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アルバムをなぞる指先の決断39
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おばあちゃんから、たくさん神さんの昔話を聞いた。
小さい頃はすぐ風邪引いて病院の常連だったこと。幼稚園の時は友達とうまくしゃべれず孤立気味だったこと。誕生日プレゼントに何が欲しいか聞いても答えてくれず、おじいちゃんと2人で毎年悩んだこと。負けず嫌いというか決めた事は譲れない無口で頑固なおじいちゃんに似て融通が利かない、自分の事は自分でやり、学生の頃は自習をかなりやってて成績が良い方だけど、他校生や校内でも喧嘩したり、理不尽な先生に反抗したりして良く学校に呼び出されたこと。
おばあちゃんは、アルバムの中の白地に紅い朱雀の刺繍のある特攻服姿の神さんを愛おしそうに指で撫でながらしみじみ口にした。
祖母「神に、こんな綺麗で可愛いお嫁さんが出来るなんてねぇ…。優しいけど不器用で、うまく人付き合いできないし、無口で頑固で、何考えてるかちっとも言ってくれないし、こんな素敵なお嬢さんと付き合ってたのに教えてもくれないし。マキちゃんは、本当に神でいいの?」
マキ「神さんが良いんです」
おばあちゃんと話していたが、断言した僕に家族中の視線が集まった。みんな違う話をしている風で、僕の話を聞いてる。
マキ「この素敵な家族に囲まれて、優しさをいっぱい内に秘めた神さんだから好きなんです」
写真の中の特攻服姿の凶暴そうな神さんも、ずっとうまく表現できなかっただけで、心の中には僕と出会った時に持ってた世話好きな優しさも、心配性な優しさも、たくさん持ってた。
見た目はどんなでも、中身は変わらない。
アルバムの写真の神さんに触れてゆっくりなぞる。
彼の凶暴な瞳を…、まだ制御がきかず、孤独に飢えた瞳…
マキ「…確かに、言葉にするのは苦手な方ですけど、頑固な職人気質な真っ直ぐさはとても誠実で、こうと決めたら曲げない一途な姿に一番好感を抱きました。一途な神さんに好きになってもらえたらどんなに幸せだろうって…、私が一方的に好きになって、いっぱいアピールして振り向いてもらったんです」
何度も何度も追い払われて、駄目だと怒鳴られ罵声を浴びせられても、諦められなくて、諦めさせてくれなくて、神さんは本気で僕を遠ざけはしなかった。
出て行けと言うから出て行こうとしたら引き止めて、賢史さんをあてがうようなことしたのに嫉妬して…
僕の馬鹿な行動に怒って別れた時も…、僕を攫って連れて帰ってくれた…。
何度終わりが見えても、何度も始まって、決して僕と神さんの関係が切れることはなかった…
アルバムの中に増えた思い出の数だけ色鮮やかに濃くなって溺れて…、離れられなくなって、いつの間にか、僕たちは大丈夫だと思えるようになって…。
ううん…。
思わせてくれた…、神さんが。僕と神さんはいろいろあるけど、それでも離れたりしないって、思わせてくれた。
なのに…僕とのアルバム(思い出)ごと消えてしまうなんて…
マキ「私から好きになったんです。何度も何度も告白して…。だから、神さんが私で良いのかって方が心配でした…」
神さんには好きな人がいた…
傷心を癒すためと惚れ薬を使った…
何もかも塗りつぶすように作ったアルバム(思い出)
マキ「優しい優しい神さんに、至らない私なんかでいいのか…」
祖母「まぁまぁ、至らないなんてそんな、神にはもったいないくらい素敵すぎなお嬢さんなのよ。まぁまぁそうなの、マキちゃんからだったの。マキちゃんに好かれるなんて幸せ者よ。こんな怖い顔した不器用な子にはもったいないくらいなんだから」
家族のみんなが、僕からのアプローチだと聞いて驚いた顔して、「そうなの?、こんな美人に惚れられたの?兄ちゃん」って神の方を見るけど、神にとっては知らない話だから、集まった視線に対して「いや、俺もびっくりだし。ってか知らねーよ!」って顔。
そんな中、ただ1人、蘭さんだけが、僕の顔をジッと探るような瞳で見てた。
楽しい食事会はあっという間に終わって、義理の兄弟たちが子供達を連れて帰っていく。
家の中があんなに賑やかだったのに、残ったのはおばあちゃんおじいちゃんと、義理の母親と、蘭さんと凛さん家族。
義理の母親は後片付けをしに台所へ、凛さんは一旦子供達を寝かしに2階へ上がり、一階の部屋には、おじいちゃんおばあちゃんと蘭さんと神だけ。
祖母「神とマキちゃん、今日はもう遅いから、泊まっていったら、お布団ならあるし」
おばあちゃんがそう言うと、神は慌てて止めに入る。
百目鬼「やめろよ。…ッ…こいつ…、明日用事あるんだよ。俺はいいけど、こいつは駄目だから」
…。神が、僕の明日の予定を知ってるわけないんだけどなぁ…。
…原因は分かってる。さっき河原でキスしちゃったから、僕と一緒に居たくないんだ。
祖母「なに照れてんのよ神。結婚前なんだから部屋は別々よ」
百目鬼「はあ?!、だから!、照れてないって!」
祖母「あんた、目覚めた瞬間から、この綺麗で可愛らしい人は誰だって言ってたじゃない」
百目鬼「それは見た目の話だろうが!綺麗なもん綺麗だってったらどうして照れたことになんだよ!」
……。
祖母「あんた昔から、恥ずかしがると耳が赤くなるのよ。マキちゃんの前だといっつも真っ赤っかじゃない」
……。
百目鬼「ッ!!、これはッ、ちげーし!」
神さんが家族と会話してるの聞くのは嬉しいんだけど、こういうやりとりは僕よ聞こえないところでやってくれないかな…、こっちまで恥ずかしいよ…
祖母「それに、こんな夜道を女の子だけで返すつもり?こんな可愛い子を、ん?」
百目鬼「……、それは…、俺が駅まで送っ…」
蘭「おばあちゃん、おばあちゃんの部屋と、客間に予備の布団出しといたよ」
百目鬼「蘭ッ!てめー!」
2人のやり取りの結末が分かってるみたいに、蘭さんが一声かけると、神は顔を真っ赤にして怒ったけど、蘭さんも慣れっこな感じでハイハイ返事してるだけ。
僕はちょっと驚いてた。
蘭さんは、僕が泊まるのを全力で嫌がると思ったから…。
蘭さんを見ても、その瞳が真っ直ぐ交わることはない。何か言いたそうな瞳がチラッと覗いては、プイッとそっぽを向いてしまう。
…蘭さんは、いったい何を僕に聞きたいのだろう?
彼女の気持ちを悟るには、彼女の情報が少なすぎる。
そうこう考えてるうちに、神さんはおばあちゃんの言うことに逆らえず、僕もココに泊まることになった。神は僕を避けるようにおばあちゃんとおじいちゃんの部屋に逃げ込んで、他の家族も各自部屋に入っていった。
六畳の広い客間の畳の上にひかれた敷布団。
清史郎さんと住んでた時以来だなぁ…。
広い部屋に布団一枚、懐かしい光景に、なんだかため息が出た。
別にどうこう思うことでもないけど…、ここ最近は、ベッドで神さんの隣か、修二たちと賑やかな雑魚寝ばかりだったから、自然と漏れたものだった。
冬の2月。
暖房で暖かい空気があっても、布団は冷蔵庫みたいにひんやりと冷たい。
まぁ、たとえこの布団がぬくぬくの暖かい布団でも、眠れないから関係ないけどね。
冷えた布団に入りながら、さっきまで賑やかだったのを思い出す。
兄弟たちとの触れ合いに、子供達との戯れ。困った顔して眉間にしわ寄せる神が、それでもなんとかコミニュケーション取ろうと頑張って優しくしてる姿が可愛くて仕方なかった。
それにおばあちゃんが聞かせてくれた昔の神さん。
神さんから聞く話とちょっと違ったり、神さんからは聞いてなかった話もいっぱい聞けて楽しかった。神さんのアルバムには抜けていた、朱雀の写真の中に、奏一さんと修二の写ってるものもあって、3人が仲良さそうで、神さんの大事に守りたかったものが見れて嬉しかった。
ただ…、
神さんのアルバムにはあったのに、おばあちゃんのアルバムには極端に少ない写真があった。
それは………
ーートントン
家の人たちが寝静まった時間、部屋の襖を遠慮がちにノックする音が聞こえた。
マキ「はい」
起き上がって部屋の電気をつけてみると、開いた襖の向こうにいたのは、おばあちゃんだった。
祖母「寒いでしょう、湯たんぽを持ってきたから、使ってちょうだい」
マキ「ありがとうございます」
そう言って渡された湯たんぽの他に、おばあちゃんは小さな四角い缶を持っていた。年代物みたいで所々錆のあるハガキサイズぐらいの缶。
祖母「今日は疲れたでしょ」
マキ「いいえ、凄く楽しかったです」
祖母「おばあちゃんの昔話ばかりに付き合わせちゃったね」
マキ「私、ずっと神さんの子供の頃の話が聞きたいとおもっていたから、本当に楽しかったですよ。まだまだ聞き足りないくらいです」
祖母「……マキちゃんは、本当に神が好きなんだね」
マキ「はい、大好きです」
真っ直ぐ見つめて即答すると、おばあちゃんはどこか緊張感が解けたように安心した、のに、その瞳は自信なさげに俯いて、手にしていた四角い缶を握りしめた。
祖母「…記憶をなくす前の神は、マキちゃんと…その…上手くいってたかい?」
マキ「神さんは、とても優しい人で、私を大事に大事にしてくれました。私が我儘で勝手なことするから怒られることもあるけど、全部愛情表現だって分かってます。私は、不器用だけど一生懸命で、常に良くあろうと葛藤して真っ直ぐな神さんだから好きになりました。大人になってから、自分を変えられる人はなかなかいません。神さんは、顔は怖いけど、心は誰より優しく誠実で、綺麗な人です。ただ、それを上手く相手に伝えるのが苦手なだけ。私は分かってます。不器用に頑張る神さんだから好きになりました。どうしようもない私とも、真正面から向き合ってくれる人です。自信のない私に、自信をもたせてくれた人です。神さんは、今の私の全てです」
祖母「……」
マキ「…神さんのことなら何でも知りたい。神さんが朱雀にいたことも、荒れた時期があったのも全て知っています。神さんは私に、家族のアルバムを見せてくれました。家族になるために、お互いの思い出を交換しようって」
祖母「まぁ…」
マキ「…だけど、神さんの話にも、おばあちゃんから見せてもらったアルバムにも、足りないものがありました」
祖母「…」
マキ「それを、話してくださるんですよね?」
おばあちゃんの握りしめる缶を見つめてそう言うと、おばあちゃんは、覚悟を決めたようにそっとその缶を開けた。
祖母「……神の…、産みの親の話を……してもいいかしら…」
マキ「是非」
缶の中に入っていたのは、神さんの産みの母と、実の父親の2人が幸せそうに映った結婚式の写真。
花嫁のお腹は、すでに大きくなっていて、花嫁はお腹を大事そうにさすっていた。
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