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アルバムをなぞる指先の決断11
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神さんのおばあちゃんに会えるなんて思ってなかったからびっくりしたし、夏に見た元気な姿より少しやつれたような痛々しいおばあちゃんの姿に胸が痛んだ。
次の言葉を考えていたら、神さんのおばあちゃんは僕がここに居る理由を考えて不安そうな顔をした。
祖母「あなた、どこかお悪いの?」
マキ「あっ、いえ、なんともないです!ッ…、すいません、あの…、神さんのお見舞いに…」
普通に、百目鬼事務所のアルバイトだと話せばいいのかもしれないが。僕は夏の間中おばあちゃんの定食屋さんに通っていたし、初めてお店に行った日は、感極まって泣いてしまってる。それに、奏一さんを通して、おばあちゃんに百目鬼さんの話を色々聞かせてもらっていた。
食堂に通ってた子が、百目鬼事務所で働いてるって変に思われないかな…。
おばあちゃんが僕を不審に思ったら合わせてもらうどころじゃなくなっちゃう。
祖母「まぁまぁ、わざわざ福島までいらしてくれたの、ごめんなさいね遠くて大変だったでしょう。ありがとう」
マキ「いえ。それより、だいぶ疲れた顔されてますが、お体は大丈夫ですか?」
祖母「私?私は全然大丈夫なのよ。ありがとう。…えっと…、確か…あなたは…」
名前が出てこないみたいで、首をかしげるおばあちゃん。
もしかしたら、さほど記憶にないことなのかもしれない。食堂には、沢山のお客さんが来るし、半年も前にひと月通っただけの僕なんか覚えてないのかも…
それなら、その方が都合がいい。
泣いてしまった僕のことなんかなかった事にしてほしい。
マキ「名前は、茉爲宮優絆です」
祖母「茉爲宮…さん」
マキ「はい、マキって呼ばれてます」
僕のあだ名を聞いた途端。
おばあちゃんは驚いて目を見開いた。
祖母「マキ?、あなたがマキ?」
え?何?
マキ「…はい。マキです」
祖母「あらあらまぁまぁ…、あなたがマキちゃんなの…、あら?、でも…あなた奏一君の…、えっと…、あらあら…」
何やら悩みだすおばあちゃん。
奏一さんの名前まで出てきた…
これはもしかして…
祖母「マキちゃん」
マキ「はい」
祖母「あなたマキちゃんなのよね?」
夏の出来事を覚えてる?
マキ「はい、マキです」
祖母「あらあらまぁまぁ……そう…あなたが…マキちゃんなのね…」
マキ「!!!!」
神さんのおばあちゃんは、シワだらけの顔を更にシワくちゃにして嬉しそうにしたかと思ったら、涙を流し出した。
マキ「…あの……」
祖母「ッ…ぁ…ごめんなさいね。年取ると脆くて…ダメよねぇ。あらやだ、こんな所にいつまでも。さあさあ行きましょうマキちゃん、神が待ってるわ」
マキ「えっ、神さん目を覚ましたんですか!?」
祖母「それがまだなの、お寝坊さんでしょ、マキちゃん行って起こしてやって頂戴」
え?!
起こすって…
会えるってこと?
マキ「あの…でも…、家族意外は面会出来ないって…」
祖母「いいのいいの、硬いこと言わないの、マキちゃんならきっとあの子も目を覚ますから、さぁ、こっちこっち」
え?え?、もしかして、神さん僕のことおばあちゃんに話してたの?いや、でも、そんな話聞いてないし…、養子縁組のことも言ってないはず。だって神さんは、家族にカミングアウトする気は無いはずだし…。
ぐるぐる考えてる間に、神さんのおばあちゃんに早足に連れられ、神さんの病棟まで来てしまった。
病室の前には、蘭さんが居て、おばあちゃんと僕が小走りしてるのを見て慌てた様子で駆け寄った。
蘭「おばあちゃん!走ったら危ないよ!」
神さんのおばあちゃんは足が悪く、蘭さんが心配していたが、おばあちゃんは興奮した様子で蘭さんを押しのけようとする。
祖母「神にマキちゃん来たって教えてあげなきゃ」
蘭「えっ?ちょッ、おばあちゃん、お兄ちゃんはまだダメだよ。先生の許可が出てないし面会謝絶だから」
蘭さんが止めるのも聞かずにおばあちゃんは病室のドアノブを掴み、蘭さんはそれを止めようとドアの前に立ちはだかる。
いったい何が起こってるのか、でも、このままおばあちゃんがドアを開けてくれれば、一目でも神さんに会えるかもしれないという待があって、2人を止めることができない。
蘭「おばあちゃん待って、いったいどおしたの?」
祖母「神が私にだけは教えてくれたのよ。あの子はそうだとは言わなかったけど、私には分かる。あんな穏やかな顔した神は見たことがないもの。今度会わせてねって言ったら、否定しなかった」
……。
蘭「おばあちゃん違うよ、この子は…」
祖母「違うわけない、神がうわ言で呼んでたもの、蘭だって聞いたでしょ」
蘭「!」
その言葉に驚いた様子の蘭さんが僕を見た瞬間、おばあちゃんがドアを思いっきり引いた。
祖母「神だって〝彼女〟が呼べばきっと目を覚ますから…」
スライド式のドアが開いたと同時に、真っ白な世界が広がる。
中央のベッドで傷だらけで横たわる、百目鬼神の姿が、目に飛び込んだ。
マキ「…ッ、…じ…神さんッ!」
真っ白な包帯を頭に巻いて、白いギブスを足につけ、顔にはスリ傷が目立つ百目鬼神…
静かに眠るその表情は、まるで永遠の眠りについてしまったかのようで胸が引き裂かれそうに痛い…
その姿を目にした瞬間。
今までせき止めていたものが一気に溢れ出た…。
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