アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
頭突
-
バイト疲れた。なんかもーぐったり?っていうか。カフェの店員だから、それなりに愛想良く接客する、当たり前のことだけど心が重いときはそれだけで疲れる。晩飯作れるほどの料理の才能のない俺は、コンビニで適当にメシを買って、肌寒さの残る道をゆっくり歩いた。いろんなことが頭を駆け巡るけど、とにかくもう休みたい。ベッドに飛び込みたい。あー、でもベッドに飛び込んだらまたムラムラしてきちゃうのかな、ケツ触って、バカみたいに鼻鳴らして、ひんひん言うのいやで枕噛んで、はは。
………疲れたな。
ぐーっと伸びをしながらアパートの階段を上がると、今から部屋に入りますよーというタイミングの大輝が、部屋の鍵を回していた。久々にみた、ほんと、久々だ。思わず立ち止まると、大輝も俺に気づいたらしい。「あ、恋。」なんて、声をかけてきた。
あ、恋?
…………。ぷっちーーーん。
ズンズンと靴底を鳴らしながら大輝の目の前を素通りする。え?なんで無視?って顔、むかつく。自分の部屋のドアノブに、手首からぶら下げたコンビニの袋をかけて、ズボンのポケットに手をつっこんだ。そしてくるりと振り向いて、また大輝の目の前までズンズンと靴底を鳴らして近寄って、二人の距離は10センチ、ってぐらいまで近づいてやる。ますます意味わかんないって顔してる大輝にニッコリと笑顔を投げると、愛想笑いかなんなのか、に、にこっ、みたいな効果音のしそうな顔で笑い返された。はは、またぷちーん。
大輝のしっかりした肩に両手を置いた。ちょっと勢いつけすぎたかな、ばちんっつったけど、痛そうな顔してるけど、知るかボケ!!!!
「10日もどこほっつき歩いてたんだこの馬鹿野郎ーーーーーー!!!!!」
大輝の顔面に向かって頭突きを食らわしてやった!けど!大輝のほうがずっとデケーもんだから俺のデコは大輝の顎に直撃。ごすっ!!と、いい音がした。
「いってええええ!!!!なにしてんのお前!なにしてんのお前!!!前歯全部無くなったらどーすんだよ!!」
「歯医者いけば治るっての!!!なんなの!!ひっさびさに会ったとおもったら『あ、恋』???ハァ?情緒不安定か!!!情緒不安定なのか!!?旅か!?旅人きどりかおまえは!!?」
「…ちげーーよ!!!!言いたい放題いいやがって!顎の骨砕けたかと思ったんだけど!?バイトで帰ってこれなかったんだよ!!」
俺の鋼より強度のあるデコにやられた頭突きがそんなにきいたのか、大輝は顎をさすりながら俺に負けないぐらいの大声で張り合ってくる。
10日も家開けてた理由がバイト?バイトでもなんでもいいけど、この東京にきて毎日のように顔を合わせていた隣人のお前が、突然なんの一言もなくいなくなったら…もう帰ってこねーんじゃねーのかっていらん心配しただろ!!!
「じゃあそう一言言えよ!」
「恋にそんなことまでいう必要ねーだろ!!お前は俺のなんだよ!?」
「…ほんとだ!!!全然ねーわ!!!」
なあ大輝、お前なに怒ってんの!?
やっぱりどう考えても怒りたいのは俺なんだけど!お前がいない間どんだけ寂しい思いをしてたとおもってんだよ!!おもっていたよりずっと、なんていうか、心の支え?みたいな?そんなふうになってたんだけど!お前のことなーーーんもしらないのに都合のいいはなしだよなー!でも、だから、余計に、なんにも話して貰えないのは嫌なんだ。バイトで長く家あける、って、一言さぁ。言ってくれたらさぁ。べつに俺お前のカーチャンでも彼女でもなんでもねーんだから、「へーそうなんだ、行ってらっしゃい、帰ってきたらなんか奢ってネ」ぐらい言ったと思うんだよ。
それぐらい、隣人として、友達として、させてくれたっていーだろ!!
「言う必要とか全然ねーけど!!だけど別に言わなくてもいいことでもねーだろ!3日4日じゃなくて10日だぞ!?さすがに心配するわ!!ラインの一つでもよこせバカ!お前のこと待ってる人間だっているんだよ!」
なに。
目丸くして俺の言葉聞いてんの!?当たり前のこと言ってるだけなのに何びっくりした顔してんの!?
もう一回頭突き?顎に頭突きかまして欲しいわけ!?
「はははは!はは!!ははは!」
「何笑って「あー、…恋、お前やっぱいいわ。」ハァ?」
「うん、ごめんなさい。次から長期で家あけるときはちゃんと言うからさ。」
ぼふん、と、俺の頭の上にでかい手が乗っかった。
「ん!今回だけだからな、今回しか許してやんねーからな!」
「今回も許してねーよな!?すげー唇とんがってるけど!?」
その手を退けて、大輝の部屋のドアを開けた。俺が入り浸り過ぎていて、俺の部屋より見慣れたその部屋。
「西浦くん的に一人で晩御飯食うのは嫌だ。お前のその右手の袋は牛丼とみた!ってことでおっ邪魔しまーす!」
勝手に玄関の電気をつけて、玄関に座り込み、めんどくせー作りの靴を脱ぐ。俺を見下ろしながら「おいおいおいおい、家主より先に部屋入るかー?!つーかお前のメシ自分の部屋のドアノブにかけたまんまじゃん!」と、呆れたような、安心したような顔をしてる大輝。
「俺のごはん、とってきてー」
「はいはい、つーかなんでドアノブに袋かけたんだよ!」
「いやー、顔面にグーパンキメてやろうと思ってたから。俺のグラタンぐちゃぐちゃになるの嫌だし」
「結局頭突きだったけどなー」
今日、大輝が帰ってきてくれてマジでよかった。結構、参ってたからさ。やっぱお前と喋るの好きみたいだ、俺。こんなんじゃいつまでたっても前に進めねぇんだろうけど。
後ろめたいことばっかりしてるけど!!
「は!?なんでこの部屋オーブンねーの!?」
「オーブンなんか洒落たモン使わねーよ!」
「俺が使うんだよ!いま!ここで!このグラタンを!」
「レンジでいいだろ、あったかけりゃみんなおんなじような味だって!」
「そっか、そうかも!」
やっぱり楽しい。
男二人でなにやってんだって感じだけど、楽しいもんは楽しい。いつまでもこんな、甘えてちゃ悪いから、やっぱり俺もさっさと彼女でもつくろう。なんかごたごた考えんのはそれからにしよう。明日の合コン、何着ていこっかなー。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
11 / 49