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あにきのこと
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俺が目覚めたのは、辺りがオレンジ色に染まり始めた時間だった。
青かった空も、海も茜色の太陽に色を変えられた夕刻。ぺちぺちと頬を叩く音に眉根をよせ瞼を持ち上げれば空色の瞳が上から俺を見下ろしていた。
「お前……」
金色のツインテールの少女。鈴の音にいたあの不思議な子供が俺を見下ろしながら「ご飯だよ」と頬を叩いていた。
「何でお前がここに」
首を傾げながら上体を起こせば「おっ」と聞きなれた声が背中へ投げられる。振り向けば、少女と同じ金の髪と青い瞳が呆れを含んだ視線を向けてくる。
「なんやなんや、せっかく海にまで来たっちゅーに昼寝やなんて人生無駄にしとんなぁ」
ケラケラと笑いながら俺の頭をガシガシと無造作に撫でて来た鈴兄貴に、なんであんたがいんだよと返してやる。
「てか、その髪」
なんとなく違和感を感じながら見慣れた兄貴の姿をもう1度見返せば、真っ青に染め上げられた髪が金髪へと変わっていた。
いや、元々この人の地毛は親父似の金髪なんだけど。小学生依頼久しぶりに見たその姿にぱちくりと瞬きを繰り返した。
俺の問に、鈴兄貴は「あー」と指で毛先を遊ばせながらにかっと笑う。
「まぁたまに会うときくらいはな。親孝行せなあかんやん」
ああ、そういう。
昔々、まだ今より子供の頃なんで綺麗なのに髪を染めるんだとこの人に訊ねた事がある。俺は太陽の様な親父とこの人の髪が好きだった。そして空のような瞳も。
俺と秋都は目さえ親父に似て少し青みがある瞳の色ではあったけど、髪色は母親似の栗色だ。子供の頃はキラキラ輝く2人容姿が羨ましいと思った。
俺の質問に、鈴兄貴は親父似にそっくりだと言われるのがいい加減飽きたからだとその時言っていたけど、本当はまるで見世物の様に自分を見る神宮の年寄り達の視線から逃れる為だったと。
色物扱いするじいさんの弟子達のコソコソとした態度から逃れる為だったといつか彼の舞の師である叔父貴が教えてくれた。
鈴兄貴の本名はリーオン・ミティ・ミラグロス。今の名前は神宮鈴音。
兄貴は自分の生まれついた容姿だけじゃなく親からもらった名前さえも捨てさせられいるんだ。
神宮家の当主……うちのじいさんに。
それが鈴兄貴が神宮の家に入る為の約束だった。親父とおふくろが結婚する為にじいさんから下された親父と兄貴の2人への条件だったそうだ。
その話を鈴兄貴からでもなく、親父からでもなく、叔父貴から聞いた時は複雑この上なかった。じいさんに嫌悪を抱きさえした。けど、それが兄貴が選んだ道なら。親父とおふくろと3人一緒にいるために決めた事なら、俺がとやかくいうことじゃない、よな。
「あの人には会ったのかよ」
兄貴の実母。あの人の事だ、俺達を迎えてくれた時の様に兄貴を迎えたはずだ。
「会うの久しぶりだったのか?」
「まぁ、ざっと20年くらい? ちゃうかな」
そんなに? と声を上げる俺の隣に腰を落としながら「おお」と頭をふる。その膝の上に茉理がちょこんと座る。こうして見ると親子みたいだなと思考の先でふと思った。
「もともとおかんとおとんが別れたんは俺らがまだイギリスにいた時やからな。二人が喧嘩別れした時に俺はおとんに、姉ちゃんはおかんに付いてって。それからすぐ俺は師匠について日本に渡ったからそれ以来やったと思うけど」
「こっちで会ったりしなかったのかよ」
「まぁ会うチャンスはあったで。俺が神宮の女形として1人前になったらおかんの居場所教えてくれはるってのが師匠との約束やってん。けどなー、家の前まで来たけど結局会わず終いで終わってもてな」
結構こうみえてチキンやねん、と笑う兄貴に嘘付けと鼻で笑い返してやった。
「ま、今回はな。蘭に誘われたから来たんやけど……まさかお前らまで居るとは思わんかったわ」
「奥村に?」
「蘭の家がやっとる海の家のキッチン足らんから手伝ぉてくれて連絡来てな。まぁいつも豊とか円のひいさんとうちに来てくれとぉし、茉利にも海見せてやりたかったし、ってな」
「てかそいつ店の客の子供じゃねーのかよ。親はどうした」
こないだから気になってはいたんだ。こいつが神楽ばあちゃんの身内だってのは知ってるけど、こいつの親の事は病院のナースからちょろっと聞いただけだ。まさかこんな小さなガキをほっぽってどっかに行く親じゃないだろうし。
「パパは今いない」
それまで黙っていた茉利がぽつり、と言葉をもらす。
「茉利は今伯に預けられてるの。だからここにいる」
「伯?」
誰だそりゃと返せば鈴兄貴があいつやあいつと会話に加わる。
「うちにいたやろ。あのまっちろい男か女かよぉわからんヤツ。あいつな、今うちで住み込みで働いとぉねん」
「は? 聞いてねーぞそんな話」
「そら最近の話しやしな。まぁアルバイト雇うほど忙しい店ちゃうねんけど、なんか訳ありで住むとこないうもんやからとりあえず家決まるまでってうちの空き部屋貸したってん。したら茉利も付いてきてんな」
「またあんたは……なんでそうやって何でもかんでも。ちっとは警戒心もったらどうなんだ」
別にこのガキとあの白いヤツが兄貴に何かするとは思ってねーけど。けどこの茉利って奴はどうも得体が知れない。俺の事をおじいちゃんだとか意味不明な事いいやがるし。
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