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プロローグ
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戦慄に貫かれた瞬間…
会いたかったと泣き縋ってふにゃりととろけるように安堵し微笑む腕の中のマキが過り…
暗闇に呑み込まれた…
『××ちゃん』
『××ちゃん』
暗闇の中
心配そうに少年の名を呼びかける年配の女性の声。
でもそれは、少年の求める声ではなくて、小さな体は身動きひとつ出来ない。
狭くて暗い部屋は、惨憺たるありさま。
割れた食器、薙ぎ倒された家具、飛び交って散らばった紙クズやゴミと写真。
小さな小さな裸足の足は、寒さに身を縮めて隠れるようにしていた。
『××!どこだ!』
もう1人、年配の男性の声は力強く必死に探し求めたが、紅葉のような小さな小さな手と裸足の足は暗闇の中で小さく小さく息をひそめた。
『どこだい!おじいちゃんとおばあちゃんが迎えに来たぞ!』
〝迎え〟という言葉に、初めて心が温かい鼓動を取り戻す。必死に呼びかけてくれる2人に、震える唇が声になる。
『…ちゃん…』
恐怖か不安か、こんがらがった訳の分からないものが絡みついて、うまく声が出ない。
『おばあちゃんとおじいちゃんが迎えに来たのよ!返事をしてちょうだい!』
年配の女性の声に、目の前がぼやけて水浸しになってしまう。
その大好きな人の名前を呼びたいのに、喉は締め付けられて、止まっていた時間が動き出す。
ここで何が起こったのか、何を言われたのか、それが邪魔をして、この場所から動けない。
『おじいちゃんとおばあちゃんと帰りましょう、もうこんなところに居なくていいのよ、おばあちゃん達と一緒に暮らしましょう!』
『じいちゃんがお前を守ってやる!これからは毎日ばあさんのうまい飯が食えるぞ!』
ボロアパートの部屋の中、部屋数はそんなにないから直ぐに見つけられそうなのに、惨憺たる部屋の中は、足の踏み場もなく、地震でもあったかのように家具が乱れて行く手を阻む。
争いこあったこの空間の中から、籠の中にすら収まりそうな小さな小さなその姿を探すのは容易ではなくて、返事を求め、必死に探した。
2人の必死な問いかけに、震える小さな小さな子は、絞り出すような掠れた声で答えた。
『ッ……じ…じぃ¨じィ¨…
…ッ……ばぁ¨ばァ¨……』
えぐえぐと嗚咽を漏らしながら聞こえた声は、化粧台の下の小さな隙間から聞こえてきてきた。
『ああ良かった!ばぁばとじいじだよ!大丈夫?!怪我はない?!』
『良かった!出ておいで!じいじとばぁばと帰ろう!ほら危ないからじぃじに掴まって!』
化粧台の下にすっぽり身を縮める姿に、2人が手を伸ばす。
小さな小さな子は、体をブルブル震わせて大粒の涙を流しながら嗚咽交じりに怯えていた。
『おが……おがあ¨ざん¨……が……』
喉が締め付けられ、さらに鼻水で、可愛らしかった声が跡形もなくダミ声に変わってしまっていた。
『泣かないで、よく聞いて。あなたのお母さんとお父さんはサヨナラすることになったの、だから、これからはおばあちゃん達と一緒にいましょう。今日から貴方は私たちと一緒に暮らすのよ』
『お前は俺たちの子だ、さぁ、一緒に帰ろう』
2人の優しい声、優しい手、大好きな2人に抱きつきたいのに、体が動かない。
それは呪縛のように小さな小さな体に呪いをかけていた。
『で、でぼッ…、ぼ、ぼく¨といるど、ふ、ふごう¨だって¨…っ…ぼく¨…い¨ら¨ない¨ッて…ぇ¨ぇ¨…』
嗚咽を漏らして号泣する小さな小さな子。
年配の男性と女性は心を痛め、そんなことないと優しく抱きしめた。
2人の腕に強く抱きしめられても、泣き止むことのできない小さな小さな子は、2人に抱きしめられて暗闇から連れ出された。
少し曲がった大きな温かい背中におんぶしてもらい、後ろからはシワシワの柔らかい手に背中を撫でられながらゆらゆら心地よいゆり籠のように揺られても、止まらない涙と嗚咽に泣きつかれて眠るまで…
『貴方にもらった言葉を僕も贈りたい』
「だれ?」
『貴方が生まれてきたのは…』
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