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アルバムをなぞる指先の決断25
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マキ「ふわっふわのパンケーキ美味しかったねぇ♪」
茉爲宮と食べたパンケーキは、ふわっふわのモチモチで美味しかった……、と思う。
パンケーキを頬張るたびに、ふにゃふにゃ幸せそうに笑う茉爲宮が、美味しい美味しいと食べてたし…
女みたいな顔して可愛いけど、パクパク食べる姿はやっぱ男なんだって思う。2つのパンケーキの4分の3をぺろっと平らげながら、茉爲宮はまだ食べれると言っていた。こんだけ食うのに、どうしてそんな細っこいんだ…。
マキ「また来ようねぇ♪」
屈託なく笑うこいつから溢れ出る好意の熱。
俺の人生で、一度も経験したことのない熱と、嬉しそうな瞳と笑顔が…、どう接したら良いかわからない。
俺は、こんな視線を向けられたことも…好意を持たれたこともない…
友達が連れてる彼女が、友達に向けるような視線。
それを羨ましいとは思っても、その女を欲しいと思ったことはない。俺が欲しかったのは…、昔の親友が、好きな女が転校して気持ちを伝えられなかったとくやし涙した時、それが欲しいと思ってしまって…。自分に嫌悪した。
やっぱ、茉爲宮が女だったら、変な抵抗もなく、婚約者だって受け入れられたんじゃ…とか。でも、やっぱ俺は、こいつが女だったら…、こんな気持ちになったのか…、こいつが男だから…、出会い頭に泣かれたから、こんな心乱されてるんじゃないか…
マキ「次はどこに行こうか?」
百目鬼「次?」
マキ「ふふっ♪、病院からやっと退院して外に出れたのに、足の骨折のせいで家に篭るの嫌でしょ。それに、家って言っても、記憶にない家じゃ、落ち着かないでしょ」
どうしてこいつは、何でもお見通しって顔ばかり…
マキ「…かなり…しんどいんでしょ。ずっとミキサー回しるみたいに頭ぐるぐるしてるって眉間のシワに書いてある」
…お前と一緒にいるせいだよ
マキ「記憶のこと、あんまり気にしないでリラックスしてよ。仕事は杏子さん達に任せれば良いし、お金のことは、神さんの貯金いっぱいあるから気にしなくて良いし。生活のことは、僕に聞いてくれれば何でもサポートするし…。あっ、料理以外だけどね♪」
ペロッと舌を出して笑ってた顔が、ふっと急に曇りだす。
さっきまでニコニコ子供みたいに笑顔だったのに、まるで、貼り付けたみたいな、病院でずっと見てた作り物みたいなキレイな笑顔で茉爲宮は微笑んだ。
マキ「ごめんね。僕と一緒が嫌でも我慢して、僕、追い出されたら住むとこなくなっちゃうから…。君のこと全力でサポートするから、なんでも言ってよ♪」
百目鬼「あんた、実家は?」
マキ「実家はね、ちょっとごちゃごちゃしてて。〝神さん〟が引き取ってくれたんだ」
百目鬼「…ふーん」
家庭が複雑なのか…、その苦労はなんとなく分かる。人にペラペラ言うもんでもないしな…
マキ「話が長くなっても良いなら、全部話すけど…」
百目鬼「いや…、お前が複雑そうなのは、なんか分かるからいいや。それに、俺んところも複雑だけど、ペラペラ喋ることじゃないし…って、お前は俺の全部知ってんだっけ…」
マキ「…全部、は、聞いてない」
百目鬼「…俺の全部知ってるんじゃなかったのか?」
嫌味っぽく言ったのに、茉爲宮は貼り付けた笑顔を崩さず答える。
マキ「〝神さん〟のこと、聞いたよ。子供の頃のアルバム見ながら、思い出を1つ1つ教えてもらって、思春期の悩みとか、新しい家族が増えたこととか、僕と出会うまでの全部。
…ただ、〝神さん〟は、幼少期のことは詳しく言わなかった。年月が経ちすぎてあまり覚えてないって言ってた。だから、今度おばあちゃんに会わせてくれるって…」
百目鬼「…まさか…、それって…」
まさか…母さんの事を聞かそうとしたってことか?
マキ「…お母さんの話を…」
百目鬼「…嘘だろ」
あの事を…こいつに話そうとしてたのか…。
俺が?…。
あんな事…もう忘れたのに…
マキ「…安心して、君の、…神…の…嫌がることはしない。絶対にしないし、言わないから」
百目鬼「……」
マキ「気分転換しに来たのに、また眉間のシワが増えちゃったね。移動しよう。気持ちの落ち着く場所に行こう。ねっ」
茉爲宮は、俺の安心できる場所を知ってるみたいに、迷いのない瞳で案内する。
俺は、茉爲宮を知らない。茉爲宮の知ってる〝神さん〟は、俺とは別人のようなのに。
12年後の俺、今の18歳の俺は同じなんだろうか…
何も持ってない18歳の俺と、12年後のなんでも持ってる俺。
マキ「ここだよ」
茉爲宮が連れてきたのは、何故か水族館だった。
やっぱり、30歳の俺は、18歳の俺とは違うんだ。
水族館なんて、こんなとこガキの遠足の時来ただけだ。なんの思い入れもない。
百目鬼「…まさか。〝神さん〟と来た思い出の場所とか言うんじゃないのか」
マキ「…〝神さん〟と来たことはあるよ」
百目鬼「…口先では色々言ってるけど、やっぱ早く〝神さん〟に会いたいだけだろ!」
マキ「…ココは、僕と来た事あるけど、僕との思い出の場所じゃないよ。〝神さん〟の大切な場所」
苛立つ俺の言葉に動じない茉爲宮が、優しく微笑みながら水族館の中へと連れ込んだ。
足を骨折してる俺は、走って逃げることもできず、茉爲宮に連れられるまま、そこに連れてこられた。
やっぱり意味が分からねぇ…
水族館なんて、ガキとカップルが来るところだろ!
マキ「ここだよ」
茉爲宮が、立ち止まったのは、その水族館の中で一番大きな水槽の前だった。
大きな大きなガラスの向こうに、何種類もの魚がひしめき合って生活してる。
百目鬼「…」
小さな魚から大きな魚、群れを作るものから単独で泳ぐとの、そしてサメなんかも、同じ水槽の中にいた。
マキ「そこのベンチに座ろう」
大きな水槽に目を奪われたまま、茉爲宮に誘われベンチに腰掛けた。
水槽に圧倒される俺は、水槽から目が離せず。茉爲宮は静かな瞳で隣にいるだけで話しかけてはこなかった。
洞窟の中のような薄暗い空間に、透き通る青い水槽が広がってる。
ゆったり舞うように優雅な魚も、せわしなく動いて泳ぐ魚たちも、獰猛な牙のサメも、気持ちよさそうに泳いでる。
やがて、ショーの時間になり、人だかりが水槽の前にできた。魚の餌やりや、魚の生体なんかの説明があったが、盛り上がるお客が居る中、俺と茉爲宮だけは、違う空間にいるようだった。
その空間は、茉爲宮の言ったように、静かな時間だった。
ゆっくりと流れる海流のように、静かな静かな時間。
百目鬼「…俺は、…ここが好きなのか?」
何十分も時間が経ってから、ポツリと言葉にすると。茉爲宮は水槽を見つめたまま静かに答える。
マキ「そうだね」
百目鬼「…俺の大切な場所って…、俺と水族館となんの関係が…」
マキ「…〝神さん〟はね、何も言わなかったけど、何処かに出かけようって行き先に迷うと、大抵水族館に行くんだ。〝神さん〟は自分のこと短気で落ち着きがないって悩んでたけど、この大きな水槽を見てると、落ち着くみたいだったよ」
百目鬼「…」
茉爲宮の言ってることがなんとなくしっくり来た。
何故だかわからないけど、この水槽と、この空間に、俺は気持ちがこの青い水槽のように落ち着いていた。
落ち着いたと言っても、晴れやかに解決したとは違うが、ぐるぐる回ってた頭の中も、今はゆったり青い海の中で漂い、イラついた気持ちは何処かに溶けた。
マキ「…あなたは、どうしたい?
神…が、〝神さん〟の話を聞きたくないならしないし。聞きたいことがあるならなんでも教えるよ」
百目鬼「…」
マキ「僕に聞きづらいなら、賢史さんも協力してくれるし。他にも協力してくれる人がいるよ」
賢史は、友達だが、そこまで話をしたことがない。
俺は朱雀で、賢史は進学組だからな…
…そうだ…
百目鬼「…谷崎は…、谷崎って知ってるか?」
マキ「谷崎さん?、…朱雀の谷崎さん?」
茉爲宮は知ってるのか知らないのか分からない反応をした。
百目鬼「そうそう、世話焼きでやたら俺の相手してくれた奴なんだ、俺と同級で朱雀の谷崎。谷崎と話がしたい」
谷崎なら、きっと話ができる。
あいつとは腐れ縁で、色々知ってるから…
マキ「分かった。谷崎さんに連絡しておくね」
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