うかい? それでも……それでもいつかはきっとって。あるはずもない最後のチャンスに縋りつく僕を女々しいって君は笑う……?」
くしゃり、と歪んだ顔を下から見つめる。初めてみる、秋都のそんな顔。
自分の弱みなんて死んでも他人にみせようとしなかったこいつのこんな顔見たのは初めてだ。
「ごめんね、海都。死ねなんて言ってごめん。ごめん……嘘だよ、そんな事本気で思ってなんかいない。本当に死ぬべきなのは僕なんだ。僕が……僕、が……」
「……バカ、言ってんな」
絞りだした声は少し掠れていた。
「誰が、死なすかよ。俺だって、お前がいない世の中なんて考えたくねーよ。声を聞きたい、笑った顔みたい。海都って、名前呼んでほしい」
一緒だ、俺も、お前も。相手は違えど、考えてる事は一緒だ。変な所まで似なくていいのによ。
「お互い、叶わない相手好きになっちまって。バカなのはお前じゃねーよ。女々しいのも愚かなのもお前だけじゃねぇ。俺もだよ。俺も、お前と一緒だ」
「海……都?」
「好きだ。そんなバカで女々しくて愚かなお前が好きだよ、俺は」
我が兄貴ながら本当にしょうもない。でも、わかってんだよ。俺はそんなお前を好きになったんだ。
「お前が鈴兄貴しか見てなくてもいい。一生片思いでもいい。俺は……お前と一緒にいれるだけでいいんだよ秋都」
バカ、だよな。本当に。世の中探せばいくらでもいい女もいい男だっているだろうによ。ほんと、バカだよ俺達は。
「秋都。俺だって誰より一番お前を__…………」
コロシタイホド、アイシテル___。
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