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アルバムをなぞる指先の決断60
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怒声が響いた瞬間、脳がその名にたどり着く前に、身体中がその声が誰だか分かって銃で撃ち抜かれたみたいな衝撃が走った。後ろから乱暴に腕を掴まれて担がれた瞬間、その体温が誰だか理解して僕の体が全身でその名を叫んでる。
ーッ!…ッ!
灼熱の砂漠の中で今にも枯れてしまいそうな天から降ってきた、一粒の奇跡みたいに…
極寒の雪山に取り残され、感覚を手放す寸前に現れたヒーローみたいに…
その体に全身でしがみつきながら、現状を理解しようと震えながら息を吸い込むと、再び響く低い低い声
百目鬼「茉爲宮、こいつらに何された」
ー〝茉爲宮〟って呼んだってことは、記憶が戻ったわけじゃないんだろうけど…、
吸い込んだ酸素は、吐き出した瞬間冷静さを失って溢れ出す
ーそんなことどうでもいい!。
ガタイのいい大きな逞しい腕に、犬猫みたいに雑に担がれて、大人な見た目のその強面な顔で、子供みたいに感情丸出しの睨みを利かせて彩さんと奏一さんにガン飛ばす神くん。
なにを取っても神さんと違う
…けど
マキ「ッ良かったぁぁ、神くん起きたぁあ¨あ゛ぁ゛ぁ゛…」
百目鬼「ぅおッ!?!?」
決壊したものを取り繕う余裕がなかった。
渇望した熱は、望んだ形じゃなくても、触れただけで、かじかんだ心に温もりを通わせる。
マキ「ぅう゛ぅ゛…」
百目鬼「!!!!」
怖かった。ずっと怖かった。
また目覚めないんじゃないかって。
診察したから眠ってるだけだって分かってても…
だからどうでもいいんだ、百目鬼神が存在してるなら、神くんだって神さんだってもうどっちだっていい。
僕がどう感じるかなんてどうでもいい、目覚めないよりマシだ!、二度と目を見て話せなくなるよりマシだ!
彩さんが、僕の鎧を剥ぎ取って何をさせたいのかだいたい見当はつくけど、今はそんなこと重要じゃない!僕なんかどうだっていい。
神さんが、神くんが、ここにいる。
忽那「マキさんを泣かせたのは、貴方のようですが?」
百目鬼「俺ぇ!?」
ひっくり返った声で驚いた神くんは、担いだ僕の方を見ようとしたが、しがみついて顔を擦り付けるように泣く僕の状態をチラッと視界に入れた瞬間弾かれたように目をそらす。
百目鬼「ッ…、いやいや!俺が来る前から言い合って、あんたがこいつ押さえつけて、こいつ目が真っ赤だったじゃんか!」
慌てふためく神くんが、彩さんを指差すが、彩さんは、優しく微笑む。
忽那「あなたの事を話してましたよ。途中脱線しましたがあなたの診察結果を話しました。今まで我慢してたんでしょうねぇ…」
百目鬼「ッ!!」
事実をすり替えるように、貴方が泣かせたと言いながら、後光指す牧師さんみたいに優しぃぃく微笑む彩さん。
百目鬼「俺じゃねーよ!ッ!降りろ!」
マキ「…っ…ごめんなさいごめんなさい…20秒待って…」
必死にしがみついてたら弱々しい声になってしまって、溢れてたものを引っ込めようと必死になってた。
神くんからしたら、ずぶ濡れの子猫に飛びつかれ爪たてられて、どうにかしたくてもどうしていいかわからなくて、触ったら壊れちゃいそうで、パニック寸前だし。
得体の知れない感情がフツフツと支配しそうで押されてた
百目鬼「謝れって言ったんじゃねぇ!降りろっつったんだ!」
マキ「ごめんなさいごめんなさい…」
百目鬼「いやいや無理無理ッ、離せ!くっつくな!」
泣き顔を見たら得体の知れない感情に飲み込まれそうで危ないから離れろって言ったんだけど、その意味が僕以外に分かるわけもない
奏一「テメーのことを心配してるんだぞ!その態度はなんだ!抱きしめてやるくらいできねぇのか!」
奏一さんの怒りが爆発した瞬間、彩さんが呆れて頭を抱えた。
奏一さんは神くんに詰め寄って、詰め寄られた神くんはついにパニクッて怒鳴り返す
百目鬼「なんで俺なんだよ!」
奏一「ぁあ゛!!」
泣いてるやつを俺がどうにかできるわけない、得体の知れない凶暴な感情が、泣くよりもっとひどい目に合わせるかも知れないって意味だったけど…。奏一さんにそれが伝わるわけもない…
奏一「マキは俺たちが連れて帰るから返せ!」
神くんにしがみつく僕を引き剥がそうと掴みかかった奏一さん、その勢いに思わず神くんはバランスを崩す、支えなくただぶら下がってるだけの僕を神くんが慌てて支えたら、奏一さんに抵抗したみたいに映る。
ひっぺがそうとする奏一さんと落としそうで怖がる神くんと、2人で僕を掴んだ
百目鬼「バカッ!落ちるッ!」
奏一「お前が抱きしめてやらないからだろ!」
百目鬼「だから俺はッ!…ん??」
奏一「あ?」
怒鳴りあってた2人が、変な顔をした。
その様子を彩さんも見てる。
百目鬼「おい、熱くないか?」
奏一「は?」
百目鬼「こいつ、熱あるだろ」
奏一「えっ!?」
二人の…、いや、三人の視線が僕に刺さる。
神くんにしがみつきながら顔をブンブン振ってみたけど、痛い痛い三者三様の視線は、僕の否定を受け入れてくれない。
奏一さんの怒りでビームが出てるんじゃないかって視線。
優しくやさぁしく微笑んで見える呆れた視線。
そして…
百目鬼「たしかに熱ってほどじゃねーかもしんねぇーけど。お前、普段体温低い方だろ、数字的には高熱じゃねぇかもだけど、お前的にはつれーんじゃねぇーの?」
マキ「…ち…違うよ、興奮してちょっと熱くなっただけだもん…」
百目鬼「あ…」
そうかって漏れた声を、即座に否定する別の冷たい声
奏一「違うだろ、マキ」
どんなに怖い顔されても怖くなかった奏一さんのことを、この時は、すごくすごくすごーく怖いと思った。
マキ「…ごめんなさい」
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