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アルバムをなぞる指先の決断58
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声にならない声で喚いた。
だけど、言葉は詰まって掠れて声にならなくて、溢れて締め付けられるだけ。
足が震えて立ってられなくて、彩さんの腕の中で支えられて気が付いた。震えは、足だけじゃない、指も腕も全身震えて、目の前がゲリラ豪雨に降られたみたいにびっしょり濡れていく…
情けない。
こうならないために踏ん張ってたのに、こうならないために準備してたのに。予想も想像も遥かに超えて、僕は僕を押さえておけなかった。
僕にとって神さんの存在が大きすぎた。
失うなんて考えられない、でも、受け入れられなくてもそばに居たいって、その覚悟はできてるって…。なのに、奏一さんと修二に会ったってだけでコレだ。こんなに動揺して、こんなに落ち込んで…。彩さんと奏一さんに悟られないようにしてたのに、いや、隠し切るのは無理だと分かってた。でも、絶対にこうなることだけはしたくなかった。こんなことにだけは…
一度泣いたらどうなるか、分かってたのに…
彩さんの服の色がどんどん変わっていく、最初は小さな水玉ができて、今はあっちこっち広がって、しわくちゃの湖。
彩さんは僕の背中を優しく撫でる、情けなくて恥ずかしくて言いたいことはいっぱいあるのに言葉にならず泣き喚かないように縮こまる僕に、優しそうな顔を向けながら、その目は少し困ったような不満そうに細められ、意地悪な策士は、少し期待外れだったと呟く。
忽那「…んー、泣くならもっと盛大に泣けばいいのに…、なお毛を逆立てるなんて困ったさんですね」
この人が僕を泣かそうとしてるのは分かってた。どんなに抗っても〝敵わない相手〟だって、僕の弱い部分を引き出す。僕の目指す資格を持ってるプロの忽那彩だって知ってたけど、泣いた僕に降り注いだ言葉とその細められた瞳にゾッとした。
僕の本音を引きずり出して泣かそうとしてたのは分かってたけど、その瞳は、まだその先を見ていた。
この人、まだなんか企んでる?!
そして、その企んだ瞳は、僕ではなく、ソファーで固まる奏一さんに向けられた。
忽那「ほら、奏一。奏一。いつまで頭ぐるぐるしてるんですか?貴方が答えてあげないから、マキさん泣いてしまいましたよ」
なッ!!
ソファーで固まってた奏一さんが、彩さんの言葉でハッと我に返り、彩さんの腕の中で泣き崩れた僕を見つけた瞬間、真っ青になって駆け寄ってきた。
奏一「ちッ違うからッ!」
慌てふためく奏一さんは、僕の元まで来たけど、彩さんが、駆け寄る奏一さんから隠すように僕を抱き寄せると、奏一さんはどうしていいかわからずオロオロして、どんどん顔色が悪くなる。
きっと修二の時に力になれなかったことを思い出しちゃってるんだろう事は明らかで、彩さんにそれが分からないわけないのに、彩さんはわざと〝奏一のせいで泣いた〟と言った。
彩さんが何考えてるかさっぱり分からない。
さっきは、奏一さんを傷つける言い方をした僕に怒ったくせに、自分は平気でそんなこと言っちゃうの?
奏一さんが、男同士のセックスのアレコレがトラウマになってるって分かってて、なのに、それを突きつけるの?
奏一「引いたとかじゃない!本当だッ!」
見たことないほど慌てふためく奏一さん、だけどその瞳は強く真剣でまっすぐで、戸惑って選びに選んだだろう言葉は、ストンとまっすぐ届く。
奏一「ただ…その…、俺の個人的な事が邪魔して、なんて言ったらいいか分からなくて…」
少し苦しそうに眉間にしわを寄せた奏一さんが、静かなトーンで言いながら、ビショビショの僕の手をそっと握りしめる。
奏一「…俺は…、その…、正直な話…性欲薄いから、マキの言ってることに共感はできない。だけど否定したいわけじゃない。修二の事があるからそう思う訳じゃない。どう言ったら伝わるか考えてたら…その…、色々考えちゃって……」
マキ「?」
それが何のことを指してるのか。
僕の手を握りながら、みるみる顔を赤くする奏一さんで分かった。
マキ「!!??」
えッ…、色々って…
奏一「ッ…ごめん」
もしかして、エッチな想像ってこと?…
奏一「…すぐに…答えられなかったのは悪かった。…けど。ちゃんと答えたかったから、ちゃんと考えたかった。だから、違うからッ!」
耳まで真っ赤に動揺していたのに、この人は、どの言葉をまっすぐ届けなきゃいけないのか、はっきり、そして冷静に分かってる。
僕が前に脱いで見せた時と同じ反応…、いや、あの時よりは、顔色が悪くないから、照れてる感じ?少しは、セックスに対するトラウマが薄まってるのかな?
奏一「マキの本音を聞けてよかった。ただ、マキの気持ちが俺も分かるとは言ってあげられないけど、これだけは言わせて。俺は、マキの話を聞いて衝撃は受けたけど、マキのそういうジタバタした気持ちが知れてホッとしてる。やっと、一緒に考えてあげられる。これは同情なんかじゃない」
優しい言葉をくれるのに、僕の逃げ道はしっかり塞ぐ。僕って人間が使う言い訳も言い逃れに使う手段も全部考えて、先回りして、まっすぐ前に立ちはだかる。
奏一「俺の時、マキは一緒に考えてくれたろ?。だから、マキが困った時は、一緒に考えたかったんだ。自分がやったことなんだから、同情だとか可哀想に思ってるんだとか言って暴れるなよ。俺は、そんなつもりでここにいるんじゃない、マキが弱って泣く前からずっと話をしたかった。マキのことはずっともう一人の弟みたいで、守りたいって思ってた。そりゃ、俺じゃマキの気持ちも、そういう思考の人たちの気持ちも共感出来ないところがあるから頼りにならないかもしんないけど、俺にだってできることはある」
握られた手が、温かい…
不思議とその言葉が嘘じゃないって思える。
いつもいつも助けられてるのは僕なのに…
奏一「マキはすぐ、修二に出来なかったことをやろうとしてるとか言うけど、そんなふうに思ってない。あの時出来なかったことを今こそしたいとは思ってるし、あの時出来なかったから今度こそって思ってるのは本当だけど、修二に出来なかったことは、修二にしてやりたいと思うし、他だってそうだ、彩さんに貰ってばかりのものは、彩さんにきっちり返したいし、親に貰った物は親孝行して返したい。そうゆうもんで、マキにしてやりたいと思うことはマキにしてやりたいって思ってるだけだ」
マキ「奏一さん…」
奏一「同情とかッ、可哀想とかッ、償いとかッ、そんなごちゃごちゃした考えた感情じゃなくて!、もっと単純でシンプルな気持ちなだけなんだよ!」
熱を帯びる握られ手を両手で強く握られて、強くてまっすぐな奏一さんの瞳が、どうしたら信じてくれるんだと悲しそうに歪みながんで…
奏一「マキのことが好きだからだろ!!」
マキ「ッ!?!?………」
忽那「…」
一瞬の静寂。
だけど心の中はビックリマークでいっぱい。
僕の手を握りしめる悲しそうな顔した奏一さん。
そして僕を抱きとめて支えてくれる彩さん。
二人の間にいる僕は、緋色さんの言葉を思い出して一瞬で涙が引っ込んで恐る恐る彩さんを見た
忽那「……」
けど、彩さんはこの状況を冷静に見ていて、微動だにしていない。
考えが読み取れなくて益々怖い…
マキ「…………」
驚いてる僕の顔に、奏一さんが気がついた。
奏一「?……」
マキ「……」
忽那「…」
三人の沈黙
奏一「??」
マキ「……」
忽那「…」
その意味に、暫くして奏一さんが気がついて、赤面噴火。
奏一「アッ!?ッぇ、、ち、違うからッ!!」
握っていた僕の手を慌てて離し、僕と彩さんに向かってブンブン首を横に振る。
奏一「違うからッ!!、そう意味じゃなくてッ!!ライクッ!ライクの方ッ!!」
真っ赤な顔がもげちゃいそうな勢いで否定するけど、彩さんは微笑むだけだし、益々奏一さんはパニック。
奏一「違っ…いやっ!違うからッ!!」
忽那(ニコニコ)
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