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アルバムをなぞる指先の決断36
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【side百目鬼】
マキ「私を、得体の知れない野郎だって疑ってるのは知ってる。けど、私を信じてほしい。なにを話しても、神が傷つく事は起こらない。だから、今抱えてる気持ちを全部私に教えて」
優しくて真剣な瞳。
色白の細い指が、俺の手を握りしめる。
華奢で頼りないその細い指が、ビックリするぐらい強く俺の手を掴んで離さない。
茉爲宮優絆は得体が知れない…
こいつには世話になってるけど、信じる事はできない。
俺にとっては突然現れた人物で
こいつを認めるという事は
俺がゲイで、こいつと養子縁組を組むつもりであった事を受け入れた事になる。
それだけは無理だ。
あんなに、嫁が出来たと喜んでるばあちゃんを悲しませる事になる。
だけど…
俺だってバカじゃない…
茉爲宮がどれだけ真剣なのかも…
どれだけ〝神さん〟を愛してるのかも…
その目を見れば分かる。
茉爲宮といると訳がわからなくて苦しいけど…
こいつといる空間はどこか実家にいるのと似てる
俺を怖がらず、俺が反抗してもその瞳は変わらない。
朝になったら温かい朝飯があって、お節介なばあちゃんと、無口で頑固だけど俺を否定しないじいちゃん。そんな実家みたいな空間。
二人が俺に向けてるあの瞳に、茉爲宮の瞳は似てる……、いや、茉爲宮の方が…熱っぽくて卑猥か…。
子供みたいに笑ってる時は似てるけど、悪戯っぽく笑ってる時と…、夜、寝る寸前に「おやすみ」って言ってきてる時の瞳は、どこか潤んでて…熱っぽくて…直視できない艶?…ぽくて…、困る。
俺だってバカじゃない。
恋人だっていう俺から、全部忘れられたこいつが、辛いんだろうなって事くらい分かる。
好きだった人に忘れられて無かったことにされたら…、どんなに傷つくかくらい…
『可愛い可愛い神、大好きよ。大きくなってもずっとママと一緒にいてね』
『邪魔だったのよ!あんたが私を不幸にするの!!』
頭の中で響いたヒステリックな母親の声。
あんなに愛情いっぱいの瞳で優しく抱きしめてずっと一緒にいようと言ったのに、その瞳は憎悪に満ちていて、二度と触れ合う事はなく…
『あんたが居るから不幸になったの!!』
存在を全否定された…
一番愛してくれていた人が…
一番忌み嫌った
お前が生まれたのは間違いだったと…
なにも信じられず
生きる意味もわからず…
荒れて荒んで…父親からは見て見ぬ振りをされ
じいちゃんとばあちゃんだけがそんな俺を引っ叩いて引きずってでも道を踏み外させなかった…
俺に対して真撃で真っ直ぐに…
今の茉爲宮みたいに…
それだけは…
ちゃんと分かる…
俺を、受け入れてくれてる瞳
俺を愛してくれてる瞳
…
俺を?
愛…
百目鬼「ッ!、放せよ!!」
マキ「いや、話してくれるまで離さない」
百目鬼「お前いちいち近いんだよ!」
マキ「いちいち照れなでよ初心だなぁ」
百目鬼「うッ?…、初心じゃねぇ!!」
マキ「恥ずかしがり屋さん」
百目鬼「恥ずかしがり屋じゃねぇ!お前がおかしいだけだ!」
マキ「なんで?」
百目鬼「何でって!いちいちなんかこう…、…、とにかく離せ!!」
マキ「あー♡もー♡、可愛すぎなんだからッ♡」
突然ガバッと抱きつかれて、その柔らかくてあったかい感触に頭のネジが吹っ飛んで機能が全停止した。
固まったのをいいことに、茉爲宮はすりすり頬を摺り寄せて、愛おしそうにはしゃいだかと思ったら、俺の耳元で熱っぽく囁いた。
マキ「大好き」
マキ「大好きだよ…」
熱っぽい声は溢れ出し、溢れ出した熱に震え…
掠れて消える
マキ「大好きだよ……」
その先に続く名前を呼べないまま…
百目鬼「……おい」
マキ「だめ…」
肩が濡れて熱い。
茉爲宮を引き剥がそうとしたが、茉爲宮は俺の首にしがみついて離れない。
震えてるのに、その腕はガッチリ絡みついてて。茉爲宮は知ってるんだ。今の顔を俺に見せちゃいけないって…
そうだろう…
だって顔を見ていないのに、俺の体の中は溢れ出しそうな何かが渦巻いて、身体中ビリビリ痛いくらいだ…
百目鬼「…勘弁してくれよ…」
マキ「ごめん…気持ち悪いよね」
俺の肩に顔を埋めたままの茉爲宮が消え入りそうな声で聞いてきたが、それは違う。
百目鬼「ちげーよ。ぐちゃぐちゃなんだよ、訳わかんなくなってどうにかなりそうなんだよ」
マキ「…、抱きつかれて、気持ち悪いとかはないの?」
なにを思ったのか、キュッと抱きつき直した茉爲宮。
そんなこいつをもう一度引き剥がそうとしたが出来なくて、諦めたように言った。
百目鬼「じゃなくて、訳わかんなくなるからやめろって」
その返答が間違いだった。
マキ「どんな風に?」
隠れるようにしていた顔が真っ直ぐ俺を見上げる。
潤んだ瞳の上目遣い。
長いまつげに水滴がつきっぱなしで、瞬きするたびにキラキラと散りばめられて、赤く腫ぼったいその目元に、俺の心臓は大爆発。
百目鬼「ッッッッ!!!!!!!!」
マキ「ぁ…」
茉爲宮の潤んだ瞳が下の方に視線を移し、そして嬉しそうにキラキラして戻ってくる。
マキ「ふふふっ♪」
百目鬼「ッ…、離れろよ」
マキ「周りにバレちゃうよ?」
ここは河原で、いつ誰かに見られてもおかしくない。だけど、今は人はいないし、このままくっついてる方が問題だ。
百目鬼「離れろ…」
マキ「…っ…神」
潤んだ瞳が熱っぽく揺れて、そして躊躇うように恥ずかしがってその名を口にする。
そのギャップ…
マキ「…大好き…、大好きだから、それだけは聞けない。私のこと嫌いでも、離れることだけは出来ない」
百目鬼「違ッ…、嫌ってねーし」
マキ「?」
百目鬼「卑怯だぞ、俺の苦手なもん知ってるくせに、離れろってーのは、今だよ今、お前が密着してっと収まるもんも収まらねぇ!」
マキ「…私が密着してると収まらないの?」
百目鬼「泣き顔どうにかしろって言ってんだよ!あと!お前の体、アチーんだよ」
だめだ!その目で見んな!
腕に力を入れて密着すんな!
マキ「熱くなってるのは、神だよ?」
百目鬼「ッ……」
マキ「……神…」
躊躇しながらだった唇が、はっきりと愛おしそうにその名を呼んだ。
潤んだ瞳いっぱいに俺の姿を映しながら…
瞬きしてキラキラして
そしてまたその瞳いっぱいに俺しか映らない
百目鬼「…」
マキ「…」
俺の全身心臓みたいにバクバクして
その瞳に吸い込まれる
潤む瞳に溢れ出る感情に抗えない
百目鬼「…」
マキ「…」
震えて一瞬触れたら、
それは禁断の果実のように甘く痺れて、
鳴り響く危険信号のような全身の痺れをぶっ飛ばし
世界の音を掻き消した静寂の中、
やわらかに触れた…
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