アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
アルバムをなぞる指先の決断14
-
.
神さんは目を開けた。
だけど、お医者さんの話では、意識レベルが低く〝意識が戻った〟とは言えないそうだ。
詳しい話は、検査をしてから、蘭さんとおばあちゃんが聞くことになっている。
目が開いているのに、目が覚めてないなんて…
不思議な話だ。
でも、看護婦さんの話では、こちらの声が聞こえてる場合もあるって話だ。
時々聞く、意識がないと判断された患者が、意識が戻ってから、病室での会話を知っていたという。
神さんが目を開けたと色々騒いでいたら、その日はうっかり終電を逃してしまい。ホテルに泊まった。
翌朝面会しに行ったら、神さんは、また目を閉じていて、びっくりしたけど、しばらくしてまるで〝朝だから起きた〟みたいにまた虚ろに瞼を開けた。
やはりまだ、意識があるとは言えないらしい。
祖母「まぁまぁ、神ったら、マキちゃん来たから起きたのね」
おばあちゃんは僕が来たから神さんが良くなってると思い込んでるらしく、「側にいてあげて」と言ってくる。僕にとっては、願ったり叶ったりだけど。
蘭さんは、昨日待ち合い室で僕と神さんの事を聞いてから、なにも言ってこない。蘭さんの気持ちを考えると、どうしたら良いのかわからない。
結局、おばあちゃんが、僕を女の子だと勘違いしてるのか、全てを神さんから聞いて知ってるのかも確かめられず。僕は、神さんの家族に婚約者として認識され、今も神さんの隣にいることが出来る。
蘭さんには申し訳ないけど、神さんの側にいたい。
それに、蘭さんとの約束。おばあちゃんを傷つけないようにするには、婚約者として神さんの側にいることを望まれてる以上そうするしかない。
そうして、僕の福島に通う日々が始まる。
百目鬼さんが目を開けてから2日目。
容態が安定してるってことで、面会謝絶が解除された。
それを待ってましたというように、百目鬼事務所のみんなと、菫ママがやって来た。もちろん賢史さんと妹さんも。
気丈にしてた杏子さんも、普段明るい檸檬さんも泣きっぱなしで、高霧さんに支えられなきゃ歩けないほどで。矢田さんにいたっては、百目鬼さんに会って1分しないうちに、泣きながら大声出すから賢史さんに追い出されてた。
僕は詳しくは聞いたことなかったけど、杏子さんと檸檬さんが泣きながらおばあちゃんや蘭さんに挨拶と感謝の話をしてた。
自分たちは百目鬼さんにいくら感謝しても足りないくらいの恩がある。昔助けてもらって身元引き受け人になってもらってた事、住むところも仕事も面倒見てもらって親のように思ってる。という話。
なんとなく、杏子さんと檸檬さんは訳ありな気がしたけど、やっぱそうなんだ…。
杏子さんと檸檬さんと矢田さんが住んでるアパートは、名義が百目鬼さんになってるもんな。
杏子さんと檸檬さんは、百目鬼さんが不在の間、百目鬼事務所は自分たちが守っていくからと約束をして、福島から百目鬼事務所へ帰って行った。
僕も、一旦帰らなきゃいけない。
大学をそう何度も休めない。
それに万が一留年なんかになったら、神さんに怒られちゃう。
大学に行くより神さんの側にいたい気持ちはあるけど、僕の大学には、医療関係の先生が大勢いる。
神さんの今後をどうしていったら良いか知るには、とても為になるはずだ。
後日、幾つかの資料と、幾つかの本を手に入れ、読み漁った。
難しい言葉も多く、なかなか理解するのは難しかったけど、知ってるのと知らないのはかなり大きい…
ーーピーンポーン。
自宅で知るょうを読んでいたら、玄関のチャイムが鳴った。誰だろうと思ったら、菫ママの手料理をトレーに乗せた矢田さんがいた。
マキ「こんばんは矢田さん」
矢田「お疲れ様っす!コレ、菫ママからの差し入れです。一緒に食べましょう!」
トレーには、美味しそうなチンジャオロースと麻婆豆腐など、2人分の食事が乗っていた。
マキ「菫ママったら、心配性だな…」
矢田「菫ママだけじゃないっすよ、杏子さんも檸檬さんも心配してるし、賢史さんだって毎日電話してくるんですよ」
マキ「もぉ…。まぁ、今までの行いが悪いのは認めるけど、僕はもうすぐ20歳の成人なんだけど。…矢田さんどうぞ」
矢田さんをリビングへ通し、持ってきてもらった料理をテーブルに並べてもらい、僕はお茶を入れに台所に立った。もう、ヤカンでお湯を沸かすのはバッチリ♪
お茶を入れてテーブルに戻ると、矢田さんはリビングの奥、ソファーのあるローテーブルに積み上がった資料を見て驚いてた。
矢田「これ、なんすか?課題ですか?」
マキ「ううん、神さんの症例に当てはまるものを片っ端から読んでるだけ。意識障害の資料が多いいかな」
矢田「うへー、俺には難しくて全然読めないっす。マキさんはやっぱ頭いいんすね」
マキ「そんな事ないよ、僕も意味を調べながら読んでるよ」
矢田さんは、ローテーブルの書類と本の数に「俺には無理だなぁ」って言いながら、ちょっとだけ意識障害の書類を手に取ってみたが、一行目から読めない用語に引っかかり諦めた。
矢田「やっぱ無理だわ…。…あっ、これは?催眠療法?催眠術の事っすか?」
マキ「まぁ、簡単に言うと、催眠術を使って治療するって事だね」
矢田「へー、催眠術で治療なんかできるんですか?」
マキ「簡単に言うとそうだね」
矢田「へー、催眠術で治療かぁ…」
矢田さんは、本の中をパラパラとめくり、なんだか興味津々。
僕が催眠療法に興味を持ったのは、神さんの持つトラウマに注目していたから。神さんがあそこまで頑ななのは、何か原因があると思うから。
とにかくなんでも良い、何かしてなければ落ち着かない。何かのヒントになればと思った。
矢田「マキちゃん、明日は百目鬼さんに会いに行きますか?」
マキ「うん。でも泊まりは無理だから日帰り」
矢田「俺も行きやす!車出すんで面会時間いっぱいまで百目鬼さんといてあげてください」
マキ「え、車だと結構時間かかるよ」
矢田「平気っす!任せてください!」
矢田さんはやっぱり矢田さんだった。
この時、
矢田さんと一緒に福島に行かなかったら
このあと起こる事態は
起こらなかったのかもしれない…。
.
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
120 / 170