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アルバムをなぞる指先の決断18
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神さんは転院した後も順調で、数日のうちに退院。
…
足の骨折は通院ということで、自宅のある百目鬼事務所に戻って来ることになった。
…記憶は、未だに戻ってない。
悲しいとか苦しいとか、感じないと言ったら嘘になるけど、僕と百目鬼さんの関係を知ってるみんなが心配するほどの事はない。
僕は平気だ。
神さんが元気でいてくれるなら、それだけでいい。
今大変なのは神さん自身だ。
いきなり12年後の世界に放り出されたんだから、戸惑って悩んで当たり前。
僕の事をグチャグチャ吹き込む必要はないし…
それに…
それを話すには改まって二人っきりで話をする必要がある。
…今の神さんが知らない重大な事を告げるには…
…きっと慎重に進めないといけない。
退院後について、おばあちゃんや蘭さんたちは、実家に戻ってこないかって言ってたけど、神さんがそれを頑なに断った。
元の生活に戻った方が記憶が戻るかもしれないって事。百目鬼事務所の社長である以上仕事をこれ以上休みたくない事。もっともらしい理由を並べていたけど、僕には、神さんがおばあちゃん達に迷惑を掛けたくないんだろうと思った。
入院費も、神さんの自分名義の口座からお金を出すと聞かなくて、おばあちゃんはおばあちゃんでこんな時くらい親に出させなさいって譲らない親子ゲンカをしたり。まぁ結局、入院費は、神さんが青森に行くのを依頼した人物から迷惑料として支払われた。杏子さんは濁していたけど、今回青森へ行く依頼をしたのは、ヤクザだ。神さんは、依頼を遂行してターゲットを確保する際、車で体当たりされスリップして事故に遭った。ターゲットは、その後ヤクザに捕まって、神さんへの依頼は完結したそうだ。
事故後、ヤクザの親分が杏子さんに依頼料と迷惑料上乗せしたものを事務所に届け、神さんが完治するまで面倒を見ると言ってきたみたい。
杏子さんは隠してたけど、百目鬼事務所には歩く拡張機がいるからね…。
矢田「百目鬼¨さ¨ぁん¨おがえ¨りなざいぃ!!!」
百目鬼事務所に神さんが戻ってきたのを泣いて喜ぶ矢田さんが神さんに飛びつくと、片手で軽々払いのけられて地面に倒れる。だけど矢田さんは、「百目鬼さんが事務所に戻ってきた」って嬉しそうに泣いてる…。
事務所には、杏子さんと檸檬さんと高霧さんが待っていて、3人とも目頭を熱くして神さんを出迎えた。
杏子「百目鬼さんお帰りなさい」
檸檬「百目鬼さんお帰り!」
高霧「お帰りなさい」
3人の出迎えに、神さんは少し驚いたような顔をして、そして、事務所の中を見回した。
百目鬼「…俺の…事務所…」
不思議そうに戸惑ったように、神さんはなんだか信じられないって顔してる。
檸檬「そうっすよ。百目鬼さんが26歳の時開いた探偵事務所ですよ。まぁ、探偵はその前から俺たちとやってたけど」
檸檬さんが簡単に、百目鬼さんとの馴れ初めを話したけど、神さんはその間中、信じられないって顔したまま戸惑って眉間にしわを寄せてる。
杏子「檸檬、今日はその辺にして、百目鬼さんは今日退院したばかりなんだから、部屋で休んでもらいましょ」
檸檬「あっそっか、ごめんごめん」
みんな口には出さないけど、早く百目鬼さんの記憶が戻って欲しいと思ってるんだ。
だって、ここにいる面子は、誰も百目鬼さんの記憶の中にいない。
百目鬼「いえ、俺働きますよ。足はこんなだけど、事務仕事くらい出来るし、俺の事務所ですよね。俺がいない間ずっと皆さんだけに働かせて…」
申し訳なさそうににする神さんは、見た目は今までと変わらない強面の30歳なのに、中身が18歳だから、表情が幼くて違和感だらけ。神さんに敬語を使われて、檸檬さんは少し悲しそうにどうしたらいいかオロオロ杏子さんを見ると、杏子さんは神さんに向かって静かに笑顔を見せる。
杏子「大丈夫ですよ。事務所は私たちで回せてますから、百目鬼さんは安心して休んでて下さい」
百目鬼「…でも…」
杏子「百目鬼さんは普段からめちゃめちゃ優しくて優秀で、部下の私たちが働きやすいように自分は無理してでも私たちに休みを作ってくれたり、体調を気遣ってくれたり、この会社は良すぎるくらいホワイト過ぎな会社です」
百目鬼「…俺が…優しい?」
杏子「ええ、百目鬼さんは凄く優しいですよ。
事務所のことは、百目鬼さんにしかできない大きな依頼は終わってますし。今は檸檬や高霧さんが探偵として活躍してますので、安心してください。百目鬼さんは普段から全然休んで下さらなかったので、今回は溜まった有休消化という事で、会社が出来てからの4年間一度も取ってないのがたっぷりありますので、今は私達に任せて、マキさんとたっぷり休んでください」
困ったように話を聞いてたが神さんは、僕と一緒にって聞いてさらに困った顔して戸惑ってる。
神さんが記憶を無くしてから、僕と神さんは二人っきりの時間がなかったので、神さんとはまだ話をしてなかった。
神さんは、目が覚めたら突然できた〝婚約者〟の僕の存在に非常に戸惑ってる。
家に帰ったら二人っきり。
…さて…、何から話せばいいやら…。
百目鬼「えっ!?」
百目鬼さんが玄関を開けた瞬間、中からミケが飛び出してきて、神さんの足に擦り寄ったのを見て、百目鬼さんが固まった。
百目鬼「ッ…、猫?」
久しぶりの百目鬼さんに、ミケが嬉しそうに擦り寄って尻尾まで絡めて喜んでるのに、百目鬼さんは大きな体を強張らせて一歩も動かない。
…あれ?18歳の百目鬼さんは、猫が苦手なのかな?って思ってたら、家の中からキングが吠える吠える。
キングもずっと心配してたもんね♪俺のご飯作るやつがいないって♪
百目鬼「はっ?!犬もいんのか!?」
目を丸めて驚く18歳の百目鬼さん。
僕は、百目鬼さんに喜んで絡んでるミケを抱き上げ、百目鬼さんの腕に差し出したけど、神さんは戸惑って受け取ろうとしない、すると神さん大好きミケが神さんによじ登る。
マキ「ミケは、神さんが飼ってる猫だよ♪」
百目鬼「は?俺が?!」
マキ「…ミケにもキングにも、毎日手作りのご飯作って可愛がってるよ。…なんでそんな驚くの?」
百目鬼「俺が生き物飼ってるとかありえないだろッ!」
マキ「ふふっ、なんで?♪」
百目鬼「俺みたいなのが…」
神さんは、アルバムを呼んで聞かせてくれている時、ずっと言っていた。
〝昔の自分には会わせられない〟って…。
それって、ヤンチャ真っ只中って事?
マキ「杏子さんが言ってたでしょ、神さんは、とっても優しい人だって。それにとってもお世話好きなんだよ。ミケの事も拾ってお世話したけど、杏子さんや檸檬さんや、矢田さん、高霧さんのことも〝拾ってお世話〟してるし、僕の事も〝拾ってお世話〟してくれてるよ♪」
百目鬼「はあッ!?」
驚く神さんを押し込むように家の中に入れて、キングの事も招待してあげた。
神さんは、キングが子犬なのを見るとますます驚いて戸惑ってしまい。勢いよく吠えてたキングは、いつもと違う神さんに、あれ?ってハテナが飛んで吠えなくなった。
一通り部屋を案内してリビングに戻ってくると、神さんはグッタリソファーに座り込む。
マキ「色々ありすぎて疲れたよね」
百目鬼「………ッ…、やっぱ…俺とあんたって一緒に住んでんのな…」
僕の服や荷物…、二人分の食器に、色違いの歯ブラシなんか、僕のものが置いてあるのを見て困ってた神さん。
寝室のキングサイズのベッドを見て18歳の神さん脳みそ爆発。
可哀想なほど消沈してる。
百目鬼「なぁ、…ま…、茉爲宮さん?」
神さんは、目が覚めてからずっと、僕の事、茉爲宮さんって呼ぶ。
マキ「はい」
百目鬼「病院じゃ家族が煩くて話せなかったけど、俺、本当にあんたと婚約してんの?」
マキ「…うん」
百目鬼「マジかよ…」
タダでさえ疲れてる神さんが、倒れそうなほど顔色を悪くして頭を抱える。
百目鬼「……ごめん。あんたは婚約者に忘れられて傷ついついてるんだろうけど…。俺、もう容量オーバーなんだよ。…まるで別人の話を聞いてるみたいで…」
マキ「こっちの事は気にしないで、大変なのは神さんだから。目が覚めたら12年経ってるなんてショックでしょ」
百目鬼「…悪りぃ。…あんたには、なんか世話になってばかりで…」
マキ「なんでも言って。僕でよかったら、なんでもするから。神さんのことなら、なんでも知ってるよ♪」
百目鬼「……なんでも?」
マキ「うん♪」
返事をした途端。神さんの表情が強張った。
百目鬼「俺の秘密も?」
マキ「うん♪」
百目鬼「……あんたは、〝それ〟を承知で俺と結婚すんのか?」
戸惑った悲しそうな瞳で僕を見つめる神さん。
30歳の神さんではしないような表情ばかり、目覚めてからの18歳の神さんは、幼くて割と素直な表情ばかりで、そしていつも戸惑って悲しそうだった。
マキ「…僕も、神さんに話しておかなきゃいけない事があるんだけど。常に人がいたから言えなかったし、神さんにとってデリケートな問題だったから、帰ってきたら言おうと思ってたんだけど」
百目鬼「な、なんだよ…」
マキ「神さん、僕のこと結婚相手だと思ってるでしょ?」
百目鬼「……、違うのか?
ばあちゃんも賢史も他の奴らもみんな、婚約者だの恋人だの彼女だのってそう言ってた」
マキ「うん、恋人なのは本当、でもね、僕と神さんは結婚できないんだ」
百目鬼「は?」
………そう、
神さんは…
僕の存在を認識し間違ってしまっている。
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