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アルバムをなぞる指先の決断35
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目の前の綺麗な顔が、笑ったり、ほくそ笑んだり、おねだりしたり、拗ねたり、驚いたり。
俺の人生の中で、接することの少ない類の表情ばかりする。
この、女みたいな、しかもモデル級に綺麗なハーフ美人が、俺みたいなのの隣にいるのがやっぱり訳わからない。
これがごつい男が現れて、恋人だと言われた方がまだはっきり拒絶できるのに…
こんな細っこい体で抱きついてきたりして、チワワみたいにクリックリのデッカい目でうるうる見つめられたりしたら、どうしていいかわかんねぇし。
それに、女みたいだし。女だったら良かった…、女だったら普通に受け入れられ…
…たのか?
病院で目覚めて婚約者がいるって言われた時。女の恋人ができてたのかと安心するより先に、女の恋人なんてありえないって思った。ばあちゃんが喜んでるのを見て、やっと…、俺はばあちゃんに言えるような〝普通に戻ったんだ〟と安心した…
茉爲宮に自分は男で、男の恋人だと言われた時も、やっぱりってどこかで思ってた。
矛盾してる。
俺は…、男の泣き顔を見ると、湧き上がるなにか訳のわからないものに呑み込まれそうになる。
女に興味を持ったことも、可愛いとさえ思ったこともない…。
なのに、思ったんだ。
目が覚めて、茉爲宮が目の前で泣いてるのを見て…
俺死んだのか?…、天国?って…
俺は18年生きてきて、女に興味を持ったこともないし、ましてや可愛いと思ったこともない。
だけど…
今俺の隣で川を眺めるこいつを、綺麗で可愛らしいと思う…。
こいつが男だからか?
でも、女だと思った。病院にいる間はずっと、こいつを女だと思ってた…。
それとも、この訳のわからない感情は、俺のものじゃないんじゃないだろうか?
俺に…記憶がなくても、もう一人の俺が覚えてるのかも…。
茉爲宮優絆を見るたびに沸き起こる訳のわからない感情は、もう一人の俺のものなんじゃねぇのか?
じゃなきゃ説明がつかない。
だって、理解できない。
こいつに対して、こんなぐちゃぐちゃになるものを…
百目鬼「…やっぱ、無理だわ。お前のこと受け入れらんねぇ」
マキ「なぁに?まだ2時間ゲームして、散歩しながら河原に着いたばかりだよ?」
俺が拒絶を選んだとわかっていながら、茉爲宮はへらへらとした笑顔で振り返った。
風になびく髪を抑えながら、その顔はやっぱり綺麗だけど…、綺麗なものを綺麗だと感じるだけで、その先に特別なものはない…と思う。
百目鬼「お前には世話になってる。だからちゃんと考えた。だけどやっぱ何にも分かんねぇし。記憶が戻る気配すらないし、男の恋人とか無理だ。俺は普通になりたい」
マキ「…普通に〝なりたい〟?。今は普通じゃないの?」
また、茉爲宮が見透かしたような目をする。
誤魔化したいのに誤魔化せない。こいつは、30歳の俺から何もかも聞いてるんだ。
親友を好きだったことも…、涙に欲情したことも…。その後のことも…
百目鬼「…俺が認めなくても…、お前は知ってるんだろ…」
マキ「…うん。18歳までの事も、その先のことも」
百目鬼「はぁ…」
足掻いて消し去ろうとしても、こいつの存在そのものが証拠って訳か…
マキ「でも、僕の知ってるのは、30歳の神さんの話。だから、聞かせて、今の君の話。今の神は、何に苦しんで、何を普通と考えて、どんな未来を望むの?」
真っ直ぐな綺麗な瞳が見上げてる。
知ってるはずなのに、知りたいと言う。俺が、俺と神さんは別の人間だと言ったことを気遣うみたいに…。
百目鬼「なんだそりゃ」
マキ「照れない照れない♪」
百目鬼「だから、照れてねぇ。お前いい加減にしないとぶっ飛ばすぞ」
脅してもすごんでも、その瞳は恐怖に染まらない。
どこかワクワクしたような、それでいて気遣うような優しい眼差しで俺を見つめる。
マキ「神はさ、どんな人がタイプなの?」
百目鬼「は?」
マキ「初恋の親友は…」
百目鬼「バカッ!初恋とか言うなッ!あいつは友達だ友達!」
マキ「じゃ、〝友達〟の彼の、どんなところが好きだったの?」
百目鬼「好きとかじゃねぇから!」
マキ「ふふ♪、肩に力入りすぎ。likeの方ね、〝友達として〟どこが好きだったの?」
そういうことにしとくって言いたげな目をして、そんなことを言う茉爲宮。
「じゃ」ってなんだ「じゃ」って!!
百目鬼「どこって…」
マキ「例えば、口は悪いけど優しくて世話焼きで料理上手。すっごい強いのに可愛いところがいっぱいあるぅーとか♪」
百目鬼「おいっ」
マキ「やだなぁ、真面目に話してるんだよ♪それで?親友くんのどこが好きで友達になったの?」
なんでこんな話しなきゃなんねぇーんだ。
百目鬼「…なんでもいいだろ」
マキ「今の神のこと、ちゃんと知りたい。君と神さんは違う、一緒にするなって言うなら、ちゃんと教えてよ、君のこと。全部知りたい。
あなたは、記憶がなくて訳のわからない世界に放り出されて、でも、おばあちゃんに心配かけたくなくて、記憶もない知らない私と住んでる家に来た。でも、ずっと帰りたかったでしょ。自分の記憶にある家に、おばあちゃんとおじいちゃんの居る定食屋さんに」
百目鬼「ちがッ…」
急に真顔になるなよ…
綺麗な面が真顔になると…
なんか迫力あんだよ…
マキ「私が知ってるのは、アルバムの中の君。話は聞いたけど、それは今の君のことじゃない。きっと過去の気持ちを整理した大人の神さんの話だ。だから、アルバムの中じゃない、リアルの君の声が聞きたい。整理できてなくていい、分からなくていい、ぐちゃぐちゃのめちゃくちゃな感情でいい、言葉にならないような憤りも悲しみも、渦巻くフラストレーション全部、私に話して」
こんな強い眼差しを向けられたのは、ばあちゃんとじいちゃんと、朱雀のリーダー以外いない…
俺に向けられる眼差しはいつも、恐怖か憎悪ばかり…
なぜなんだ…
こんな華奢で女みたいな奴が
どうして俺を怖がらない…
どうして…
こいつはこんな強い目が出来る?
俺なんかに…
こんな真っ直ぐ…
百目鬼「……」
マキ「私は、どんな百目鬼神も知りたいし、何を聞いても変わらない。あなたの味方だから」
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