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不明
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「しゃーーーーーー!飲むぞー!今日は飲んで飲んで飲んで潰れてそのまま寝るんだ!!」
「お前そんな酒飲まれへんくせにえらいこというな」
「庄司くんもこんな昼間っから出てきてくれるなんてえらいことだよ、何歳だよいい加減にして」
「お前が酒のみたいっていうから付き合ってんのに喧嘩売ってんのか?しばくで?」
夕方からはバイトに行かないといけないという庄司くんを朝から叩き起こして24時間営業の安酒の飲める居酒屋にきた。一応宮内と古賀にも連絡入れたけど、古賀はバイトで宮内は携帯が一向につながらなかった。宮内に関してはもう二週間ぐらい連絡がついてないけど死んだんじゃないのか?とさえ思う。その話を庄司くんにしたら、どうやら働きたくなさ過ぎて失踪したらしい。またかよっていいながら、今日はそんな庄司くんとサシ飲み。こんなごちゃごちゃの感情のときに、この人とサシ飲みなんてなかなか傷口に塩ってやつかもしれない。でもだけどやっぱり、なんか、なんとかして、記憶を吹っ飛ばしたくて仕方がなかった。
「細かいこと気にしないでパーーーッとのも!庄司くんの奢りで!」
「どつきまわしたろかほんま」
「はいかんぱーーーーい!お疲れさんでーーーす!」
ごく、ごく、ごく、ぷは。
一杯目の生ビールを喉の奥に流し込む。半分ほどに減ったジョッキをどん!と机の上において、口元の泡を拭った。
「これこれ!昼の酒ってまじで罪深くてサイコーなんですけど!」
「せやな。俺はこのあとバイトやけどな」
尖った八重歯でシシャモを噛みちぎる庄司くんが珍獣に見えてくる。ちいさくてちんちくりんで所作のひとつひとつが雑なくせに、居酒屋で働いてるだけあって食べ終わった後の皿のまとめ方は完璧だ。
次のライブのこと、新曲のこと、最近誰かが俺たちのライブを録画してたらしく、それが動画サイトでアップされてること、ついでにそれがクソほど反響を呼んでること…。
今後の方針、未来、宮内の失踪の行方、古賀がよなよな右手で息子を慰めてること。そんな話を話し込んでたら時間が経つのなんかあっという間だった。
ビールに続いてウーロンハイにモスコミュールにピーチオレンジのコンボをキメたら酔いはかなり回ってきていて、庄司くんの姿が朧げにみえはじめる。
「俺さぁ、どーしたらいーかな」
ぽろっと出てしまったのが弱音なのか相談なのかわからないような言葉で。あーこれ、俺が女に言われたら1番うざくなる言葉だな なんて思いながら、氷がとけて薄くなったピーチオレンジを誤魔化すように飲み干す。
俺が突然飲みに誘ったことに、何か理由があるということは庄司くんもきっと知っていたことだろう。だけどこの人はいちいち自分から口を突っ込んでこようとしない。俺が話すまで何も聞かないつもりだったんだろう。大きくて鋭くて感情の読み取れない目がぎょろりとこちらをみて、割り箸でたこわさをつまんで食べた。
「なにをや。聞いて欲しいんやったらもっと興味をそそる感じで切り出してくれ」
「………ごもっともで。」
…
悩みのタネも話してないのに答えなんて降ってくるわけもなくて。俺の悩みに特に興味のなさそうな庄司くんはとうとう割り箸の袋で箸置きを作り始めた。いまさら箸置きなんか必要なくない?って思いながら、俺の相談なんてこの人にとっては箸置きを作るついでぐらいなもんなんだろうと思うとなんだかすこし楽に感じて、支離滅裂に、昨日あった出来事を庄司くんに話した。
誰、とはいってない。
大事な友達に告白をされた。とだけ言った。
多分誰のことか、わかっているとは思うけど、特に驚いたそぶりも見せなくて「へえ」とだけ答えた。
「どうしたらいいのかなぁ」
「真面目に答えたろか? ビビるほど興味ない」
「どこが真面目!?俺、割と本気で、」
「………………」
「友達で、いたいよ」
「ほなそれでええやろ」
「でも向こうはさ!友達って思ってないってことじゃん!」
「ややこしいな!!!べつにお前が友達って思ってるうちは友達やろ!」
そうなんだけどそうじゃないじゃん。
もう今までと同じことはできないじゃん。
大輝は俺のこと、そういう目で見てるってことじゃん。大輝が!俺の!ことを!
そんなのありえなくない!?つーかいつから!?だって二人でラーメン食いに言ったり草野球のチームに入れてもらったり、ライブ来てもらったり、二人で部屋でごろごろしたり、遊園地いったり、そんなことしかしてないのに、そんなことで俺を好きになるってなんかどっかおかしいとしか思えないし、そもそも俺、男じゃん。
また男に好かれてんじゃん。なにそれって感じじゃん。
大輝はしらないんだぞ、俺が愛と…、男と付き合ってたことなんて。なのに、どうしてそんなふうに思えんだろ。怖くないのかよ。友達でいれないかもって思わないのかよ。どんだけ俺のこと信用してんだよ、バカじゃん。バカなんだろ。
なんで、また。
「なんで俺なんだよ」
「クソビッチ臭するからやろガバマン」
「やばいってそのセリフ!!俺結構ガチなんだけど!?」
「一発セックスしとけ!!ほんで相性悪かったらやめとけ!それでええ!」
「庄司くん!?」
本当に心底どうでも良さそうに頬杖をつきながら、庄司くんは枝豆を咀嚼していく。
こういう人だ。この人は。
俺がもう、どうしたらいいか ではなく、どうしたいかの答えをだしていることに気づいていて深追いしてこない。面倒ごとが嫌いなだけ?それとも人の中に踏み込むのが怖いだけ?そのあたりはいつも曖昧にされてわからない。ただ、信用のおける年上、という存在であることは間違いない。
…宮崎大輝は、年上だけど。
……庄司くんとはちがう。
不安定で脆くて馬鹿で鈍感で、だけど一途で真面目で、馬鹿で、馬鹿で。
俺が支えたくて、だけど頼りたくて、そう思うのは当然で。だって、親友?みたいなやつだし、たぶん、そうだし。まだ馬鹿やってたいし、愛としたようないろんなアレコレを、大輝とできる自信が、ない。
「無理だ」
答えは出てた。ただ誰かに言いたかった。
告白されたことがショックだったっていいたかった。
大輝は俺を、友達とは思えないってわけだ。
連絡を無視した、隣の部屋から聞こえた俺を呼ぶ声も無視した。
だって俺を、…好きだと言ったやつだ。
それがどうしても、受け入れられなくて、
「相談してよかった、また間違えるとこだった〜!」
「……………。」
枝豆をたべながら目線だけこちらによこす庄司くんから、「もう十分間違えてるやろ」と言われた気がした。
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