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一日
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大輝。
あーんな酒、弱そうな顔してとんでもねー酒豪だった。チューハイなんか飲んだ気しねーとかいいながら、高そうな日本酒をあけはじめた時はちょっと引いた。俺、酒好きなんだけど…あんまり強くねぇから羨ましかったり。
そして日本酒はあんまり好きじゃなかったり。つーか、サワーのあとの日本酒ほど口の中がカオスになることってねーよな。チャンポンして簡単に潰れた俺は、ふらっふらのまま家に帰った。ベッドに到達して、ズボンを脱ぎ捨て、爆睡。そこまでの記憶はある。そして、今に至る。
「れーんー!お前いつまで寝てんのー?」
?
??
ガンガンと頭が痛い。完全なる二日酔いだ。自分の酒の弱さに絶望しながら、布団を抱いていたのだが、というかもう八割ぐらい夢の中にいたのだが、頭上から鮮明に聞こえる声。夢か?夢?夢ではない気がする、頭はガンガンとする、体はふわふわとする、声だけは鮮明、あ、これ、夢じゃない。誰かいる。
薄っすら目を開けて、声の方を向くと、壁があった。
は?あれ?誰もいない?
首を傾げる。やっぱ夢だったのかーと、もう一度眠りにつこうとすると、今度は壁がコンコン、と鳴った。
…壁?
「…え?なに?」
「恋ってばー。」
こんこん、こんこん、
壁が鳴る。
拳で軽く、叩いているような音。
がばりと身を起こし、壁を凝視して気づいた。そうだ、ここ、新しい家だった。しかも隣は大輝で、ついでに壁が恐ろしいほど薄いんだった!
部屋には自分しかいないのに、自分じゃない声が聞こえるっていうのはかなり…変な気分だけど。俺は、こんっと一度、壁を叩き返す。
「おーきーたーよー!!なに!」
少し大きめの声でそういうと、大輝は「何?じゃねーーよ!!美容院いくんじゃなかったんですかー!!」とさっきより大きな声が部屋中に響いた。
美容院?何の話だ。ますます首を傾げる。はて、そんなこと言ったっけかな…と記憶を辿ると、昨日、酔いつぶれる少し前にそんなことを言った気がするかもしれない。あ、いや、言ったわ!ばっと時計を見ると、時刻は13時を少し、過ぎていた。やっっっっべぇ!!俺!寝過ぎか!!!
「10分で用意して行く!!ごめん!!」
ごめんの意味を込めてとりあえず壁に頭突きをしておいた。ゴッ!と鈍い音を聞いた大輝が、腹抱えて笑ってんのが聞こえる。
昨日の同じズボン、脱ぎ捨てられたそれを履いて、洗面所に向かう。ひっでぇ寝癖がついていたけど、ワックスを取り出してぐしゃぐしゃと髪に塗りつけた。
いつものマッシュ男子な俺はどこにいったのか。寝癖でくねった髪はまるでパーマでもかけたみたいで、これはまた小汚くみえる。が、今そんなの気にしてられない。コップに突き刺してあった歯ブラシで歯を磨いて、財布、携帯、タバコ、あと何がいる?!あ、鍵か!
適当にクラッチバッグに詰めて、ニューバランスのスニーカーに足を突っ込んだ。慌てて部屋のドアを開けると「うおぁ!?」という声と、ゴッ!という、さっきの頭突きより鈍い音。待っていま、何かドアに当たった!
「バカヤロー!!いきなり開けたらお前、これ、痛い!!
「ドアなんだからいきなり開けるだろ!ごめんぶつかったの大輝!?」
「あーむりだわーこれもう、慰謝料だわー、クレープ奢ってくれないと弁護士呼ぶしかねーわー」
「クレープ奢るから弁護士はヤメテ、俺には未来があるから!」
「ははは、おはよ。なんか今日、髪の毛血染めの綿あめみたいになってっけど、何があった?」
「寝癖!!!」
「ぶはっ!!やっぱさっきまで寝てたのかよー」
ハイ、そうです、寝てました。
お前より酒強くないからね!
アパートの階段を降りながら、俺はホットペッパーで美容院検索。適当に見つけた近所であろう美容院に電話をかけると、ちょうどこの後すぐ、予約がとれた。ラッキー!
大輝の隣を歩く。歩幅がでけぇもんだから、ちょっと早足になりますね。これだから脚のなげー男は!チッと舌打ちをすると、「何に怒ってんだよ」と笑われた。
「お前、歩幅が、デカイんですね!」
「え?あー、ごめんなー、お前そういやチビだったな!」
「175も身長あるっつーの!」
「それ、中学のときの俺の身長」
「ウザすぎ…中学ん時とか170もなかったと思うわ。お前本当に人間なの?」
「遺伝子が有能だと言ってくれ」
「遺伝子が有能遺伝子が有能ー」
「雑か!!!」
と、そんな話をしながら、美容院までの地図を見ながら歩く。…あれ?
さっきより、歩くのゆっくりになった?
チラリ、と大輝のほうを見るけど、大輝は全然俺の視線に気づかないままどうでもいい話をしていた。ゴミの日がどうのこうのって言ってるけど、うん、これ、確実に俺の歩幅に合わせてくれてんだよな、多分。
優しいね、だから女もこいつに惚れんのかな、毎日のようにビンタされてっけど。
美容院に到着した。もちろんとなり通りに座らされた俺たち。美容師さんが「今日はどうします?」と聞いてくる。俺は俺のオーダーより先に、大輝をビシッと指差した。
「とりあえずあの男、小汚いヤンキーからイケメンのお兄さんにしてやってください。あ、ヒゲは全剃りで」
「は!?恋!?何言ってんの!?」
「金髪似合ってないっしょ、あの人。だからそーだなー、この辺の色にして貰えます?そしてやっぱり、ヒゲは全剃りで。」
「おいマジかお前!強引すぎだから!」
「うるせー!言うこと聞いとけって!そんで俺はとりあえず…うーん、マッシュのままで。あとリタッチお願いしますー!」
美容師さんが笑って了承してくれたので、俺が先にシャンプー台につれていかれた。大輝についてる美容師さんが「えっと、本当にいいんですか?」と確認している。大輝は困った顔、してたけど、「まあ、いっか。じゃあそれで」と返事をしていた。
何があってあんなわけわかんねーことになってるか、よくわかりませんけども。でも似合ってねーしもったいねーし、昔のほうがずっとかっこよかった。つーかあんな変な見た目してっから、軽そーな女にしか好かれねぇんだよー。いいやつ、見つかるといいな、例えばちょっと上品な女とか、森ガールみたいな女とか、お前の隣には露出しまくりのまつ毛バサバサの女より、ナチュラル極めた女のほうが似合うとおもうよ。なんて、お節介かもしんねーけど。
じゃあ俺は恋愛しないの?と言われると。
今はちょっと、そういう気分じゃないわけで、引越ししたてだし、バイトみつけなきゃなんねーし、バンドもあるし、忙しいんだよ、うん。忙しいから恋愛とかちょっと、な?
言い訳だ。
わかっている。
言い訳だ。
女受けの悪い赤い髪、そのままでいい。今はまだ。
これでいい。
数時間もかからず、俺と大輝は美容院を出た。ガラリと印象が変わった大輝と、とくに変わりのない、俺。
変われない、俺。飲み込んで、表情を切り替える。
「若返ったじゃん!」
「お前ほんと、無茶苦茶すんなぁ…久々だし、この髪型」
「そっちのが百倍男前にみえるっつーの!あっ!あれクレープ屋じゃね?腹減ったし何かくおーぜ」
「チョコバナナアイストッピングがいい」
「贅沢か!!ま、いいけど。んじゃ、買ってくるからその辺で待ってて」
屋台みたいなクレープ屋で、チョコバナナアイストッピングとブルーベリークリームのクレープを頼む。五メートルぐらい離れた場所にあるベンチに座ってる大輝を見て、やっぱ今の髪型のほうがずっと雰囲気あるなぁ、とか思うわけで。
視線を、綺麗に畳まれていくクレープに移した。
東京にきてから毎日のように大輝と顔を合わせている。そういえば今何をしてるのか、とか聞いてないけど、フリーター?大学生?あいつ、何してる人なんだろうか。大輝について知ってることは、ほとんどゼロだ。そんな基本情報も知らないでもこんなに仲良くなれるんだから不思議だよなぁ。
財布から千円札を一枚とりだして、お釣りと出来上がったクレープを二つ受け取った。五メートル、すこし早足で歩いて大輝の前にずいっとクレープを突き出す。
「アイスさぁ。結構したの方に入れられてたから、手の熱で溶けねーように気ィつけてー」
「おー!ありがと!…恋のそれ、何味?」
「ブルーベリークリームというシャレオツな味」
「なんだそれ!!一口!一口くれ!」
「自分の先に食えよ!仕方ねーなーもー。はい」
「お前ほんっと優しいよな!!いただきまーす!」
がぶり。
と、俺のクレープを口に運んだ大輝。半分ぐらい欠けたクレープが返ってきた。
「一口デカ!!!!!!おま、これ半分ぐらい無くなってんじゃねーか!」
「ふぁんふんもふってへーよ、はんふんほいひ」
「何だって!?クッソ!お前のも半分よこせ!」
チョコバナナアイストッピングのクレープを大輝の手から奪って、大輝の隣に腰掛ける。まてよかなりボリュームあるコレを半分?一口で食うとか、こいつ…バケモノじゃねぇの…。ばくり、負け時と噛り付いたクレープは、非常に甘かった。そして忘れていた、俺バナナ嫌いだったわそういえば。
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