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アルバムをなぞる指先の決断26
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【side…………】
ーピリリリ♪、ピリリリ♪、ピリリリ…
夜22時過ぎ。
携帯の着信音が響いた。
カウンターキッチンのカウンターで食事をしていたら、隅に置いてある携帯がバイブ音と共に振動しする。
持ち主は、電話が掛かってきてる事に気付いて、飲みかけのお酒をカウンターに戻し、携帯の画面を覗き込んむ。
「え!?」
そこには、普段あまり電話してこない人物、〝マキ〟と表示されていて。携帯の持ち主、奏一は、驚いて携帯を直ぐ手に取った。
奏一「もしもしマキ?どうしたの?」
心配そうに、でも、可愛がってるマキからの電話にそわそわした様子の奏一。
奏一は仕事がすでに終っていて、帰宅して友達の家で食事をしていた。
奏一の「どうしたの?」に対して、受話器の向こう側のマキが答えるが、そのマキの声から受け取る表情に奏一の顔色が一瞬にして変わり、部屋の中の空気が張り詰める 。
別に電話の向こうのマキが泣いていたわけでも露骨に落ち込んだ声だったわけでもない。
ただ、静かに、慎重に、言葉を選ぶようなその声のトーンが、普段言いたい事を言わない修二が話がある時にする声の表情と似ていたし、改まって静かに話そうとするマキは、動揺を隠そうと必死に声を作ってるように聞こえたから…
マキに何かあったって事が一瞬でわかった。
マキは奏一に、忙しい中いきなり電話して申し訳ないと言ってくるから、そんな事はない、もう仕事は終わって寛いでいたところだと奏一が答えると、今度は「お休みのところごめんなさい」と申し訳なさそうに言い、随分と次の言葉を躊躇しているようにも聞こえた。
奏一が、そんなマキが安心出来るように、優しく話を即すと、マキは慎重な様子で話し出し、その改まった言葉遣いに奏一は、何か重大な話ではと推測していた。
奏一「………。俺にお願い?」
申し訳なさそうな謝罪の後、マキの口から出たのは、お願い事があります、だった。
普段人に頼らないマキからの突然のお願いに、なんだか少し緊張が走る。
奏一「何、どうしたの。力になれる事なら何でも力になるよ」
普段家族に、頑なに迷惑はかけたくないと1人で頑張ろうとする修二がいるので、マキという子がどれほど修二より頑なで言葉巧みに誤魔化し何でもかんでも1人で抱えて1人で解決しようとしてしまう、「人に頼る」という事を「迷惑かけるなんてありえない」と勘違いしている節のある頑固者なのを知っていた。
だから…
この「お願い」という言葉がどれほど重要な単語か分かっている。
だが…、だからと言って、可愛がってるマキに、何か良くない事が起こっていて、1人ではどうする事もできないから〝お願い〟してきた可能性はなるべく無い方がマキにとっても自分にとってもいいのだから、どうかそのお願いが重要な事で無い事を祈りたい気持ちでいた。
マキ『すいません奏一さん。谷崎さんの連絡先を教えてもらえませんか?』
予想したどの言葉も当たらず。
マキの口から意外な人物の名前が出た事に驚きながら、マキと谷崎が一緒にいた事なんかあったっけと思考を巡らせながら答えた。
奏一「谷崎?連絡先を教えるのは構わないけど、どうしたの?谷崎になんの用事?」
もしかしたら、谷崎にも、何かお願い事があって、自分ではなく谷崎に頼るのかと思うと、ガッカリしたような気持ちになりながら。
マキが谷崎に会った事あるのは、確か1.2回だったし、大勢いる中だったのにと思っていた。
マキ『……実は……』
マキの次の言葉に、奏一は電話口で思わず大声を出してしまった。
奏一「はぁッ?!事故?!」
ガタンと思わずカウンターの椅子から立ち上がる。だが、驚きはそこで終わらない。静かに冷静に淡々と語るマキからは、同じ単語が復唱されたが、今受けた衝撃よりも、さらに、マキの話の続きは想像を絶する自体になっていた。
奏一「ッッツ!?!?、記憶喪失ッ!?!!」
部屋に響き渡るほどの大声。
語られた事実に衝撃を感じながらも、無意識に大声を出してしまった事に戸惑いながら、改めて小声で聞き返す。
奏一「えっ?…、記憶喪失って、事故にあったって…」
一度聞いたけど、何故かそんな訳ないなんて気持ちがもう一度確認してしまい、マキの口から告げられた事に驚きを隠せない。
奏一「百目鬼がッ?!」
驚いてる自分が無意識にした復唱だったが、電話の向こうでマキは、淡々と繰りし答え、全てを語る。
マキだって当事者なのに、まるで本を読み上げるように淡々とし話すもんだから、流石にこっちが冷静じゃいられなくなって、マキが話す内容にいちいち口を挟むが、マキは、淡々と答えて話が進んで行く…
奏一「は?…2週間前って…、大丈夫なのか?、・・・、…えっ?退院した?!…、・・・、どおしてもっと早く…。・・・。ッ…謝らないで、俺は心配しただけで…。・・・。奴の事も心配だけど、俺はマキの事を…。・・・。大丈夫って感じじゃないぞ、こんな時に嘘ついてもしょうがないだろ?。・・・。マキ。・・・。マキ、今からそっちに行くから。・・・。駄目って、だって…。・・・。それはそうだけど、じゃあ自分の事は?。・・・。大丈夫って声じゃないよ、マキ、自分で分かってんだろ?だから俺に知らせなかったんだろ。・・・。マキ、いい子だから、こんな時に強がるな、百目鬼に忘れられて辛くない訳ないだろ、谷崎は呼ぶから。・・・。大丈夫、そこはちゃんと配慮する、コンビニでも行くって出て来ればいい、家の前まで行くから。・・・。マキ、大丈夫じゃないでしょ?マキが大丈夫だと思うかは今は関係ないんだよ、俺がマキが心配なの、俺が大丈夫じゃないの、夏に何も食べれなくなったのはどこの誰だっけ?修二を頼った癖に、頼った修二にすら気を使って嘘をついて痩せちゃって、俺が気がついて連れ出さなかったら、あのまま意地張ってたでしょ。俺が心配なの、心配で心配で胃に穴空いたらどうしてくれんの?。・・・。ずるくないでしょ?兎に角、5分でもいいから顔見せて、そしたら谷崎を呼んであげる」
自分は大丈夫。
百目鬼さんが、百目鬼さんが…
百目鬼さんのために…
辛いのは百目鬼さんだから…
自分より百目鬼さんが…
そればかり繰り返すマキを押し切って、奏一はマキと会う約束をして携帯を切った。
携帯を切ってすぐさま上着を着る。マキの気が変わってしまう前になんとか会わなくてはと気持ちが急いていて、奏一は重大なことを忘れていた。
その事に、奏一がマキと電話していたのをずっと聞いていた人物が気づいて止めに入いる。
「奏一、今からマキちゃんの所に行くの?どうやって?」
上着を着て靴下を履いてカバンを手に取ったところで、奏一は投げかけられた質問の意味に気が付いた。
奏一「うわっ…、俺、酒飲んでるわ…」
がっくりと肩を落とす奏一。
マキのいるところまで、車で行こうと思っていた。
電車は動いてるが帰りは無くなる。
タクシーを使うには、マキの住んでるところからこっちまでは車で40分するからかなりの金額になる。
奏一「誰かに…って、百目鬼の所じゃ誰も呼べねぇし……、どうしよう…」
目の前で落ち込む奏一に、先ほどはマキに自分に頼って欲しかったと言っていたのに、自分が何かする時は、ちっともこっちを頼ろうとはしないなぁと呆れながら、落ち込む奏一の方に手を置いた。
「私がいるでしょ?」
当たり前のことを言っただけなのに、奏一は申し訳ないとばかりに首を振る。
奏一「いやいや、彩さんに迷惑かけらんないよ」
そこにいたのは、忽那彩。
奏一は仕事終わりに忽那彩の家で一緒に食事をしていた。
忽那「迷惑かどうかは君が決めることじゃない、私がそうしたいからする。胃に穴が空いたらどうしてくれるの?でしょ」
今さっき、マキに言った言葉を使われて、奏一は剥れたが、忽那は優しく笑う。
忽那「まぁ、冗談は置いといて。事故だの記憶喪失だの聞こえましたよ。忘れたんですか?私の専門分野でしょ?奏一」
奏一「あっ…」
忽那「それに、一度会ってみたかったんですよね。
奏一が修二と同じくらい大好きで可愛がってる。
〝マキ〟に…」
忽那彩の優しい笑顔に、奏一は複雑な気持ちがした。
奏一「いや…、そういうんじゃ…、ただ…」
忽那「奏一は昔から、人に頼られるの大好きで、なのに一番甘やかしたい修二には甘えてもらえなかったから、意地っ張りな子を見つけると構い倒してましたけど、〝マキ〟ちゃんは特別可愛がってますよ」
奏一「いや…その…違くて…」
忽那「ふふっ、何をそんな慌ててるんですか?急ぐんでしょ?、私はただ、奏一の大切な人の一大事に利用できるものは使用しろって言ってるだけですよ」
奏一「あ、彩さんも飲んでたよね?」
忽那「乾杯の一口だけね。それとも今から誰か呼びますか?羚凰とか緋色とか、奏一の頼みなら飛んでくるだろうけど、行き先は百目鬼さんの所ですよね?」
奏一「うっ…」
忽那「さぁ、ぐずぐずしないで」
奏一「ご、ごめん彩さん」
忽那「謝らないで下さいよ。私だって奏一の役に立ちたいし、〝可愛がりたい〟んですよ。
それに、〝可愛いマキちゃん〟に、前々から会って見たかったんですよね」
奏一「…………彩さん、あの…」
忽那「心配しないで、ほら、車出しますよ」
奏一「っ!?、待って待って!」
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