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アルバムをなぞる指先の決断10
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結局、緋色さんには少しの嘘を混ぜた真実を話した。
僕の恋人が、出張中に倒れ、出張先の病院で入院していて命に別条はないが、まだ意識を取り戻さず、面会も制限されて会えないと…。とにかく、意識が戻るまでは騒いでも始まらない。
以前、その恋人とのことで奏一さんに物凄く迷惑を掛けたので、今回は迷惑掛けたくないと説明した。
緋色「それは大変だったね。…でもさ…」
マキ「…」
緋色「そういう、迷惑かけたくなくてとかってーの、奏一さん一番怒るやつだぜ」
緋色さんの呆れ笑いに近いため息混じりの忠告。
僕もその通りだと思う。
奏一さんはきっと、言わなかったことを怒ると思う。でも、だからこそ、言えないこともある。
奏一さんや修二や泉には言えない。
言えば、ボロが出る。
神さんのことは、医者と家族に任せるしかない。
意識が戻るまではただ祈ることしかできない。
そういうの分かってくれる3人だからこそ、僕のボロが暴かれる。
今はダメ。
ボロを暴かれたりしたら、僕はきっと……
緋色「マキちゃんさ、恋人が入院中なら、その食材どおするの?」
マキ「え?…あ、どうしよっかな…」
ただ取りに来なきゃと思っただけで、コレをどうしようかまでは考えてなかった。
緋色「じゃあさ、俺がご飯作ってあげるよ」
マキ「え…、いや、あの…」
緋色「大丈夫。家に押しかけるとか野暮なことしないよ。どうせマキちゃん彼氏と同棲してるんでしょ」
マキ「えっ」
緋色「だから、家の場所言いづらそうにしてるんだと思って」
サラッと答えられ驚いた。
確かに理由としては適切だし、僕でもそう予想する。
ただ、ここまで勘のいい人間に会ったことがない。
緋色さんはニカッと笑って正解でしょって顔してる。それから携帯を取り出して何やら検索し始めた。
緋色「大丈夫。俺ん家に連れ込むなんてーのも考えてないから。彼氏が大変なら尚更だよね。うーんと…あったあった。はい、予約完了」
マキ「え?予約?」
緋色「ちょっと行った所に、キッチンスタジオあるから、そこ行って作るよ」
マキ「は?キッチンスタジオ?行くって…、僕行くなんて言ってないよ」
緋色「でも、その食材無駄になっちゃうでしょ。それに、美味しいもの食べて、いつ彼氏の目が覚めても飛んで行けるようにマキちゃんが元気じゃなきゃw」
マキ「僕は元気ですけど…」
緋色「じゃ、美味しいもの食べよ!はい!乗った乗ったw」
マキ「あの…緋色さん!」
緋色さんは強引で、僕の返事は全く聞かずに車に押し込んだ。
気を遣ってくれてるのは分かる。
話が分からないような人でもない。
ただ、緋色さんみたいな人種は初めてでどうしたらいいかちょっと分からない。
僕が主導権を握れない人なんて今までいなかったし、今は神さんだけだった。
神さんの事で僕の頭が回ってないのか?
緋色さんは不思議で困る人だ…。
結局、キッチンスタジオで緋色さんが作ったご飯を2人で食べた。
僕が作る予定だったものを緋色さんが作った形になったけど、信じられないほど美味しい。
…今までこんなに美味しくなったことはない。同じ食材使ってるのに、しかも鍋に入れて味整えるだけなのに、どうしてこうも違くなっちゃうんだろう…。
僕って本当、料理の才能がない。
緋色「じゃあ、マキちゃんは、明日また彼氏の所に行くの?」
マキ「うん」
緋色「でも、会えないんでしょ?」
マキ「うん、会えないけどいいんだ。着替えを届けに行って、ご家族の様子を見てきたいんだ。彼は、家族と仲良しだから。今回のことで家族がかなり落ち込んでるから。家族に何かあったら、彼が起きた時、彼が気にして自分を責めるから、そうならないようにね」
緋色「へー…、マキちゃん大人だね」
マキ「普通だよ」
なんでもないって笑って見せた。
僕は今まで通り出来てるはず。
心配されるような顔はしてないし、ご飯だってちゃんと食べてる。
緋色の作ったご飯を口に運ぶ。マキが一瞬視線がそれた時、緋色がマキに聞こえない声で呟いた。
緋色「……。奏一さんの言ってた意味がわかったわ…」
マキがご飯を食べきったのを見届けて、緋色はキッチンスタジオを片付け、マキを元いた場所に送り届けた。
ー翌日
僕は再び福島に来た。
神さんの着替えと、蘭さんたちにお見舞いの品を持って。
あくまで、百目鬼事務所からのお見舞い代表として。
蘭さんには、事前にメールしていたけど、気持ちが急いて、予定より早く着いてしまった。
どうしようかと思ったけど、蘭さんたちには、蘭さんたちの都合があるかと思い、病院の中庭を散歩しながら時間をつぶしていた。
マキ「…早く…神さんに会いたい……」
外はこんなにいい天気なのに、こないだまで、何も心配いらないほど幸せだったのに…
そう思わないようにしてはいても、明るすぎる太陽が、心の暗い影を浮き彫りにしてしまう。
どうしてこんなことになったんだ…
どうしてこんなことになったんだ…
なんで神さんなんだ…
……因果応報?
神さんのやってきたことが、神さんに返ってきた?
でも、僕は、神さんに感謝する事ばかりだ。
僕は、神さんに幸せってどんなものか教わった。
僕が神さんしてもらったこと、してもらってることも全部、神さんに返ればいいのに。
幸せの因果応報なら、いくらでも返すのに…
「……あなた……確か……」
ぼーっとしていた僕に、70才くらいの年配の女性が声を掛けてきた。僕の顔をしげしげと見るこの人…、僕もどこかで見たことあるような…………
「……確か……、奏一君と一緒に居たわよね」
マキ「あっ!?」
そうだ!!
この人定食屋の…
神さんのおばあちゃんだ!!
夏以来の再会。
神さんのおばあちゃんは、体調が悪いのか、だいぶやつれていて、夏に会った時の元気ハツラツなイメージとは遠かった。
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