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アルバムをなぞる指先の決断52
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マキ「か、華南落ち着いて。僕が相談しなかったのが悪いんだから」
そうだ。
記憶の無くなった神さんを、修二に会わせたくなかった。そう思ってしまった僕がいけない。
華南「マキ、無理するなよ」
マキ「無理なんかしてないよ。ただ、その…手一杯で…」
華南「状況は全部聞いた、マキが〝不安に思う〟のは当然だ」
華南は、僕の心配事を察したように言い、そして、眉をしかめた。
華南「中途半端になったら、困るのはみんな同じだ」
それは、修二のことを心配してるからだろう。
18歳の神君だから、〝忘れた〟だけで済んでるけど、もし、修二の事を好きだった時の記憶を思い出して、そこで止まってしまったら、神さんは修二に会いに行く。しかも、それだけじゃ済まないかもしれない…
神さんは、修二のこと…凄く凄く好きだから…
むつ「おいっ!華南!俺を叱っといてお前がマキを傷つけんなよ!」
華南に抑え込まれてたむつが華南をギロッと睨みつけ、マキにあんな顔させんなって小突くから、華南が申し訳なさそうに僕を見た。
華南「…。あっ、悪い、そんなつもりは」
僕は顔に出したつもりは全くないのに、むつの野生の勘は、無駄に冴えてる…。いや、半分は、僕が磨いたみたいなもんだ、修二に敏感なむつに、ちゃんと空気と意味を察するように仕込んだ。修二との関係をちゃんと育てたむつの勘は、年々鋭くなってて…、今じゃ、僕がビビるくらいだ…。
華南「ごめん、マキ」
華南は謝る必要も落ち込む必要もない。華南はむつみたいな勘はないけど、人の気持ちを察する優しさがある。状況を聞いただけで、僕がどうして修二達に言いづらかったのかちゃんと察してくれた。
マキ「ううん、大丈夫、僕もそんな風に受け取ってないよ」
むつ「嘘つけ!!お前の目ん玉真っ黒じゃんか!!」
むつの怒声が響く
その言葉は
今の僕にとっては不思議な言葉だった。
今までなんども言われては、隠してるのを暴かれて動揺した。
だけど、今回は…
マキ「…違う」
むつ「はあ?何が違うんだよ!また無理して笑いやがって!」
マキ「…違う…、無理なんかしてない…」
むつ「お前が俺たちに隠し事する時は、毎回弱音吐きたくないとか強がってる時じゃんか!、てめーってヤツは本当の窮地に立った時ばっか隠れてこそこそしやがって」
マキ「ッ…、そりゃ…相談しなかったのは悪かったけど、今回は違う。今回は…」
複雑な感情が入り混じって、言葉に詰まる。
何を言いたいのか、なんて言ったらいいのか、言ってしまったら、立ってられなくなりそうで…
華南「むつ、いい加減にしろよ。百目鬼さんがこうなって、マキが一番どうしていいか分からないキツイ思いしてるに決まってんだろ」
むつ「そんなん分かってるよ!分かってるから尚更だろうが!お前はマキが話してくれるまで待つんだろうが!待った結果マキが倒れたらお終いだろうが!!」
華南「ッ…」
むつ「だいたい、マキがしんどいのは毎回決まって百目鬼のせいじゃんか!あいつが一番マキを守ってやんやきゃなんないのに!あいつがッ!いッッちばんマキを泣かせてんだよ!」
華南「むつッ!百目鬼さんがこんな時にそんな言い方ないだろ!」
むつ「こんな時だからだろうが!散々泣かせて!散々苦しめて!やっとちょっとは恋人らしくなったのかと思ったら!記憶喪失だとッ?!」
華南「むつ!」
むつ「しかもこいつッ!!男なんか好きじゃないとか言いやがったんだぞッ!」
華南「ッ!?バカッ!黙れッ!!」
むつ「『いらねぇーから、お前らが貰ってやれよ』ってほざきやがってッ!!」
………。
緋色『帰っても、また泣かされるだけだよ』
緋色『彼も〝僕を大好き〟とは、言わないのな』
………。
華南「むつッ!!!!!」
むつより体の大きい華南が必死にむつをおさえつけ黙らせようとするが、むつはむつで小さいくせに強いから華南を殴って吠えまくる。
そんな2人と僕の間にゆらりと割って入った人影。
ぼんやり見上げだその人影は、揉める2人をものともせず、吠えるむつの頭をガッシリ鷲掴み、その醸し出すオーラだけで一瞬にして黙らせた。
奏一「いい加減にしろよ」
むつ「ッ…、そ、奏一さん…」
奏一さんの静かで冷たい声に、ギャンギャン吠えてたむつが縮み上がって大人しくなり、華南も体を硬くした。
そして、僕の後ろで綾さんの小さなため息が聞こえる。
忽那「…、はぁ…、だから忠告したのに…」
あっ、…困ったことって…
むつのことじゃなくて、奏一さんのこと…?
奏一「むつと華南は2人で今すぐ帰れ」
見るもの全てが震え上がるくらい低く冷たい声で言い放ち、2人に明らかな怒りを向けているのに、むつはその言葉に食いつく。
むつ「2人でってッ、修二も連れて帰る」
むつにしてはそんなに勢いのない声だったけど、強い意志で真っ直ぐお怒りの奏一さんを見つめる。
奏一「聞こえなかったのか、2人で帰れ」
むつ「嫌だッ、修二の帰るところは俺らの家だッ」
奏一「…」
むつの言葉に奏一さんがチラッと修二の方を見ると、修二は悲しそうな表情で奏一さん達を見ていた。
その表情に、奏一さんの手がむつから離れる。
すかさず華南が奏一さんに懇願した。
華南「ごめんなさい奏一さん。俺たちちゃんと話をしたいんです。ちゃんと話し合って、解決させますから」
奏一「…」
むつ「修二のことはちゃんと話し合う。
それに、俺がすぐ頭に血が昇るのが悪いんだけど、今は、マキをほっとけない。マキは1人にしとくと何やらかすかわかんねぇから…」
奏一「マキは俺が預かる」
むつ「えっ…」
奏一「お前達は、お前達のことで話さなきゃならないことがあるだろ。修二の事もだが、むつ、お前のやらかしたこともな」
むつ「ッ…」
2人の会話が、ぼおっとした僕の頭の中で、先ほどまでの疑問に結びついた。
…むつが、なんかやらかした?
だから華南の様子がおかしかったの?
そんなことをぼおっと考えていたら、急に僕の両頬が温かいものに包まれて、視界いっぱいに奏一さんの優しい顔が映った。
奏一「マキ、むつの言ったことは部分的で正確じゃない。でも、残念ながら嘘でもない。何があったか知りたい?」
マキ「…はい」
奏一「じゃあ、順番に話すから、そっちのソファーに座ろうか」
僕の手を握りしめた奏一さんにゆっくり誘導されながら、部屋の隅にあったソファーに2人で座った。
彩さんが困った顔してこっちを見てるのが見えたけど、僕には、彩さんの表情の意味が今は分からない。
ただ、温かい奏一さんの手に包まれて、奏一さんがゆっくり優しい声で話してくれた。
僕がこの場所に来るまでに、何があったのか。
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