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俺たちの始まりは【華南】10
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駅前のファミレスの中が、一瞬にして恐怖の色に染まる。
それもそのはずだ、牙をむき出しにして激昂した肉食獣のライオンが乗り込んできたら、誰だって恐ろしく思う。
周りのお客は恐怖のあまり視線を逸らし見ないふりする者、そそくさ退席する者、アルバイト店員に至っては真っ青な顔で店長を押し出し、その店長はブルブル子機を握りしめ通報寸前。
確かに怖い…
怖いんだけどさ…
怖さ通り越してむしろ滑稽だよね。
百目鬼さんって本当に大人の30才なのかな…。自分がどんなにヤクザ顔してるか分かってないのかなぁ…、顔が怖い上に、左目の下に切り傷あって睨み殺さんばかりに仁王立ちとかだめでしょ…。いくらマキが可愛いからって、嫉妬深過ぎじゃね?ってかこの感情的すぎるノリが俺にはちょっと可笑しいんだよな、むつで慣れ過ぎたのか…。あっ、マキの言ってる百目鬼さんの可愛さが少しわかりそうな気がしちゃって複雑。
お店の皆さーん落ち着いて下さぁい。
このヤクザ顔のライオンさんは不器用なだけで怖くないですよぉー。いかにも懐からピストルとか短刀とか出しそうだけど、懐の中は嫉妬っていうこの可愛らしい恋人マキちゃんへの愛に溢れちゃってるただの溺愛彼氏なだけなんです。不器用過ぎて、初めての恋人をどう扱っていいか分からなくてテンパってるだけの不器用ライオンなだけですから、不器用で〝可愛い〟の代わりに〝貴様は馬鹿か〟とか言っちゃう人だから…、ただ不器用なだけの〝ライオンの被り物をした可愛らしいティーカッププードル〟らしいから…
その証拠に、マキは百目鬼さんを見るなりその瞳をキラキラ輝かせてるし…
マキ「百目鬼さぁん♪♪(ハート)」
激昂してる百目鬼さんが可愛らしい動物にでも見える見たいに、マキはハートを飛ばしまくりながら百目鬼さんに飛びついて嬉しそうにギュッと抱きついた。
マキ「早かったね♪少し帰りが遅くなるかもって言っただけなのに、そんなに早く会いたかったのぉ?♪」
…、悪戯に嬉しそうなマキの言い方は、俺とファミレスにいるのを百目鬼さんに連絡してたみたいな言い方だった。
ってか、知っててこのテンションで乗り込んで来るって…、どこまで嫉妬深いんだ…
マキも大変だなぁ…
マキはニコニコしながら百目鬼さんに抱きついていたが、百目鬼さんは怒り眉のまま、マキの頭を片手でガシッと鷲掴み引き剥がす。
百目鬼「ふざけんな、こいつと何してた」
ギリギリとコメカミに食い込む指。マキの頭がリンゴみたいにグシャッと潰れないかちょっと心配だが、マキはなんでもないみたいに笑って掴まれてる。
マキ「あは♪お悩み相談中だよ♪」
えー!?マキ様それ言っちゃうの!?
百目鬼さんだよ!?
相手は〝あの〟百目鬼さんだよ!!
百目鬼「…。顔を近づける必要はないだろ、だいたいこいつには修二とクソチビがいんだろうが」
クソチビってむつのこと?
相変わらず犬猿だなぁ…
俺はこの状況をどうしたもんかと…、とりあえず店から出ようと思ったその時、マキがニコニコ可愛い顔してとんでもないことを言い出した。
マキ「そうそう、修二の事で悩んでるんだって♪百目鬼さんも相談に乗ってあげて♪♪」
百目鬼「はぁッ?!?!?!?!」
エエ¨ッ¨ッ¨ッ!!!???
いやいやいや!!それはないでしょ!!
百目鬼さんも目ん玉落ちるぐらい驚いてるから!!
ってか!百目鬼さんに修二との悩みを話すとかおかしいでしょ!!百目鬼さんすっごい動揺しちゃてるよ!!いや、俺もだけど!!
マキの奴一体何考えてやがんだ!?
マキ「ね♪、ね♪、僕たちはとぉーっても華南と修二達にお世話になってるでしょ?たまには恩返ししないと♪♪」
マキ様ニコニコ目がマジです。
〝あの〟獰猛な猛獣の百目鬼さんが言葉に詰まって唸りながら、俺をギロッと睨んできたよ!いやぁー、もう帰りたい…
なのに、百目鬼さんは睨みながらマキの隣にストンと腰掛けた。
不機嫌極まりない顔のまま…
百目鬼「チッ、今更後悔したとか言いたいのか」
ええっ!?
相談に乗ってくれようとしてるよ!!
今にも俺のこと食い殺しそうな勢いで睨みながら、相談に乗ってくれようとしちゃってるよ!!
えー、ってか、これってどんな図?
修二の事過去に襲った百目鬼さんが、修二の今彼の俺の相談に乗るってどんな図!?
そんでもってマキ様ニコニコ楽しそうだし!!
マキ様ってホントッえげつない!!
華南「違うッ、そんな訳ないだろ」
百目鬼さんの言う〝後悔〟は、〝男との恋愛〟って事だ。
それだけは違う。
即座に否定して思わず表情を顰めちまった。
華南「ッ…、俺もむつも修二とはラブラブなんで」
俺の態度が悪いと思いながら視線を逸らしちまった。
俺は知ってるのに、百目鬼さんが口調はああだけど、修二の事が大事で心配で座ったんだし、マキが散々百目鬼さんはどんな人か耳にタコが出来るほど聞いて知ってたのに止められなかった…
そして、この状態を作り出した張本人のマキは、何故かメチャクチャ落ち着いてやがる。
落ち着いてるっていうか…、なんか、なんともいえない不思議な表情で〝見守ってる〟って感じだ。
俺と百目鬼さんを見て、真剣な眼差しで微笑んでるように見える、ただ、何か含んでるその瞳が、なにを感じてるかまでは分からない。百目鬼さんもマキに違和感があるんだろう、チラッとマキの様子を伺いながら、俺に話しかけてきた。
百目鬼「…。ラブラブなら、何を悩む」
なんて言えってんだ…。
〝あの〟百目鬼さんに相談とかもどうかと思うし。俺の悩みなんて子供みたいな我儘だ、さっきマキに言い当てられた通り、むつに甘い修二にもっと構って欲しいとか、露骨に嫉妬して欲しいとか…、まるでガキの内容なのに…
黙ってる俺に、微笑んでたマキが口を開いた。
マキ「んふふ♪、僕たちの事が羨ましいんだって♪」
百目鬼「は?」
マキ「修二にもっと愛されたいんだって♪愛されて独占して感情的に嫉妬して泣いちゃったりして欲しいんだって♪」
百目鬼「ぁア¨?!」
いやいやいや!!
違うから!!違わないかもだけど違うからッ!!
華南「泣かせたい訳じゃッ!!」
ヒィィ!!睨んでるよ!!
百目鬼さん怒りで俺の言葉なんか耳に入ってない感じに怒ってるよ!!
百目鬼「ッ!……」
マキ「……」
ワナワナしてたはずの百目鬼さんは、隣のマキをまたチラッと見て、言葉を一度飲み込んだ。
百目鬼「…………、ッ…。じゃあなんだってんだ!」
華南「いや、あの、ッ、泣かしたいなんて思ってない、本当だ。修二を泣かしたら、取り返しがつかなくなるって分かってる。…ただ、修二がいつも穏やかだから…、その、百目鬼さんとマキみたいに情熱的なのも…、羨ましい…なっ…て」
百目鬼「はぁ?……、うら…ッ…、はア?、てめーは目ん玉腐ったのか?昔は随分勇ましかったのに、俺から修二を守るとか渡さないとか…。マキと俺が羨ましんだと?、何をクソ馬鹿な事言ってやがんだ」
華南「…、俺が、修二を誰からだろうと守るのも、誰にも渡さないのも気持ちは変わってない。過去のあんたは置いといて、マキと付き合ってからのあんたの事は、頑張ってると思うし、まだまだ雑だし不器用だけど、あんたの良さはマキから腐るほど聞いてっし、マキをどんなに大事にしてるか、この目で見てる。だから、体当たりでいつまでも恐れず変わっていこうとするあんたとマキの事を、俺は羨ましいと思ってる。馬鹿な事でもなんでもない」
百目鬼「!?…………」
驚いた顔した百目鬼さんは、納得いかないのか複雑に表情を歪めた。
百目鬼さんは、自信がないんだ、マキを大事にできてる自信が…。まぁ、実際はマキが寂しがったり泣いちゃったりしてんだけど…。マキは、それを苦だと思ってない…。まぁ、まだまだマキの心を開いていかなきゃってぇのはあるけど、百目鬼さん自身が、それを一番分かってるから、喧嘩しても何しても行動してる。
俺は、修二と喧嘩とかしたくないからしてこなかった。修二のペースで徐々に変わっていければいいやと思って、カッコつけて、このザマだ。
百目鬼「……。むつは、そんな風には思ってないぞ。マキを泣かせてばかりだと会うたびに吠える」
華南「むつは、百目鬼さんの前で悪態ついてるけど、本当は分かってるんです。ただ、過去のことを切り離して考えられないだけで…」
百目鬼「そうじゃない」
華南「え?」
百目鬼「むつは、マキを泣かせてばかりの俺に、俺なら絶対しない、絶対心から笑わせてやるし、寂しい思いもさせないと自信たっぷりだ。…お前や修二にもだろ。むつはいつも自信たっぷりだ、なのに、お前は自信がないっていうのか?」
華南「……。違う」
百目鬼「…修二は、本当にむつが好きだ。小さい頃から片思いして、ずっとずっと変わらず好きだった」
知ってる。
むつといる時の修二はマジに幸せそうだ。
百目鬼「……だから不思議だった。なんでむつだけじゃないんだって…、むつと付き合えてるのに、なんでお前もなんだって、…お前らが付き合いたての時に修二に聞いたことがある」
華南「えっ!?」
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