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お祭りのにおい(8)
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うねるような熱気の屋台通りを二人は進んでいきます。
「あっ! 焼きそば、こっち!」
目当ての屋台はメインの場所から少し離れたところにありました。
祭りの喧騒と、神社本来の静けさの境目。そこに赤く太い文字で書かれた“濃厚ソース焼きそば”の文字。
「本当に美味しいのか?」
「うん!」
それにしては誰も並んでいません。
奇妙さに首をかしげた龍広を尻目に、響はパタパタと駆けていきます。
「おじさんっ!」
屋台の中で腕を振るっていたのは、ヒグマのようにのっそりしたおじさんでした。
「二つくださいッ!」
とても力のこもった注文。
たいして走っていないのに、響はもう興奮気味でハァハァと肩で息をしています。鼻息も荒い。
それなのに、その眉も口元は今にも泣き出しそうにキュウッと締まっていました。
おじさんは何も言わず、軽やかな手つきで鉄板の上でピカピカ輝く麺と具材をすくい上げ、パックが閉まらないほど豪快に詰めていきます。それを二つ差し出してきました。
そして地元の訛り全開に、
「やー、いがったなやぁ」
しみじみとつぶやき、やさしく目を細めました。
そこで初めて表情を崩し、ニッと歯を見せるように笑ったのです。
「ありがとうっ!」
「なーにっ、おらいには分かってたよわ」
そしてソース色の太い太い腕を伸ばし、響の頭をくしゃくしゃっとなでたのです。
それはまるで二人だけに交わされた約束のようでした。
一連のやりとりを不思議に見つめていた龍広ですが、最後の瞬間、おじさんがこちらを見てとても満足げにうなずいたものですから、どきりとし、
「ど、どうも……」
わけもわからず、軽くおじぎしてしまったのでした。
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