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アルバムをなぞる指先の決断6
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新幹線にはビックリするぐらいスムーズに乗り込めた。
携帯と切符を握りしめ、車内アナウンスが目的地への到着時刻を知らせてくれるのを、早く早くと念じながら、夕日が沈んで真っ暗になった窓の外だけを眺めてた。
新幹線にスムーズで万全の態勢で乗れたのは、緋色のお陰。
緋色さんは迅速だった。
冷静で物腰柔らかく真剣な表情でありながら、テキパキ素早く動いてくれて、新幹線の通る最寄駅に着くまでの時間に、ネットで新幹線のチケットを買うよう教えてくれ、車はその新幹線の時間に合わせて猛スピードで駅に向かう。お金は持ってるのか、いくら位必要だとか、今から新幹線に乗る距離移動するなら帰りはないかもしれないから泊まる所を探しておけとか、冷静に必要なことを教えてくれた。
まるで、僕の誤魔化しが何も効かない圧倒的なオーラを出す奏一さんみたいな存在感で、駅に着いてからもも、ここまででいいという僕に、奏一さんよりも強引に僕を車から連れ出して改札までついて来た。
緋色「よし、発車6分前。携帯と財布と切符は持った?」
マキ「はい。緋色さん本当にありがとうございます。ご迷惑をおかけして」
緋色「いいからいいから。マキちゃん、深呼吸して、大丈夫だから」
マキ「ありがとうございます。僕は平気です」
真っ直ぐそう言ったのに、緋色さんは信じてないって感じで苦笑いして、僕にコンビニの袋を渡してきた。
緋色「…マキちゃん、コレ、新幹線の中で食べな」
マキ「え?…」
中身はシャケと昆布のおにぎり1個づつとチョコレートのお菓子が3つも。
緋色「マキちゃんが切符買ってる時に買った。今からだと夕飯食べれないだろうし、お腹が空いたら嫌な事ばかり考えちゃうだろ。おにぎりは日持ちするから、まっ、要らないなら最悪捨てて。ただし、チョコレートは1つでも口に入れて、落ち着いて行動しなね」
何も教えてないのに…
僕は平然としてるはずなのに…
緋色さんは何で…
マキ「すいません、ありがとうございます。大丈夫ですよ、僕は落ち着いてます」
僕はどこもおかしくないはずなのに、緋色さんは首をかしげて困ったように笑う。その瞳は、試合中に相手を分析するみたいな鋭い眼差し。
緋色さんは僕の両肩に力強く両手を置いた。
緋色「困っても困ってなくても後で連絡して。なんかあったら奏一さんも力になってくれる」
マキ「あ、あの!奏一さんにはこの事、まだ言わないで下さい」
緋色「……。分かった。言わない。その代わり俺には何でも言ってな。ほら、時間時間、とにかく落ち着いて、チョコレート食べなね」
僕の返事を聞かず、緋色さんは送り出すように背中を押して僕に改札をくぐらせ手を振った。
新幹線の発車時刻が迫っていたから、見送る緋色さんに一礼して、急いでホームへ向かい、目の前の新幹線へ飛び乗った。
緋色さんの行動力…
本当にびっくりした。
何であんなに色々気が付いたんだろう。僕はボロは出してないはずなのに…
って、…、初めての場所にいたのにいきなり飛び出そうとしたのはマズかったろうけど…、まるで、何があったのか知ってるみたいに迅速だった…。
さすがの僕も、帰りのことまでは考えてなかった。
今から福島に行ったら、当然帰りは無い。
思わずため息が出て、緋色に貰ったコンビニの袋から、チョコレートを一粒とって口に入れた。
『お腹が空いたら、よく無い事ばかり考えちゃうだろ』
甘いチョコレートと一緒に、緋色の言葉を思い出し、マキは、2つのおにぎりを食べながら、百目鬼の無事を祈った……
目的の病院に着いた頃には、20時を回っていた。
面会時間はとうに終わってる。
でも、一目、それがダメでも怪我の具合だけでもという気持ちで病院に飛び込んだ。
昼間とは違い真っ暗で人の居ない病院の大きなロビー、飛び込んだものの、どこに行けばいいのか辺りを見回すと、ロビーの隅で、泣いている私服姿の人がいた。
ここは病院だ。
具合が悪い人、救急車で運び込まれた人の家族、様々な人がいる。泣いてる人の涙の意味を考えたら、最悪な場面を想像して慌てて首を振った。
とにかく、受付を探して…
「…ッ貴方…」
静かなロビーに、驚いたように急に響いた声に振り返る。
そこにいたのは、百目鬼の妹、蘭が居た。
彼女の疲れ切った顔色に泣き腫らした目元に、よからぬ予感が過ぎって身がすくむ。
蘭「兄と一緒に居た…」
マキ「大変な時に押しかけて申し訳ありません。僕は、百目鬼事務所でアルバイトしてる、マキと申します。蘭さんですよね。いきなり来てごめんなさい。百目鬼さんのことが心配で、容態を教えてもらえませんか…」
礼儀正しくとか、家族に失礼の無いようにとか、色々考えたけど、押しかけてる時点で失礼なのは分かってた。だけど1秒でも早く、百目鬼さんの無事が知りたくて…
蘭「…兄は、命に別状はありません。事故で雪の中に投げ出され、雪がクッションになったみたいで。凍傷や擦り傷が幾つかあって…足の骨折と、頭や体を強く打っていて、まだ…意識が回復してなくて…せっかく来てくれたのに申し訳ありません…」
話しながら時々涙をこらえて話す蘭さんに、緊迫した空気と悲痛な思いを感じて胸が痛む。
家族意外面会謝絶なら、もう、自分には何をすることもできない。
僕は、〝家族〟では無いから…
マキ「……蘭さん、泣かないで」
ハンカチを差し出してみたけど、蘭さんは「大丈夫です」と、袖でサッと涙を拭った。
マキ「ご家族の皆さんは大丈夫ですか?」
蘭「ありがとうございます。大丈夫です。今は私と母とおばあちゃんだけで、他の兄弟は子供が小さかったり仕事だったりで…、でも、兄は意識さえ戻ればきっと大丈夫なので」
マキ「あの…、今が大変な時なのは重々承知してます。皆様が大変なのも分かっていますが、失礼を承知でお願いが…、百目鬼さんの様子を一目だけでも見ることは出来ませんか?」
蘭「……」
マキ「中に入れなくてもいいです。ガラス越しでも構いません。一目だけ…」
蘭「…ごめんなさい。外からは見えない部屋だし、面会は出来ないので…」
マキ「……無理を言って。すいません」
蘭「いえ…」
マキ「…あの、大変な時にごめんなさい。百目鬼事務所のみんながすごく心配してて、百目鬼さんは、みんなのお兄さんみたいな感じで、みんな心配してて…、それで、百目鬼さんの経過を時々聞かせてもらってもいいですか?連絡先を交換させてもらえませんか?蘭さんの無理の無い程度で構いません。コレ、僕の連絡先です」
蘭「…はい。分かりました」
マキ「ありがとうございます!
あの、百目鬼さんの着替えとか、必要なものがあったらなんでも直ぐ持ってきます」
蘭「あ…、そんな、大丈夫ですよ、私達でやりますから」
マキ「大丈夫です。百目鬼事務所は自宅の下なので、今は蘭さんたち百目鬼さんの看病で疲れてらっしゃるし、それに、おばあちゃんのことも心配ですよね。育ての親だったおばあちゃんの話し、百目鬼さんに聞いてます。皆さんの力になりたいので、どうかやらせてください」
蘭「……」
マキ「お願いします」
蘭「……」
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