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空白のアルバム=百目鬼2=
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いつもは、ニコニコしてたり、いたずらっぽく笑ったり、キラキラしたり、しゅんとしたり、忙しいやつだったが、どれもわざとらしい表情ばかりで、時々本音っぽいのもあるけど、俺は茉爲宮の顔をまともに見れなかったら、あまりこうしてじっくり向き合う事も今までなかった。
男か女かわからないくらい中性的で綺麗なこいつ、体も細っこくて、俺なんかが触れたら折れちまいそうで、色白っていうより真っ白で、まるでマネキンみたいだって思ってた。
いつもわちゃわちゃうるさいから、黙ったら絵になるのにって思う事もあったが…
初めて見る、茉爲宮の寝顔は、驚くほど疲れ切って…やつれた顔をしていた…
顔色は悪いし、目の下にクマはあるし。俺の看病で疲れて倒れた時のばあちゃんと同じ、今にも死んじまうんじゃないかってゾッとする…
河原で最後にこいつを見た時こんなんじゃなかった、今は、生気がなくて、ぐったりして、…唇なんか皺くちゃで明らかに違いすぎる、河原で俺とキ……
あぁ…
クソッ…
河原で触れたこいつの唇を思い出すと、体の中から得体の知れないものが込み上がってくる。嵐のように凶暴なそれが爆発しそうだ。その衝動を、目の前のこいつにぶつけてしまいそうで…
だから、実家に逃げ込んだのに…
俺の知ってる世界にはない、毎日喧嘩ばかりの時に起こる凶暴な感情とは違う、俺の理解できる感情じゃない何かが…。暴力の中にあった凶悪な日々とも違う、もっと、腹の底の方から湧き上がってくるような…
消そうとするたびに、目が覚めた瞬間の見たこいつの泣き顔がチラつく、そのたびに、どうしようもなくて…
俺が俺でいられるようにしようとしても、状況が、12年後のだというこの世界が、俺を俺でいられなくする。
衝動ばかりで安らぎなんてない不良たちと喧嘩ばかりの暴力の日々、親の離婚で取り残された俺を引き取ってくれたじいちゃんばあちゃんには感謝してるけど、迷惑ばかりかける俺なんかがずっと二人の世話になるわけにはいかない、高校卒業したら出て行くつもりだった。
なのに…子供に興味のないはずの父親が連れてきた後妻とその連れ子達、いい人たちだしいい子達だったが、それがますます俺と住む世界が違う気がして馴染めなかった。居場所がなかった、安らげる場所がなかった。
それでも朱雀の仲間がいて、暴走グセがある俺を、総長と谷崎が止めてくれてた。
狭い世界だったけど、二人と朱雀があったから、俺は存在出来たのに…
高校3年だったはずの俺は、今12年後の世界に放り出された。
唯一の居場所だったはずの朱雀に戻るために、谷崎に会った。
だが、谷崎には、俺は朱雀から除名されたと言われた。仲間をリンチして、今は朱雀の後輩からも恨まれてるから近づくなと言われた。
そして、「お前の居場所は、百目鬼事務所にあるから安心しろ」とも言われた。
安心?
できるわけない…
唯一の居場所だった朱雀で、俺は仲間をリンチしたんだ。
なら、次でもそうならない保証はないじゃないか…
喧嘩してると、我を忘れる瞬間がある、そのたびに、総長と谷崎が止めてくれた。
その二人がいない今、誰が俺を止められる?
誰が…
『あんたがいたから不幸になったのよ!!』
ヒステリックなノイズが響く…
何もかも壊してきた俺に、何ができる?
なぜこんなことになった…
この世に存在した瞬間から、周りを壊して壊して…
両親に置き去りにされ、そんな俺でも、ばあちゃんとじいちゃんは引き取ってくれた。
こんな俺でもまともになろうと思った…
中学の親友の涙を見るまでは…
あの時。好きな女の子に失恋した親友の涙を見た俺は…、親友を組み敷いてぐちゃぐちゃにして、女のために流していた涙を俺への涙へ変えてしまいたいと思った、俺がこいつを泣かしたいと思った。俺を想って泣いて欲しいと…
男の、しかも親友…、俺を理解してくれた唯一の人間。
俺は普通じゃない…
普通にはなれない…
『あんたが居たからみんな不幸になったのよ!』
俺は…、何もかも壊す…。
なのに…
この世界はなんだ?
みんな俺を心配してくれて、みんな俺に優しくて、みんな俺が復帰するのを待ってるって言うんだ。
家族も、百目鬼事務所の人たちも、学生時代そんな話さなかった賢史も、谷崎も…
しかも、極めつけが、めちゃくちゃ綺麗な男の恋人がいるって…
信じられるわけない…
信じられるわけない…
マキ『神くん、朝ごはんできたよ♪』
マキ『神くん可愛い♪』
マキ『神くんのことは、僕が守ってあげるからね』
意味がわからない意味がわからない
マキ『じ…、じ…ん…。…やっぱ呼び捨ては恥ずかしいよぉ…』
マキ『神くんでも、神さんでも、僕には変わらない、貴方のことが好きなの、百目鬼神って人間が好きだから、どんな貴方でも好きだから』
どうしてこいつはこんなこと言うんだ?
12年の間に何があった。
お前の〝神さん〟は俺じゃない!
俺じゃないのに!
なんで…、こんなになるまで頑張るんだ…
忽那『貴方が一番大変なのは分かってます。ですが、目を背けてばかりでは何も解決しません。一度、マキさんとちゃんと目を見て話し合って下さい。貴方にとっては知らない他人かもしれませんが、この子にとっては恋人の貴方です。好きな人が事故に遭い、怪我をした、さらに記憶の一部を失い忘れられた。貴方も、大切な人間に忘れられるのは嫌でしょう?』
百目鬼『ッ…』
忽那『なにも無理に恋人をしろなんて言いません。ただ、一度腹を割って話し合ってください。その時、是非貴方が〝仕舞い込んでいるもの〟も話してあげてください』
百目鬼『は?』
忽那『貴方が、〝消そうとしてるもの〟と〝無かったことにしようとしてるもの〟ですよ』
百目鬼『……、な、なんのことだ』
忽那『マキさんと一緒にいるにしても、離れるにしても、ちゃんと話した方がいいですよ。じゃないと…』
百目鬼『じゃないと?…』
忽那『分かるでしょ』
背筋がゾッとするような不敵な笑みを浮かべた忽那の視線が、睡眠薬でやっと眠った茉爲宮に落ちる。そしてその弱り切った茉爲宮の横で、今にも俺に殴りかかりそうな奏一。
奏一『話をすればいいだけだ、あんたが溜め込んでるもん全部。18のあんたのことでいい、あんたの全部を話してやれ。話すことぐらいできんだろ。マキは、あんたの汚いところは全部知ってる。それでも側にいることを望んだ子だ。あんたのことが好きだと言う子だ。あんたが溜め込んで〝消してしまいたい過去〟も全部な。ていうか、マキのこと覚えてないならなおさら話せるだろ?マキに嫌われようがなにしようが、今のあんたはなんとも思わないんだろ?こんなになるまでほったらかしにして』
忽那『奏一、言い過ぎです。百目鬼さんの気持ちを置いてけぼりにしないでください。マキさんのことで怒るのはわかりますが、それではマキさんが百目鬼さんに寄り添った気持ちを台無しにしてます』
奏一『ッ…』
忽那『すいません百目鬼さん。奏一は今、マキさんがこうなる前に気づいてあげられなくて自分に腹が立ってるだけですから、貴方は貴方のペースで構いませんよ。…ただ、マキさんが目を覚ましたら、話だけはしてあげてください。貴方も、話をすれ解決することがあるはずですから』
奏一『…言い過ぎてごめん。頼むから、マキと向き合ってやって…、こいつ、もう…限界だから…』
話し合う…
一体何を話せって…
俺のこと?
俺の〝消そうとしてるもの〟…〝無かったことにしようとしてるもの〟…
それを話したら…
…なんで?…一体何が…解決するんだ?
こいつ限界なんだろ?俺といるからこうなるんだろ?
看病して助けてくれた茉爲宮に、俺は何もできない、色々してもらって感謝してる。ばあちゃんのことも気遣ってくれて、俺の無茶振りにも嫌な顔ひとつしないで女の格好したり…、世話してくれたり…
茉爲宮に何か返してやりたいけど、俺じゃ何もできない…
だって…こいつの一番欲しいのは、〝神さん〟なんだよ…
ー ピンポーン♪
玄関のチャイム?
えっ?客?
恐る恐るインターフォンを覗くと、そこに年配のスーツ姿の紳士っぽい男性が立ってた。
?「夜分にすいません、忽那さんからマキがダウンしたと聞きました。マキの主治医です」
えっ?この人が、茉爲宮の言ってた先生様?
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