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アルバムをなぞる指先の決断57
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僕の言葉に反論はない。
突き放したくせにどこかで引き止めて貰えるんじゃないかと期待している自分に嫌気が指しながら、傷付く自分に怒りを覚える。
どうしてこんな風になっちゃったんだろう。
昔はこんな気持ち微塵もなかった。
昔の自分はこんな期待、誰にも抱いたことがない。
誰かが僕の全部を分かってくれるんじゃないか、なんて、甘ったれたことなんて思わなかったのに…
修二に出会って、むつや華南を知って、羨ましいと思った。
神さんに出会って、この人がいいと思った。
神さんが僕の世界を変えて温もりを教えてくれた。
奏一さんに出会って、安らげる手に甘えて、叱ってもらえて嬉しいと頼ってしまった。
だけど…知っていた。
この関係全部が、僕で繋がってること。僕のせいで、溜まってた均一を乱して近づけてしまったこと…
修二も百目鬼さんも奏一さんも…
消化しきれない気持ちが有るのに、僕がいることで、見ないようにしてたモノを見なくてはいけなかった。
奏一さんが受け入れられないものを、僕は意識させてしまう。
トラウマに触れてしまう。
僕の言葉に奏一さんは困惑して硬直した。
優しく厳しかった瞳の色が消えて見開かれ、唖然とした表情のまま、言葉の意味がすぐに理解できないのだろう、だんだんと理解するほど、歪んでく、大切な人の僕を見る目の色が変わっていく。
僕の言葉に返事がないまま…
僕はその場の空気に耐えられずにソファーから立った。
一歩ずつ離れるたびに、何故か、込み上がって
溢れてくる。
今まで踏ん張ってたもの全部、自らぶちまけたくせに、何もかもがダメなんだって絶望感に呑まれて崩れ落ちるように…
(まだダメだッ!…)
『嫌なこと全部忘れてしまえって暗示が…』
(まだダメだッ!まだダメッ!…)
消えてしまった記憶。
出会い直した結果。
神さんが憧れた優しい恋愛は、性欲塗れの僕では壊してしまって。
結局、全部全部…
(まだダメだッ!泣いちゃダメッ!…せめて部屋を出てからッ…早く!部屋をッ…)
『記憶の後退には意味が…』
ドアノブを掴もうとした瞬間、後ろか物凄い力で肩を掴まれて、ドアノブに手が届くことなく振り返らせられた。
そこには、淡い期待と違った人物が。
めちゃくちゃ優しげにニッコリする、彩さんがいた。
忽那「あぁ…、いい顔になってきてますね」
その表情はニッコリしてるのに、笑っているとはとても思えないものが溢れてた。
今までずっと表情の読み取れなかった彩さんの感情。だけど、怒ってるとも、呆れてるとも苦笑いしてるとも取れる空気が滲み出てて、そのニッコリした顔は、泣きそうで辛うじて涙をこらえる僕の顔を見て、意地悪に微笑んだようにも見えた。
忽那「でも、まだダメ。人の中身に触れておいて自分は隠すつもりですか?」
彩さんの掴んだところがビクともしない。彩さんの体系はいたってスリムなのに、まるで神さんに押さえつけられた時みたいで、僕の体は少しずつ押されて、ドアに押し付けられる形で、彩さんが覆いかぶさる。
マキ「なっ…、隠して…なんか…」
忽那「それに、君はまだわかってないようですね」
逃げようとしても、押さえ込まれてビクともしない。
マキ「な…にを…?」
彩さんの言ってる意味を考えて、部屋の奥のソファーにいる奏一さんの方を見たけど、奏一さんは硬直して座った体制のままで、さっきと変わらないように見える。
奏一さんから視線を彩さんに戻すと、彩さんは僕の視線の意味に気がついて、微笑みながら少しムッとした。
忽那「…卑怯な手を使ったんですから、猶予をあげてもいいんじゃないですか」
マキ「ッ…あれが僕の本心だ、奏一さんは、僕みたいなのと居るべきじゃない、彩さんだって面白くないでしょ」
忽那「…私とやり合いますか?」
マキ「違くて、事実でしょ」
忽那「…面白くはないですよ。私が忠告したのに無視した。だから、これから起こる〝面倒ごと〟は全部責任とっていただかないと」
マキ「?…、だから…ぼ…」
忽那「あなたの発言は、あなたの予想どうりにはなりませんよ。もっと複雑です」
マキ「ふく…ざつ?」
忽那「あなたの口にしたこと、そんなのは誰でも考えることです。パートナーが記憶喪失になったら、その現実と折り合いをつけようとする。中には、貴方のように、出会い直しをチャンスだと感じる人もいます。
中には、肉体関係があったのに、急に一からやり直しになって辛いとおっしゃる方だっています。中には、他で埋め合わせをしたして心を保つ人もいます。
そして中には、これは運命なんだと、別れを決断する人もいます」
!!!!!
忽那「貴方は、数ある選択肢の中から、別れない事、恋人だと告げる事、やり直すことを選びました。記憶が戻った百目鬼さんの為、自分のため、そして、18才の神君の為に、目線を合わせることを選びました。その結果がコレでも、貴方は覚悟があった。…いえ、正確にはこうなるだろうと予想してた」
マキ「…」
忽那「神君に受け入れてもらえず、記憶も戻らず、修二や奏一に出会い直した彼が、二人に想いを寄せると」
マキ「…」
忽那「どうするつもりでした?その結末を迎えたら」
マキ「…」
忽那「記憶が戻るのを待って、催眠が溶けるのを待って、それでもダメだったら。
…身を引くつもりでしたか?、
貴方のことだ、そうなったら跡形も残らないよう消えるつもりでしょう」
マキ「…消えるなら、そうするけど。僕は消える気は無い。彩さんだって言ったでしょ。百目鬼さんは探偵だ、記憶が戻った時僕が居なかったら、百目鬼さんは何があったか調べて、あらゆる手段を使って僕を探し出す」
忽那「記憶が戻れば…ね」
マキ「…それでも。
……僕は居るよ。
…神君でも…
…神さんでも、…誰を想ってても
…消えたりはしない」
忽那「…今にも消えてしまいそうですよ」
マキ「…僕は…、いい子じゃ無い…、いい子になれない…、でも…」
『俺は、お前よりお前が好きだ。だから俺の方が勝ってる』
マキ「信じるって…約束した」
『お前が産まれてきたのは、俺と出会う為だったって思わせる』
マキ「約束してくれた…」
『…誕生日になっても、気持ちが変わらなかったら、お前を攫いに行く』
マキ「たとえその約束が果たされなくても…、僕は誓ったんだ。…、あの場所で…」
『マキ、おいで、一緒にアルバムを見るぞ』
マキ「…ッ…、か……
ッ…ぞ…くに………………」
あぁ…
もう無理だ…
決壊して溢れ出たものは、全部彩さんの腕の中に溢れてく。
さっきまで怖いくらいだった彩さんの腕は、いつのまにか優しく僕を包みこんで支えてくれてた。
何かを言うわけでも無いその腕は、優しく背中をさすりながら、ぐちゃぐちゃに溢れたものを静かに流す。何を言ってるかも、何を叫んでるかも分からず、崩れ落ちた僕を、ただそっと包み込んでくれていた。
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