アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
まだまだ遠いい……
-
マキは、作る料理が不味いから仕方ないと笑いながらペロッと舌を出す。
それを見てユリが俺の方を『マキちゃんを傷つけやがって!』とギロッと殺気立って睨んできたが、俺は別にマキを貶してる訳じゃないんだが…
ったく…
賢史「俺は別に女王様を虐めてる訳じゃないんだぞ」
言ってみたが、ユリは尾っぽを逆立てた猫のようにシャーッと威嚇してきて面倒くさい。
と思ったが、よく見ると、マキの後ろでつよしが『賢史さん酷い』って悲しそうな顔してこっち見てやがるし、水森泉に至っては、自分で散々貶した癖に、俺のことを凍てつくような冷たい目で睨んできやがるし…
はぁ…
賢史「いや、だからさ…」
本当に虐めてる訳じゃない。
マキが頑固なのがいけないんだろ…
神だって困ってるんだぜ、女王様マキの、そうゆうなんかしてなきゃって頑なに思い込んでるところをさ…
賢史「無理までしてアレコレしなくて良いんじゃね?って言ってんの。お前が、マキがなんか役に立たなきゃって奮闘してんのは知ってるけど、神は大人で、お前は学生なんだからそれぞれやるべき事が違うだけで、お前はお前のやらなきゃいけない事、やれる事はやってんだから無理する必要はねぇよ。それに、人には向き不向きがあって、料理は神が得意なんだからさ」
マキは、甘えることに慣れてないせいでやたらと何かしようとするって神が零してた。
マキは学生で、かなり頭の良い大学だし、勉強やってバイトして、神の事務所も手伝って、家で掃除に洗濯に皿洗いと色々やってて、そんなに頑張んなくても良いのにと神が悩んでんだぞ。
マキ「…」
マキに俺の言ってることは伝わってるのか…
当の本人は表情の読めない普通に見せかけた面してるが、外野は『またマキの料理を貶した』って睨んできやがるし…
賢史「別に作るなって言ってんじゃないぜ。お前が神に作ってやりたいと思って作るのは良いことだし、神も喜ぶし。たださ、無茶はするなって意味。お前のその〝焦り〟がさ、流石の鈍感神にも伝わってるから。無茶してこんな風に嘆くなら、出来ることからでいんじゃね、って話な」
マキは、俺が含んでる意味をちゃんと分かってる。
表情の読めない顔から、その瞳が潤んで『だってだって』と言いたげに視線を上目遣いにしながら、ポツリと零す。
マキ「僕は、頑張りたい…、神さんはいっぱい頑張ってくれてる…、そう言ったら気にしちゃうの知ってるけど、せめて感謝分くらいは頑張らせてよ…」
どうしてこのガキは…
神に、溺れときゃいいのに…
その分返そうとすんだ…
神は溺愛狂愛者なんだから、愛されときゃそれで丸く治んのに…
ギブ&テイクにしたがる…、いや違うか…、うーん…、何かしたからご褒美がある?的な?いや、奉仕したがる?
…無条件の愛情を自分は与えるのに、人から向けられる無条件の愛情は存在してないように思ってるっつーか……
賢史「だから、それが余計なの。学生には学生のする事があるだろ。神は大人だから…」
マキ「僕、知ってるよ。賢史さんだって知ってるはずだよ。神さん、隠れていっぱい勉強してる。僕がリクエストしたご飯以外は、いっぱい本読んで毎日献立変えてご飯作ってる。それに、色んな雑誌とか見て、僕の世代の話題話してくれたり、流行りの洋服買ってくれたり、いっぱいいっぱいやってくれてて…」
…神君…恥ずかい影の努力が全部バレてるよ…
可哀想に…。
ああ、知ってるよ。
神は努力する男だ、そういう奴だ。
まぁ、神が〝焦ってる〟のもあるが。
もう二度と失敗したくない神は、確かに頑張り過ぎなくらい頑張ってる。
…だがな…
賢史「はぁー…、それは当たり前だろ」
俺の大きなため息に、マキが複雑な顔をした。
マキ「え…」
その顔、本当に分かってないって顔だ。
神が報われない訳だ……
当たり前なくらい当たり前のことなのに…
賢史「当たり前なんだよ。神は、お前にゾッコンで〝愛し〟ちゃってんだから」
マキ「……」
賢史「不器用なりに工夫して努力して、好きな人に喜んで欲しいし、笑顔でいて欲しいから。愛でたいだけ愛でて甘やかしたいだけ甘やかし倒して、愛情いっぱい注いで大事にしてんだろ」
マキ「……」
だから、変なことすんな。
お前のはいちいちなんかチゲーんだよ。
感謝だの迷惑だの…
いつもなんかチゲーんだよ。
神が可哀想だろ、マキはいつもどっか信じてねーんだよ。神の気持ちを…
あの愛したら一途すぎる狂愛馬鹿を相手にしてんのに、それを疑ってるってどうなの?
神君可哀想過ぎだろ。
手作り料理が不味いから神に食わせないで捨てる?
そんなことすっからその手料理片っ端から食おうとすんだろうがあの狂愛おばかちゃんが。
とりあえず作ったもん全部出せよ。
その料理に愛情さえ入れときゃ上手くなんだよ。
ただでさえ鈍感な神に、常人でも分かんない程の本当の感情隠して複雑に絡んだ女王様の感謝なんか込められてもわからねぇーし美味くもねーだろよ。
好きだから手料理食わせたかったぐらいのあっさり味にしとけよ。
マキ「………」
マキちゃん、ところで、その間とその表情は何?
相変わらず全然表情読めないんだけど…
え?
まさか驚いてる間だとか言わないよね?
まさかまさか、驚いて言葉失ってるとかだったらこっちが言葉失っちゃうよ?
マキ「……」
マキちゃんそろそろ反応しようか。
ってか、怖いんだけど。
まさか、あの狂愛暴走馬鹿神君捕まえて、まさかまさか、『愛されてる』ことに驚いてるとか言わないよね?
『僕愛されてるの?』
とか、言わないよね?
そこまで伝わってないとか言わないよね?
マキ「……」
…言わないよね?
…言わないで!!
なぁ!女王様!!
マキ「……」
マキの表情は変わらず、その読めない瞳がチラッとリビングのテーブルの真っ白なライオンに注がれた。
真っ白なラインのヌイグルミは、無機質な瞳に穏やかな表情をしていて、そのヌイグルミに神を重ねてるだろうマキは、何を複雑に考えてるのか。
神は不器用だから怒って怒鳴ったり、泣かせちまうこともあるけど…、マキのスペックじゃ、神なんかに手に負えないほど高嶺の花だろうけど。マキが神を理想だというなら、もういいだろ、考えなど諦めて、ただ溺れちまえばいいのに…
頼むから、神から愛されてるか疑ってるくれるなよ。
お前の過去に何があったとしても
それを神が救ってやれないとしても
お前の未来は泣いたり笑ったり絶対賑やかだから…
それだけは信じろよ…
マキ「……、ッ」
マキの変わらぬ表情が、ほんの少しだけ動いて、短く息を吸い込んだ。
その飲み込まれた言葉が…
声になりそうもなく消えてしまいそうで…
その言葉を…
本音を…聞き逃したくなかった
賢史「…、あのな…マ」
ユリ「マキちゃんは愛されてるのよ!愛されまくりよ!」
ユリ!?
今大事なとこ!!
ユリ「だから、好きだから愛情を返したいんじゃない!好きだから百目鬼さんの大好物の甘いお菓子作ってあげたいんじゃない!!」
賢史「ちょ…ユリ…落ち着いて…」
ユリ「それを何よ!無駄って!」
そこ?!
そこに戻っちゃうの?
つよし「ユリちゃん、お、落ち着いて」
つよしが止めに入っても、ユリは涙目になりながら怒ってきて。
ユリはユリで、マキの昔を知ってるんだろうから、マキの気持ちが分かるんだろうが…
ユリ!
今、マキがなんか言おうとしたんだよ!!
もう一度マキを見たら、マキはもう、憤慨するユリを見て笑ってるだけだった。
……。
じぃーんくぅーーん!…、
早く帰って来てぇぇ!!
.
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
82 / 170