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アルバムをなぞる指先の決断40
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神さんの産みの母親は、施設育ちの孤独で華奢な女性だった。
15歳で施設を出た彼女は、アルバイトを掛け持ちしながら夜間高校へ通い、高校卒業後就職し上京、5年勤めたが、人間関係が原因で転職し、その会社で先輩だった神さんのお父さんと出会った。
2人は出会ってから半年でお付き合いを始め、1年後にデキ婚。26歳の時に長男の神さんを産んだ。
夫婦の仲はとても良く、旦那さんにそっくりの神さんを溺愛していた。
しかし、夫婦の仲は、少しずつギクシャクしていく。
神さんの母親は生い立ちのせいか、家族や恋人に強い執着があり寂しがりやだった。今までは同じ職場で毎日一緒だった夫とは、専業主婦になってから会って話せるのは朝の出勤前と夜帰宅し寝るまでの数時間。そのせいか束縛は増すばかり、父親はそれを避けるように、数時間あった会話もだんだん減ってきて、母親はそれを補うように夫にメールや電話をする回数が増えた。夫婦の溝は深まるばかり、最初はあった返信も、あまりの量にだんだん返ってこなくなり、夫婦の仲はあっという間にギスギスしていった。
妻の束縛と夜泣きの酷い赤ちゃんに耐えられなくなり、神さんの父親は癒しを求め会社の後輩と浮気。それをきっかに家族は崩壊していく。
神さんは1歳になったばかりだった
浮気はすぐにバレ、神さんの母親の精神的ショックが酷く徐々に病んでいく。
帰らない旦那。それを補う矛先は、旦那そっくりの神さんに向かった。神さんを今まで以上に溺愛し、とても可愛がっていて、端から見たら子供を大事にしてる微笑ましい親子だった。
しかし…
相手は所詮赤ちゃん、会話らしい会話はまだできず、一方的にしゃべるばかり、その会話は、だんだんと親子の会話ではなくなっていき、病んで毎晩泣く母親を止められる人はいなかった。
『神はパパのようにならないでね。大事な人を1人にする酷い人になっちゃダメよ。パパのようにならないで、神はママと一緒にいてね。ママとずっと一緒にいてね』
神さんは、そんな母親を、『僕が守ってあげる』と抱きしめる優しい子だった。
病気がちで、体が小さかったが、お母さんが大好きだった。
そして誰もが、子ども想いの母親、母親想いの子供だと話していた。
外からでは分からない変化に気づかないまま、幼い神さんだけが、その変わりゆく激流に晒されたまま、日々は過ぎていく…
近所ではこう噂されていた。
旦那は浮気して家に寄り付かない。妻は病気がちな子供を支えながら、保育園に預けてパートに出る頑張り屋。
事実は、数年の間に変わっていたのに。
神さんが小学校に上がったばかりの6歳の時、夫婦の離婚が決まった。
きっかけは、近所の人の通報だった。
「小さい子供がベランダでお母さんを呼んでずっと泣いている」
と…。
その日、神さんは熱が出て、学校に行けなかった。
だけど母親は神さんを置いて出掛けていた。
パート先の浮気相手に会いに…
夫婦は、神さんの目の前で大げんかした。
罵り合い、物を投げつけ殴り合いに発展。
慰謝料を払えと怒鳴り、浮気はあんたが先だとか、今浮気してるのはお前だと叫び、子供をどっちが引き取るかで揉めた。
「お前母親だろ!」「あんたの子なんかいらない!」「俺はひき取らねーぞ」「私だっていらないわよ!」
神さんを目の前に近所にも聞こえる声で怒鳴り合い。
それが…何日も続いた。
そしてついに、父親は帰らなくなった。
家の中は、夫婦喧嘩でめちゃくちゃ、まるで地震後のように、いろいろなものが倒れ、落ちて割れていた。母親は荷物をまとめ、出て行く時に、泣いて縋る小さな小さな神さんの手を振り払い、鬼の形相で怒鳴り散らした。
「あんたのせいよ!、あんたのせいでこうなった、あんたがいたからこんな不幸になった…、あんたが居るから不幸になったのよ!!」
そう言い放ち、出て行った。
小さな小さな神さんだけを残して…
祖母「神は、その家に丸一日放置されてたの。離婚したと聞いて、私とおじいちゃんは神のことが心配で心配で、なのにバカ息子は母親が引き取ったと言ったの、病気の子どもを放置した人なのに。だから電話したの、神のことが心配だから会いたいって、そしたら、家に置いてきたって…」
マキ「…」
祖母「私たちが迎えに行った時、神はボロボロだった、母親が出て行く時に言ったことに傷ついてずっと泣いてた。」
マキ「……」
祖母「なんて言われたのか聞いたら、神は泣きながらこう言ったの。『僕の…存在が、みんなを不幸にするんだ』。赤ちゃんの頃は目に入れても痛くないほど溺愛してたのに、あんなに可愛がってたのに、手のひら返した上に、存在が不幸にするなんて恐ろしい言葉を小さかった神に投げつけるなんて…」
マキ「………」
祖母「……マキちゃん、ありがとう。神のために泣いてくれて」
溢れてた。
涙ぐむおばあちゃんに言われるまで気が付かなかった。僕の頬は、洪水みたいに瞳から溢れる涙が止まらない。話の途中から泣いてたのか、首や襟元まで濡れて、正座して手を置いていた膝と手がぼたぼた落ちてくる雫でびっしょりに…。
悲しいとか…苦しいとか…痛いとか…、どれでもあってどれでも無い、全部表現としては生温くて当てはまらない、そんなぐちゃぐちゃの感情に溢れてた。
ただ、これだけは言える
今までは生きてきた中で、一番行き場の無い涙だった
自分の出来事じゃ無いのに自分のことのようで
自分のことのようなのにもっともっと激しく
どうすることのできない涙だった
溢れて溢れて止まらない
苦しくて悲しくて、心の中で爪を立ててもがきたいほどどうしようも無い悲痛な感情で溢れかえって止まらない
(神さん…神さん…)
今すぐ抱きしめたい
今すぐ会って好きだと伝えたい
今すぐ会って抱きしめて教えてあげたい
〝僕らは〟神さんが大好きだって
(神さんに出会えて良かったって思ってる人がいっぱいいるんだって)
『…マキ、好きだ』
(ッ…僕もッ…ヒっ…ぅっ…、僕もだよ神さん!)
『俺は、お前を泣かしてばかりだな』
(違う!!嬉し涙だもん!…ッ…神さんが僕を好きでいてくれて、僕も神さんが大好きだからだもん!)
『泣くな』
(泣いてない、悲しいんじゃない!神さんといられて幸せなんだ!)
『俺は、お前を泣かして喜ぶような男だ』
(泣かされてない!泣かされてないもん!)
祖母「マキちゃんにこの話をしたのは、神の事誤解しないでほしいからなの。神は、過去の事が傷になって上手くできないことがあって。神が、何かあなたを悲しませるようなことをしてばかりいないかしら。神は口下手で乱暴な物言いばかりで、ぶっきら棒だけど、根は優しい思いやりのある子なの、だけど、大事にしたい物や人ほど上手くできなくて、本当に下手くそで、大事にしたいのに大事にできてないの。猫を拾ってきたって話したじゃない?その猫ね、神が可愛がり過ぎて逃げてしまったの。小学校でアサガオを持ち帰った時、水をやりすぎて枯らしてしまったり、義理兄弟ができた時は、蘭に懐かれて嬉しかったはずなのに、猫やアサガオのことと同じにしたくなくて素っ気なくしたり、ちっとも上手くできない子なの。
だから……」
マキ「知ってます。神さんが上手くできないこと…、不器用なこと…、だけど一生懸命で一途で、私は、神さんのそこが一番好きなんです」
祖母「…ありがとう、…ありがとうマキちゃん…」
神さん
神さん
今すぐぎゅうぎゅうに抱きしめて伝えたい気持ちがいっぱいあるよ…
神さん…
神さん…
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