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アルバム絵本
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奏一さんが、酔って苦しそうだった顔を更に顰めて厳しい顔をした。
僕はハッとして、慌てて取り繕う。
マキ「あはっ、そんな深刻な話じゃないよ、ただの疑問♪」
僕は何をバカ正直に言ってんだろう。いくら奏一さんが優しいって言っても、百目鬼さんに酷いことされた過去を許せない奏一さんにこんな話…
奏一さん相手だとどうも調子出ない…
奏一「………、マキ、悪い、もう一杯くれる?」
マキ「うん」
頼まれてお水をもう一回コップに注いで奏一さんに手渡すと、奏一さんは水を一気に飲み干してコップをテーブルに乱暴に置いた。
奏一「ぷはっ…。…はぁー…」
マキ「…大丈夫?二日酔いの薬とかって…」
奏一「マキ、大丈夫だから、座ってなさい」
口調が、普段のクールな奏一さんに戻ってた。
でも、まとってる冷ややかな圧はそのまま。奏一さんは冷静な静かな怒りを持つ瞳で僕を見据え、僕は、立ちかけた腰を下ろして自然とかしこまって向き合う。
百目鬼さんの持つ、激しい熱を持つ怒りの圧力と違う。奏一さんのは、ヒンヤリと冷気を放つ、こっちの嘘も取り繕いも見抜くような冷ややかで鋭い瞳、それでいて吸い込まれるような何かを持ってる。
冷静な相手をコントロールすることほど難しいことはない。
奏一「マキ」
マキ「はい…」
奏一「これは、俺の自論だけどね。家族は〝作り上げるもの、積み重ね〟だと思うんだ」
マキ「……」
一瞬、なにを言われてるか分からなくて、目をパチクリしたら、奏一さんと目が合った。奏一さんの瞳は、いつもみたいに厳しくも優しい瞳に戻ってて、僕は心が追いつかずに瞳を瞬いく。
奏一「難しいことじゃない。君があいつと家族になりたいと思って、あいつを思いやり、あいつがマキと家族になりたいとマキを思いやれば、それでいいと思うんだ」
マキ「…」
奏一「もともと、家族なんて血の繋がらない者同士から始まるものだ、血のつながりがどうのとか、生き方がどうのなんて関係ない、家族になろうって気持ちが、家族を作るんだと俺は思う」
マキ「…」
奏一さんが言ってることが分からない訳じゃない、ただ、とてもシンプルな言葉に驚きと戸惑いがあった。
奏一「……、家族に戸惑いを感じるっていうなら、あいつにキチンと気持ちを話せばいい、あいつは、そういう意味では先輩だからね」
…再婚相手と、その連れ子達…
新しい家族に、百目鬼さんは、戸惑って、悩んだんだ…
奏一「…あいつは、家族ってものに憧れて…それがいきなり大家族になって困惑してた…」
家族に…憧れ…?
奏一「あいつが元は一人っ子で、実の母親が出て行ってるのは知ってる?」
マキ「うん、アルバムを見た時に…」
奏一「その母親がどんな人か聞いた?」
マキ「…アルバムの中のお母さんは、ちょっと寂しそうな儚い感じだったけど、百目鬼さんは頑張り屋で優しい人って言ってた」
百目鬼さんの母親は、百目鬼さんが小さい頃、アルバムの中に一番写ってた、父親より、おじいちゃんおばあちゃんより沢山笑顔の百目鬼さんを抱きしめて微笑む姿ばかり。
奏一「…あいつの母親は、いつも泣いてばかりいる人だと聞いてる」
マキ「えっ…」
奏一「あいつの祖父母が漏らしているのを聞いただけで、あいつから聞いた訳じゃないが、母親は、ノイローゼ気味だったみたいだ」
ノイローゼ…、百目鬼さんはそんな話してなかった。
奏一「離婚する一年前から、父親に対して束縛が酷くて、良く喧嘩になって、泣きながらあいつを抱きしめる毎日だったらしい。最後は、耐えかねた父親が浮気して離婚になったが、あいつのお父さん悪い人じゃないんだよ、母親の追い込みがすごくて、精神的に参っちゃってたんだ」
…そう、なんだ…
奏一「…今だから気がついたことなんだけどさ、あいつの性癖って、そこが関係してんじゃないかと思うだ…」
マキ「えっ…」
奏一「詳しくは知らないけど、毎日本当にヤバかったらしい。子供だったあいつを間に挟んで言い合いして、母親のヒステリックに泣き叫ぶ声が毎日で…、近所中で知らない人はいないって」
………。
奏一「…親権が父親に行ったのも、どうやら虐待があったんだって噂で…」
マキ「えっ!…そんな…、百目鬼さんは優しいお母さんだったって…」
奏一「…俺は、あいつにその話を聞いたことないから分からないけど、あくまで噂な。それに耳にした当時は考えなかったけど、今ならなんとなくっていうか、思うんだが…、マキにあいつが何か話してるなら嘘じゃないと思うんだ。だけどさ、心理学勉強してるマキなら分かるだろ、虐待を受けた子供は、母親を嫌いになるどころか、好かれたくて自分が悪いと思い込む事例がある…」
マキ「あっ…」
奏一「あいつが、束縛激しいのとか、好きな人を泣かせたいのって幼少期の体験が関係あるのかもって。本人は自覚してないだろうけど、あいつ自分のことも他人のことも鈍いのに、妙に察しのいいところあったり、ちぐはぐだろ」
束縛…、泣かせ…好きだと言わせたい…
激しい怒りにも似た束縛は、自分が好かれてないと恐る余りの心理だった。
子供の頃の傷がそのままになってるとしたらありえる、どこかの本に書いてあった愛着障害に関連するかも。
歪んだ恋愛観を持ちながら、それを嫌い否定して普通であろうとするのは、もしかしたら、再婚相手の母親とその兄弟と正しい家族の愛情に触れたから?
関連付けようと思えば出来る…、でも、関係あるかは噂レベルじゃ分からない…
奏一「…本当に、あいつのことが好きなんだな」
唐突に言われて顔を上げると、奏一さんと目が合った。呆れたような、仕方ないと諦めたような、そんな複雑な顔だった。
奏一「マキは、あいつのことが心から好きだ。それは今の真剣な顔見て分かった。じゃあ、何故不安なの?マキ側の問題って?」
優しいお兄さんの顔した奏一さんが、動揺して口の開きっぱなしの僕の頬を指で撫でながら問う。
マキ「…あ…、えっ…と…」
奏一「…。マキの家が普通じゃ無いから?」
マキ「まぁ…そぉうゆうこぉと♪その話は大丈夫だから♪」
奏一さん相手に誤魔化しちゃいけないと分かってはいたけど、いかにも相談してますって空気に耐えられなかくてテヘペロって舌が出た。
相談されたことはあっても、こうやって見透かされて相談とか、弱音とか…僕には無理だ…。
奏一「はいはい、舌出さない。
フッ、次出したら、引っこぬくよ」
やぁん!ニッコリ冷ややかな奏一さん怖い!!
マキ「…僕…、こいゆうの苦手で…」
奏一「何が?」
笑って誤魔化せたら良いのに…、奏一さん相手には、それが出来ない。あの瞳に見つめられたら…嘘が言えないというか、確実にバレるというか…
適当に言いたいのに、吐かなきゃならないという崖っぷちな気分で、もごもごはっきりしない口調で言葉にしながら、奏一さんの瞳にジリジリ追い込まれちゃう。
マキ「…僕がなんとかすれば良いだけだと思うから、…それ以外は得意じゃないって言うか…」
奏一「ん?」
…圧が…、こ、怖い。奏一さんの後ろにエベレストの吹雪と氷の龍が見える…
マキ「…、…相談とか、…弱音とか、…嫌いで…同情とか……好きじゃい…」
奏一「…こないだ俺の前で脱いだ時は、ちゃんと自分のこと言えてたじゃないか」
マキ「あれは!…、…、奏一さんが前に進める手助けになればと思って…」
奏一「ふーん」
言わなきゃ終わりにしないって顔してる。
マキ「…」
奏一「…、マキ」
マキ「え?」
名前を呼ばれて気がついたら、僕は奏一さんの腕の中にいた。
マキ「えっ、え、エッ?!」
奏一「よーしよしよし」
酔っ払った高い体温の奏一さんにすっぽり抱きしめられ、頭をヨシヨシ犬コロにやるみたいに撫でられて、こんな恥ずかしくて意味わかんないこと初めてで…
僕は…どうなって…
うええ??
パニック!!。
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