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アルバムをなぞる指先の決断56
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感情の読み取れない瞳を細めて、表情だけはものすごく優しい笑みを浮かべる彩さん。
子供の嘘を全部見抜いてて本人が謝るのをじっと待つ母親みたいに『さぁ、次はなんて言い逃れするの?』って余裕たっぷり。
…きっと、何を言っても言い負かされる。
きっと、何をやっても無駄なんだ…。
マキ「……はぁ…」
俯いて漏れた大きなため息は、降参だって彩さんにはすぐに分かっただろう。
だから、嘘をつくわけでも屁理屈をこねる訳でもない。今から言う、僕の本音を、彩さんはきっとなんとなく分かってる。
そして、奏一さんにとっては、想像もつかないことだろう…
僕は奏一さんが大好きだ、だから、僕の本性を見せて呆れられたく無かった…。嫌われたりしたら……結構悲しい…
人に弱みを見せたくない。
可哀想だと思われたくない
そんなの死ぬほど嫌だ。
一時の感情は、一瞬で消えて無くなる。
僕の本音なんて知っても…
いいことなんか一つもないのに…
僕の醜い心のうちなんか…
心配してもらう価値はない…
マキ「…、奏一さんが本気で心配してくれるのは嬉しいけど…。本当に大丈夫なんだ、奏一さんが心配してるようなことは思ってない。僕は奏一さんが思ってるより自分勝手でわがままだ、奏一さんに心配してもらう価値なんかない…」
ソファーの隅にいた奏一さんが僕の言葉を聞いた瞬間怒って僕に掴みかかろうとしたけど、彩さんが静かに止めて真剣な瞳で見つめた。
忽那「奏一」
奏一「…」
俯いてる僕の視界の隅で、納得いかない表情の奏一さんは、黙ってソファーの隅に戻る。
奏一さんが聞く体制に戻ったところで、僕はもう一度心の中でため息ついて、重い口を開いた。
マキ「……神さんが記憶を無くしたって知った時、すごくショックだった。本当に目の前が真っ暗になった。…だけど、同時に一つ芽生えた感情があった。目覚めた神さんの話を聞いたお医者さんが、神さんは記憶後退を起こしてて、18歳の高校生にさかのぼってしまったって言った時。神さんの記憶が、修二と出会う前の状態だって知って、…ちょっと嬉しかったんだ」
僕は自分勝手で…
我儘だ…
マキ「なんの先入観もなく僕と出会っていたら、神さんは僕を選んでくれたのか…、僕を好きになってくれたのか…、ずっと気になってた。修二や奏一さんより、先に出会っていたら、僕を選んでくれたのか…、知りたくなった」
奏一「!」
忽那「…」
マキ「…だから、…だから、奏一さんにも修二にも神さんの事黙ってた」
見なくても分かる。
きっと奏一さんは今、驚きと混乱でパニックだ。
マキ「忘れられたのは悲しかったけど、18歳の神君と居られる時間は楽しかったしとっても可愛かった。18歳の神君は、僕の知ってる神さんと違うところが多くて、こんな神さんが居たんだとか、こんな過去があったんだって、知らなかった神さんに触れれる時間はとっても愛しくて…愛しくて…。僕は、神さんの記憶後退を楽しんでた」
奏一「…」
忽那「…」
何も口を挟まない二人。
恐る恐る見た奏一の表情は、怖くて真剣な眼差しで、彩さんは変わらず優しげな表情で、感情の読み取れない真剣な瞳で僕を見つめる。
マキ「…出会い直したら、僕が一番になれるんじゃないかって思ったんだ…」
媚薬を使わず
惚れ薬も使わず
奏一さんより…
修二より…
先に出会っていたら…
トラウマも痛みも償いも何もなかったら…
この身一つで出会ったら…
神さんは僕を…
マキ「…、僕は、自分勝手で我儘な理由で落ち込んでるだけだから…。バカみたいな理由…。神さんが大変な目にあってるのに…、ホントふざけた奴だよ。呆れるでしょ」
奏一「…」
マキ「あはっ。こんなんだから、神君に嫌われちゃて、信じてもらえなくて、混乱させて…。心理学勉強してんのにそんなことも分かんなくて…、もっと上手く出来ると思った。18歳の神君の悩みも解決できるって、僕なら神さんの問題全部なんとかできるって。…でも…全然で…、実際は、神さんのためとか言いながら、自分の感情が抑えられなくて、神君混乱させて、ちっとも心開いてもらえなくて、…好きになってもらうどころか、遠ざかる一方で…、上手くいかなくなったら、神さんのことばっか思い出して寂しくて、神さんに会いたくて、…。」
あの大きな手で撫でられる感触も
不器用な腕に抱かれることも
文句を言いながら本当は好きだと伝えたいことも
照れながら怒るのも
僕が生まれたのは神さんと会うためだと言ってくれたのも
全部全部消えたんだって傷ついて
出会い直したら何も生まれない…
マキ「やっぱり好きになってもらえなかった。神さんはやっぱり僕なんか好きにならないんだとか神さんのせいにして、…そんなこと思う自分にムカついて、余計神さんに会いたくなって。神さんに会いたいっていうのも、奏一さんが思うような綺麗な感情じゃない。神君が実家に行ってからは、毎晩神さんのこと考えて一人エッチした、神さんに抱いてもらってること想像して朝も夜も、神さんに抱いてもらうことしか頭になかった。自分の恋人が大変な目にあってんのに、SEXのことしか考えらんなくて、処方箋の一部だって、それを抑える精神安定剤みたいなもんだし、冬なのに風呂場で一人エッチしまくって風邪ひいたからだし…」
奏一「…」
忽那「…」
マキ「……。どお?軽蔑もんでしょ。これが本音だよ」
自分勝手で、我儘で、汚ならしい…
僕の自業自得だ…
奏一さんがこういう話が苦手だと知っててぶちまけた。
トラウマに触れることも、気色悪いと思われると分かってて、奏一さんにもらった恩を仇で返すようなもんだ。
受け止めきれないといった唖然とした表情。
それは当然で、ただ、もっと嫌悪されると思ったけど、時間の問題かもしれない。奏一さんは優しいから、否定しちゃいけないって頭の中ぐちゃぐちゃなんだ。そのうち気がつく。無駄な時間を使ったって。
大丈夫、奏一さんのことは彩さんがなんとかする。だから、今は僕の生々しい話聞かされて傷つくかもしれないけど、大丈夫。
お兄ちゃんを頼れって何度も甘えさせてくれて嬉しかった。
マキ「…奏一さん、今までありがとうね。僕帰るから」
奏一「…」
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