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アルバムをなぞる指先の決断44
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礼「わぁー、辺り一面真っ白だよ。マキちゃん、みみちゃん見て見てー!」
午前中からチラチラ降り出した雪は、14時には道路以外の場所を全て白くしてしまった。
大学の友達、礼(あきら)ちゃんは、雪を見た犬のようにはしゃいでた。
対照的に、みみちゃんはコタツで丸まる猫のようにコートに包まってブルブル震えてる。
みみ「窓開けないでよ礼ぁ、寒い!」
礼「あははっ、みぃーちゃんホント寒がり」
賑やかな2人。みみちゃんに睨まれた礼ちゃんが窓を閉める。雪の予報は、天気予報より全てが早まっていた。降り始めも雪の量も。
雪で、真っ白の世界が広がる。きっと神さんの頭のなかもこんな感じなんだろう。僕に関する記憶、僕との思い出のアルバムごと全部真っ白。
悲観するつもりはない、苦しんでる時間なんかない、純粋な幼い神くんを知れて良かったとも思ってるのは本当だし、彼は可愛い。
…ただ、夜になると、無性にどうにもできない虚無が襲う。何もできない無情な時間だけが過ぎて行く。
待つのは苦じゃない、神さんが回復するのをゆっくり待てばいいって分かってる。それまで可愛い神くんを見て楽しめばいい。だけど、体が待つことができない…。神さんの温もりに包まれることに、神さんの熱に貫かれることに、神さんの激情に溶かされることに…。
外は、こんなに寒いのに、僕の体は邪な熱で寒さなんか感じない…
神さんを手助けする立場の僕の頭の中は、とても人に見せられない思考で爛れてる。
だから、カミサマがこうしたのかもしれない…
さっき、講義中にメールが来た。
蘭さんからだ。
雪で、電車が止まってしまってるのと、神くんが昨日から頭が痛いと言ってて、風邪かもしれないから大事を取り寝かせておきたい、って内容のものだった。
まぁ、帰ってこなくなるかもっていうのは想定内。
ただ、この大雪は予想してなかった…
落ち込んでるつもりはなかったけど、持て余してる熱で純粋な神くんを襲って汚す心配がなくなったと思う自分に呆れ、携帯を握りしめたままため息ついたのを、礼ちゃんとみみちゃんが心配して2人で目配せし合ったのが視界の端に映った。
礼「…」
みみ「…」
礼「マキちゃん、なんかあった?」
2人は、僕と神さんの関係を知っているから、言葉にはしなかったけど、何かあったの?の前に、「百目鬼さんと」って顔に書いてある。
マキ「あぁ、違う違う。今日も帰ってこれないって言われただけ」
頭のいい2人は、僕の言葉の意味を探って顔をしかめた。まぁ、むつや華南をやり込めるのとは訳が違う、2人は心理学を学ぶ仲間だ。
礼「なんか、それ1月の後半から言ってない?もう直ぐバレンタインだよ。喧嘩?」
マキ「ふふっ♪、実家に帰ってるだけだよ。おばあちゃんのお手伝いしてるんだ」
そう言ったのに、みみちゃんはコートに包まったまま残念そうに口にする。
みみ「喧嘩したんだぁ…。まぁ、百目鬼さんじゃ仕方ないよね」
マキ「…、百目鬼さんは悪くないよ。悪いのは僕だから」
みみちゃんは僕をチラッと見て、また残念そうに
みみ「あんなに独占欲強かったらしょうがないよね。まぁ、原因があるとすれば、マキちゃんが綺麗すぎて可愛すぎて意地っ張り過ぎるからだよね」
マキ「…みみちゃん…」
みみちゃんは遠回しに、僕の「百目鬼さんは悪くない、悪いのは僕」発言を注意してる。
それは、隣にいる礼ちゃんも同じ。
礼「だよねー。マキちゃんが超絶美人でスペシャルプリティーなのがいけないよねぇ」
マキ「礼ちゃんまで…」
礼「もう直ぐバレンタインだしさ、そこでちゃんと仲直りしなよ。甘ぁーいチョコプレゼントしてさ、甘ぁーい一夜を…、あっ!マキちゃん自身にリボンつけて、チョコを飾って、裸(なま)チョコも捨てがたいよね!」
マキ「礼ちゃん…、ヨダレ出てるよ」
礼「キャッ♡」
もう直ぐ待ちに待ったバレンタインデー。
の、はずだったけど、日本は雪雲に覆われて大雪。
せっかくもう直ぐ訪れるバレンタインも、降り積もった雪が溶けずに雪に埋もれそう。
まぁ、神さんがあのままだったら、バレンタインケーキ作っても神さんには食べてもらえない。
それに、神くん用に作っても、食べてもらえるか分からないし、きっと神くんのことだから、「俺に作ったんじゃないだろ!」って怒るんだろうなぁ…
雪は、僕から何もかも奪う。
神さんの記憶も、神さんの帰る道も、…そして僕の帰りの電車も…。
雪で交通機関が麻痺して、僕が乗るはずの電車は止まっていた。
幸いバスは動いていたけど、みんな考えることは同じだから長蛇の列だし、僕の帰る場所に真っ直ぐ向かうバスはないから途中から歩かなきゃならない。
家に帰っても神さんがいないと思うと足取りも重くて、途中で休憩するために喫茶店に入った。
レトロな感じのそのお店は、少し混んでて、たまたま入ったお店だけど、とても美味しそうな香ばしいコーヒーの匂いに包まれてて、当たりだって直ぐにわかった。
メニューはシンプルで、コーヒー専門店って感じでコーヒーが並び、軽食が三種類、サンドイッチとナポリタンと
マキ「あっ、フレンチトースト」
お腹はそんなに空いてなかったけど、自分が作ったんじゃないフレンチトーストになんだか惹かれて思わず頼んでしまった。
神くんが家に来てから、毎朝僕が作ってる。
きっと頼めば神くんも作ってくれるだろうけど、神さんが、フレンチトーストを覚えたのは、修二と関係を持った時だから、神くんは作り方を知らない。だから、きっと、神さんの味にはならないだろう…。
注文で来たフレンチトーストは、見た目もとっても綺麗で艶々でとても甘くて優しい匂いがした。
このフレンチトーストは、僕の作ったのなんかより100倍美味しいけど、神さんの味とは違う。神さんの作ったフレンチトーストは、もっともっと美味しい。
あったかくて…、甘くて…、幸せで…
「マキ?」
突然名前を呼ばれて驚いて顔を上げると、そこには、緋色さんが居た。
っ!?
しまったって思った時には時すで遅くて。自分が、完全に素の表情だった事に気がついたのは、僕の顔を見た緋色さんが表情を曇らせた後だった。
完全に忘れてた。
この商店街、前に僕と賢史さんが、緋色さんとバッタリ会った場所だった!!
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