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迷惑
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その後庄司くんとどうやって別れたのか覚えてない。会計のときに庄司くんが俺の財布から諭吉を取り出して支払いしてたのだけ覚えてて、あとはぼんやり、ふんわり。夢の中にいるみたいな、あー酔ってるな、みたいな感覚で。
送ってくれるような優しさを持たないクソチビバカ先輩が、手を振ってた気がする。
「まあ、そんな心配せんでもええように転ぶやろ」
なんて、そんなことを言っていた。…気がする。
「おとなになりてー」
ありがちな電柱に、ありがちなシチュエーションで、ありがちな体勢で、ありがちにゲロを吐く。
自分がまだまだ子供であることを知る。
酒ものめないガキだと知る。
目が回る。
目頭が少し熱くて、ゲロを撒いたせいなのか、悲しいのか、なんなのか。もうよくわからなかったけど、しゃがみこんでアスファルトにつばを吐いた
。
「あーーー、愛ちゃん。俺、お前以外の男に告白されたぞーー」
届かないと知りながら。知っているから、こんな冗談だって言えるんだ。俺は今どんな顔をしてるんたろう。きっとお前が目の前にいたら、こんな風にはなれない。
こんな、かっこ悪いとこ。見せられないもんな。
「……あーぁ。大輝ー、ばーーか、ばか、……お前にはかっこ悪いとこしか、みせてないのになぁ」
自分を心底ばかにしたような笑いが漏れる。
俺はテンパっているだけ。せっかく大輝が俺を好きだと言ってくれたのに、それを驚いて、逃げているだけだ。
今日も、明日も、明後日も。ずっとあいつから逃げることは絶対に出来ないのに、どうして逃げてしまったんだろう。
顔がみたい、みたくない、会いたくない、あいたい、よくわからない。友達に対する感情というよりは、喧嘩した後の彼女に会いにいくような感情が渦巻いていて、それがさらに俺を混乱させた。
なにより。
愛以外の「男」に告白をされて、嫌悪しない自分に驚いた。
付き合ったりしたら、きっと楽しいんだろう。
毎日笑って、毎日ばかやって、毎日抱き合って、毎日キスをするような、バカップルになるんだろうな。だって大輝も俺も、本来はそういうタイプだもん。
そこまで考えて、首を振る。
胸元を握りしめて深呼吸をした。
なにやってんだ。万一の可能性なんか考えてどうするんだ。
また同じことするつもりかよ。なんども流されて、幾度となく傷つけて。恋心のないまま愛するのか。
冷たい風にあたって、少し冴えた頭で思い出す。
『ばいばい』
あの、四文字。
あの、表情。
あの、
お前のこと、忘れてないよ。愛。
大丈夫だから。もう傷つけないから。
俺はちゃんと、幸せになるから。
お前が俺を自由にしてくれたのに、俺がそれを無駄にしたりはしない。
「しゃーーーーー!!」
パァン!と大きな音が住宅街に響いた。
俺の掌が、俺の頬を打った音。けじめの音。
うじうじしてたら前もみえない。
前を
前を。
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ぼんやり浮かぶ街灯の明かりを辿るように歩いてアパートまで帰ると、アパートの下で大家さんが業者らしき人達と話し込んでいるのを見つけた。
「大家さん!こんばんわっす」
「あらぁ、こんばんは。ちょっとちょっと西浦くん、大変なんだよ。実は……、アパート全体のガスが不調でね。今日、お風呂が使えないんだ。ごめんねえ」
「えっ!?やば、マジ!?頭ガチガチにスプレーで固めてんだけど、どーしよ!?」
「裏に銭湯があるから、今日はそこで我慢してくれる?」
ええ〜〜!なんだそれ…!!
そう思う気持ちと、ひとつの閃きが同時にやってくる。
にんまり笑って大家さんには「りょーかいでーす!」といって、ダッシュでカンカンうるさい階段をかけあがる。
「大輝—————!!!!」
その勢いのまま隣人の名前を呼ぶと、さすがは壁の薄い安アパートなだけって、「おわッ!?!!」と、大げさに驚いた大輝の声が聞こえた。
バンバンバンバンバン!!!
「大輝———!!いるんだろー!!開けろよー!!聞こえてんのかよー!!」
たたき壊すような勢いでドアを叩く。
酔った勢いも合間って、力加減が上手くいかない。
これはチャンスだ。たまたまと言ってはあまりにもできすぎている。
神様が男なら裸でぶつかり合って問題を解決しろ!って言ってるんだ。
そうにちがいない。
バンバンバンバンバンバン!!!
「いることは分かってんだよーーー!!!開けろってーーー!!なーーー!」
「うるせーって!やめろって!」
ガチャリ。
ドアを叩き続けていたら、鍵が開いた音がした。
それと同時に扉が開いて、デカイ男がなんとも言えない顔で立っている。
ああ、なんかちょい、久々。
「恋、おま、何してんの!?超うっせーんだけど!!」
「風呂!!」
「は?」
「風呂壊れたって!大家さんが!今そこで会ってさー!なあ銭湯行こうぜ!銭湯!!」
「せ、え?」
「おら行くぞー!大輝だってバイトで疲れてんだろー!汗流しにいこうぜー!」
「ちょっと待ったちょっと待った、」
俺の勢いに負けたのか、大輝は混乱したような顔をして目頭を押さえる。
右手を前に出してストップストップ、と俺の勢いを殺した。
「あのさあ、恋くん、落ち着いて考えてみ、」
「早くしろよー!!」
「………れ、」
「あ、俺お風呂セット持ってないじゃん!大輝も持ってこいよー!5分な、5分!5分後にもっかいここ集合で銭湯いくぞー!」
「いや、だ、大体銭湯なんてこの近くには、」
「大家さんがあるって言ってたから大丈夫だって!場所聞いといたし!意外と近かったし!じゃ、5分後なーー!」
「あ………!!」
俺も負けじとそのまま押し切る。
自分だってむちゃくちゃやってんのは分かってる。
分かってるけど、こうでもしねーと。
(もう2度と、前みたいにバカできなくなるじゃん)
「すぐ用意しろよー!」なんていいながら大輝に手を振って、自分の部屋へ一旦入った。
「…………」
真っ暗な自分の部屋を見渡して、少し酔いが冷める。
ちょっとまってよ、
俺ってどんなんだっけ。
こんな性格だっけ。
おかしくないか、いつもどおりか、大丈夫か、
大丈夫だよな…?
ずるずるとドアを背にしゃがみこむ。
きったねぇ玄関に尻をつけて頭を掻きむしった。
大輝の顔を見た瞬間安心した自分がいた。
どきっとした自分がいた。
何の気なしにでかい手が目の前に出された時、びくっとした自分がいた。
わかんなくなりそうだ。
俺たちは友達、友達のままでいたい。
さっきそう思ったはずなのになんでもう、なんかもう、
「………大輝の、ばかやろー」
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