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アルバムをなぞる指先の決断15
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神さんの容態は少しずつ良くなってる。
相変わらずこちらを認識してないような虚ろな眼をしてるけど、一昨日より昨日、昨日より今日のほうが目の色が良くなってる気がする。
面会できるようになって分かった。
初めて見た時は、白い包帯とギブスとガーゼが衝撃的で絶望的な気分になってしまったけど、1週間以上経ってガーゼと包帯が取れ、傷は落ち着いていた。
良くなってるって実感できるから、気持ちも落ち着いていられる。
意識障害の事は、どうやら原因不明らしい。
頭を強く打ってはいるが、検査の結果異常はない。
祖母「まるで、まだ起きたくないみたいねぇ…」
おばあちゃんが困ったように呟いて、神さんの手を撫でた。
原因不明っていうのは苦しいもんだ。
こういう時少しでもプラスに捉えられるか、絶望するか、人は大きく分かれる。
マキ「神さんは普段から働き過ぎてたから、少しゆっくり休みたいのかもしれませんね。神さん誰が止めても仕事ばかりで、休みも全然作らないんです」
祖母「まぁまぁ、そうなの?全然顔見せないと思ったら、本当に働き虫だったのね」
神さんは今休んでるんだ。
意識があったら、骨折してても今頃次の仕事に行ってるに決まってる。
そういう話になると、聞いてもいないのに一番熱くなる男が興奮気味に解説してきた。
矢田「そうなんすよ!百目鬼さん働き過ぎなんですよ。毎日毎日休みなんかないし、俺たちには休めって週に2回は休みくれるのに、百目鬼さん不定期にしか休すまないし、最近なんて事務所が休みの正月に休んだきりで、普通の休みはここ4ヶ月くらい休んでないんすよ!百目鬼さん仕事し過ぎなんすよ!こうやって動けなくなんない限り休まないんだから今丁度良いんすよ」
マキ「矢田さん…」
矢田「あっ!、す、すいやせん!ち、違います!事故にあったのは良くない事で!でも!動けなくならないと動いちゃう人でッて意味でッ!骨折だけだったら絶対無理してたから寝てたほうが良いって…、あれ?あっ!違います!すいやせん!すいやせん!」
はぁ…フォローのつもりで綺麗に墓穴を掘るな…
マキ「ごめんなさい!矢田さんは天然なので悪気はないんです。百目鬼さんの事大好きですから」
矢田「そうっす!俺は百目鬼さん大好きっス!尊敬してるし、感謝してるし、こんな俺の事拾って雇ってくれて、返しても返しきれない恩だらけで、一生返済してもまだ足りないんスッ!」
普段から声デカイのに、興奮してまた大きな声を出すから、看護婦さんがやってきて怒られました。
矢田「す、すいません」
祖母「ふふふっ、神は随分皆さんに好かれてるのね」
矢田さんの天然に、おばあちゃんはクスクス笑いながら、神さんが、普段どれだけ仲間から愛されてるのかを知れて幸せそうに微笑んだ。
矢田「もちろんっス!百目鬼さんはみんなから愛されまくりっス!」
祖母「神は、愛想ないじゃない?体も大きいしガタイもいいのに眉間にシワなんか寄せて、ぶっきら棒だしすぐ大きい声出すし怖いでしょ?だから心配してたの」
矢田「あぁ、確かに、百目鬼さんはすぐ怒鳴るしいつも眉間にしわ寄せて睨むし、めちゃめちゃ怖いですけど…」
おーい矢田さん!!
矢田「全然怖くないっス。百目鬼さん不器用なのみんな知ってるし、百目鬼さんは仲が良ければ良いほど怒鳴るんです……なんでしたっけ…えっと、…あっ、そうそう、ツンデレなんで」
ニカッと良い顔で笑う矢田さんは、思い出して満足そうに断言した。
その場の空気とかガン無視。
その場にいた、おばあちゃんと蘭さんと凛さん、百目鬼さんの家族はみんな目が点。
矢田「確かそう言うんですよね?マキさん」
僕!?
矢田「百目鬼さんに一番怒鳴られてるマキさんが、百目鬼さん照れ隠ししてるって確か言ってましたよね?」
うわぁー、それ僕だ…確かに僕が言いました。
ホント無駄に記憶力良い拡張機。
祖母「まぁまぁ、神ったらマキちゃんにそんなに怒鳴るの?」
矢田「はい!百目鬼さんにマキちゃん大好きなんで毎日怒鳴ってツンデレしてます」
ギャー!
誰かこの子を止めて!
鼻の穴膨らませて自慢げに話す矢田さんに、もう呆れ過ぎてどう止めて良いかわからない。
ーコンコン。
栞「こんにちは」
天の助け。
暴走機関車矢田さんを止められる人たちがやってきた。
賢史さんの妹さんと、賢史さん。
賢史「矢田、お前声でかいよ。廊下まで聞こえてんぞ」
賢史さんの登場に心底ホッとして、矢田さんへの説教はお任せする事にした。
その日は、色んな人が病室を出たり入ったりした。
百目鬼さんの兄弟が様子を見に来たり、おばあちゃんのお友達がおばあちゃんの様子を見にきてくれたり。
途中、おばあちゃんが体調の事で先生に診てもらいに居なくなったり、疲れ切った蘭さんを栞さんがご飯に誘って席を外したり。
途中、僕と神さんだけになったりもした。
僕と神さんの事を話してから、蘭さんから何か言われた事はない。
僕と神さんだけになると知っても、蘭さんは何も言わないし、でも、反対してないって感じでもない。
まだ、蘭さんの中で複雑に悩んでるんだろう。
二度と顔を出すなと言われてもおかしくない状況なのに…
マキ「…神さん。僕、蘭さんに悪い事しちゃった、ごめんね。神さんに会っても泣かないって決めてたのに、涙が止まんなくなっちゃった…、ごめんね」
その瞳に僕は映らない。
握った手は握り返してはこない。
だけど、ちゃんと温かい。
神さんは大丈夫
神さんは大丈夫…
マキ「早く元気になってね。みんな神さんの帰りを待ってるんだよ……。……働き過ぎたから眠たいんだよね。ゆっくり休んで、ゆっくり待つから…」
早く元気に…
でも無理はして欲しくない…
色んな感情と葛藤しながら、平静を装う。
気を少しでも抜いたら、また泣いちゃいそうだから…
ーコンコン
束の間の2人の時間が終わり。
病室に、賢史さんと矢田さんが戻ってきた。
賢史「マキ、ちょっと良いか?」
賢史さんに呼ばれ、病室の外に出た。
僕と入れ替えるように、矢田さんが病室に入って行ったけど、賢史さんに「黙って座ってろよ」って注意されてた。
ってか、矢田さんと神さんの2人っきりって大丈夫かなぁ?
何もなくてもやらかすのが矢田さんなんだけど…
賢史「お前、神の家族になんて自分の事説明した訳?」
マキ「それが…、おばあちゃんに中庭で偶然会って、その時おばあちゃんが僕の名前を知ってたんだ。病室に連れてこられて、そこにいた蘭さんに、神の嫁だからって面会させるって。賢史さん、神さんは、おばあちゃんに僕との関係をカミングアウトしてたの?」
賢史「…、俺が聞いてたのは、家族にカミングアウトするつもりはないって言ってたが。ただ、お前のことおばあちゃんに紹介するとは言ってたな」
マキ「じゃあ、おばあちゃんは、僕の事を女の子だと思ってるって事かな?」
賢史「…わからん。神にとって、おばあちゃんは、親以上の存在だ。カミングアウトして心労を与えたくない気持ちはあったみたいだが、大事な人ができたってーのは、なんかしらの形で教えたかったんだろ。まぁ、神は友達もすぐねぇし」
マキ「そお?神さんの周りにはいっぱい神さんの味方がいるじゃん」
賢史「ふっ、そりゃお前がいるからだよ」
マキ「僕?」
賢史「お前、モブ取りホイホイだもんな」
マキ「モブ取りホイホイ?何それ」
賢史「神が言ってたんだよ。お前は誰でも引っ付けて来るってさ」
マキ「…、神さんは、自分の魅力に気が付いてないだけだよ。そう思うでしょう?百目鬼さん大好き賢史さん」
賢史「…。キモい事言うなよ。っていうか、もともと魅力があったのはあったけど、磨いて光らしたのはお前だよ。お前と出会ってなかったら、神は原石のまんま、ゴツい鋭利な角のある岩のまんまだったさ」
マキ「…、ほらやっぱり百目鬼さんの事大好きじゃん」
賢史「人がせっかくな褒めてやってんのに」
マキ「だって、優しい賢史さん気持ち悪いもん」
賢史「うわー、可愛くないね」
マキ「…。可哀想とか思ってんでしょ。気なんか使わないでよ。僕はなんともないって言ってんでしょ」
賢史「……。可哀想だって思ってる訳じゃねぇよ。まぁ、強いて言うなら、お前のためじゃねぇな、神のためにお前を心配してんの。お前が作り笑いばっかしてんのほっといたら、神に後で怒鳴られるの俺なんだよ」
マキ「作り笑いじゃないよ。僕の生まれ持ったエンジェルスマイルですぅ」
賢史「……。聞いたぞ。神に面会した日、大号泣したらしいじゃんか」
マキ「なッ!!」
賢史「マキちゃん泣き虫だもんなぁ。ほらほら、俺の胸貸してあげるから泣いて良いんだぞぉー」
マキ「……。栞ちゃんにお兄ちゃんが虐めるって泣きつくからいいよ」
賢史「お前バカ!やめろよ」
マキ「ついでに、神さんの彼女の〝私〟にセクハラして来るって泣いておくね♪」
賢史「やめろ、分かったよ。泣き虫なお前が泣き虫だってーのは黙っといてやるよ」
マキ「けーんーしーさぁん」
賢史「ははっ」
賢史さんが僕を心配してくれる気持ちはありがたいけど。
今、本当に大変なのは神さん自身とその家族だから…
本当に僕に気なんか使わないでほしい。
全部全部、神さんとその家族のために使ってほしい。
そうして話をしていたその時だった。
矢田「わッッ!!!」
神さんのいる病室の中から、矢田さんの悲鳴みたいな声が響いた。
賢史「エッ!?」
マキ「何ッ!?」
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