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アルバムをなぞる指先の決断51
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目の前が真っ暗になりそうで、鏑沂先生の声が遠くに聞こえてる。
だけど…
僕は考えるのを止めてはいけない。
グラグラ今にも倒れてしまいそうになりながら、唇を噛み締めた。
先生の言葉をそのまま受け取ると、百目鬼さんは、『嫌な記憶を消して18才に』自ら選んでなった事になる。
嫌な記憶を消して…、神さんは神君になった…。
僕との事、全部覚えてないということは……
ッ……
僕と過ごした時間は…
嫌な記憶で…
全部、消して…
緋色『彼も〝僕を大好き〟とは言わないのなw』
…違う
神さんは、僕を好きだ…
僕のこと…、好きだって…大好きだって…言ってくれてた。それに…家族になってくれるって…
だから…違う…、神さんは望んで忘れたんじゃない。
意味があるんだ。
18才の神さんになった意味が…
そうだ、意味がある。
18才の神君は朱雀に入ってたのに奏一さんと出会う前の状態だった。奏一さんと出会ってない直前のタイミングを選んだ。でも…もしかしたら、それは単純に、修二にしてしまった事を消したいって気持ちの表れで、奏一さんと修二の事を忘れたいってこともあり得る。
…でも、神さんは望むだろうか?
奏一さんと修二と出会わない人生を…、
やり直しならまだしも…。
事故に遭う前。
神さんは修二が未だ抱える発作を知ってしまった。
修二にしてしまった事を悔やんで落ち込んでるタイミングで、『嫌なことは忘れて目を覚ましてください』と言われたのなら、やっぱり、修二の事を忘れたくてって事になっちゃうのか?
でも…
神さんは、奏一さんと修二の事がすごく大切で…
今だって、すごくすごく2人が好きだ。
出会わなければ良かったなんて思わないはずだ。
神さんにとって、2人は人生の分岐点だ。
奏一さんと修二に出会ったから恋して暴走してしまったけど、それでやっと暴走の止め方を覚えた。
神さんがずっと悩んでた事にケリがついたんだ。
でも、もし、奏一さんと修二に出会ってなかったら、神さんは性癖の制御を知らないままずっと悩んでた…
それは、神さん自身も自覚してるはずだ…
じゃあ…
何故?
マキ「………」
やっぱり、どんなに考えても、奏一さんと修二を記憶から消したいなんて、神さんが考えるとは思えない。
…じゃあ、やっぱり、やり直したかったって事…かな…。奏一さんと修二との出会いを、やり直せたらって願って……
鏑沂「…。何か心当たりはありましたか?」
マキ「…なんていうか、心当たりがないわけじゃないんですけど、心当たり(原因)と18才の百目鬼さん(結果)が、納得いかないっていうか、百目鬼さんの性格からしてそうならない気がして…。先生は、答えが分かってらっしゃるんですか?」
鏑沂「残念ながら、答えには辿り着いてはいないんだ。先ほど、催眠療法を使って本人の深層心理に問いかけてみたが、催眠術の暗示が弊害になってるのもあって、なかなか上手くいかなくてね。本来、時間をかけてやる治療だから、一回でどうにかなるもんじゃない」
マキ「…」
鏑沂「彼にかかってる催眠術を解こうとしたんだが、厄介な事が判明した」
マキ「厄介な事?」
鏑沂「本来、催眠術は簡単に掛けられるものじゃないんだが、百目鬼さんが事故で意識レベルが低下して心の中を彷徨っていた事と、彼自身の心理状態と、催眠術の暗示が結びついて強い作用を起こした。その暗示をかけた時、鈴を使ったらしいんだ。催眠を解く時もその鈴を使わなければならない」
マキ「鈴?、どんな…」
鏑沂「それが、矢田さんの話によると、その鈴を無くしてしまったらしくてね。もう一度手に入れるには少し時間がかかるらしいんだ。なんでも、知り合いのオランダ土産の鈴らしくて」
オランダ?!
それって、つよしとユリちゃんのお土産のやつだ!
マキ「その鈴があれば、暗示が解けて記憶が戻るんですか?」
鏑沂「解決の糸口になる可能性はある。しかし全部解決して記憶が戻るとは限らない。事故に遭うまでに、百目鬼さんに何があったのか、事故がきっかけで少なからず脳にダメージはあった、そして彼が気にしてる悩んでる事に触れる暗示が唱えられて、それが鍵となって18才の百目鬼さんが呼び出された。…だから、全部を解決しようとするなら、記憶後退で18才の百目鬼さんになった理由を解いて、そして彼の心の時間を進めて記憶を取り戻す方が、彼への心の負担は少ない。 ご家族にも説明したんだが、暗示を解く鈴は、もう手配してるんだが、何日かかかるようだ。私のスケジュールはびっしりでね、申し訳ないが次は予約の日まで時間が取れない」
マキ「ありがとうございました。百目鬼さんの状況が少しでも分って良かったです。こんな悪天候の中、お時間作ってくださいまして本当にありがとうございます」
鏑沂先生は、帰り際に彩さんに何やら耳打ちしてた。
彩さんはそれに短く返事して、鏑沂先生を玄関まで送って行った。
肝心の鈴は、ユリちゃんに同じものをオランダに取りに行ってもらえる事になってた。迷惑かける事を電話して謝ったら、ユリちゃんは定期的にオランダに帰ってたから、今回も丁度帰省の対明タイミングだったから大丈夫と言ってくれた。気を使わせてしまって申し訳ない。
電話が終わると、なんだか少しだけ安心した。これで、鈴が手にはいって神さんが良くなる可能性が出たからかもしれない。
まだまだ問題は山積みだけど、何もわからない状態よりは、幾分かマシだ。携帯をしまってたら、お見送りしてた彩さんが部屋に戻ってきていた。
そこでやっと、僕は残されたメンバーの不穏な空気に気がついた。
修二と華南とむつが、お互いに重苦しい空気のまま目を合わさない。
どうしたのかと声をかけようとしたら、彩さんに止められた。
忽那「ちょっとした夫婦喧嘩だから気にしないで」
マキ「えっ…」
頭をポンポンとされて困ったように優しそうに笑ったけど、修二と華南とむつが、奏一さんや彩さんのいる前でこんな空気なのは重症なんじゃ?って疑問に思ってたら、彩さんは僕の目を見てそれを察して苦笑いした。
忽那「君はそうやってなんでも心配してるけど、今はみんな君の心配をしてるんだよ。許容量を大幅に超えてるんだから大人しくしてなさい」
マキ「あの…」
忽那「君が大人しくしてないと困ったことが起こるよ」
マキ「困ったこと?」
忽那「そう、困ったこと。だからここは引き下がって」
マキ「あの…、でも…、修二たちは、僕のことに関わったせいで喧嘩してるんじゃ…」
彩さんが困った顔をした瞬間。
横からむつが吠え出した。
むつ「そうだぞマキ!なんでこんな大事なこと黙ってたんだ!!」
むつが口を開くと、ほぼ同時に華南も口を開く。
華南「むつ!いい加減にしろ!」
三人の中で、なだめ役の華南が割と強い口調でむつを押さえつける。
なんで喧嘩してるの?
僕が原因?
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