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偶然
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『渋谷、ハチ公広場の緑色のバスの前に18時』
というラインが神田くんから届いたのは二時間前のことで、連絡遅すぎ急過ぎ!って文句を言いながらもキッチリ時間を守っちゃう俺。すこしだぼっとしたプリントTシャツ、黒のスキニーにトムズシューズ、時計はごついの、手首にレザーアクセ、と、格好はわりと適当だけど、まあ大丈夫だろ。バンドマンなんかこんなもんだよ、とか言って誤魔化せばいいかな、とか思ってるから、やる気ないの滲みでねーか心配。
っていうか、ハチ公広場の?なに?バス?緑?どこだよ!
俺、東京でてきてまだそんなに日が経ってないってのに、ほんっと神田くんは気遣いってもんが欠けてる!だから彼女できねーんじゃねーの?!せっかく顔は綺麗なのに!
と、少しおこです。iPodから流れる音楽に浸りながら街を歩くと、周りは人、人、人!ったく、どうなってんのトーキョー!人口密度高すぎ!
庄司くんが作った新曲、練習するにはやっぱり聴き込まないとわからない。iPodから流れる激しいロックは、やっぱりどう聴いてもかっこいいわけで。これがちゃらんぽらんなあの人が作ったとは思えないわけで。でも正直、俺より庄司くんのほうがギター、上手いんだよなー。だからあの人に褒められたら嬉しい、もっとこうして!って要望をもらったら、『お前ならできるはず』っておもってくれてるんだと思って、頑張れる。俺の意識は合コンからかけ離れていて、帰って練習してーなーとかそればっかり。
あー、だめだめ、そうじゃなくて、今日は新たな恋とやらを見つけに来たんだった。そうそう、名前に恋なんて名付けられたんだから、恋をしてない恋なんてなんかギャグみたい。新しい恋、新しい恋ねぇ。
(新しいもなにも、俺って恋っていう恋したことねーもんなぁ)
健全な18歳とは思えねーよなー。と、そんなことを考えながら顔をあげて待ち合わせ場所に向かって歩く。あ、イヤホン、外しとくかー。初対面の人を待ってる間イヤホンつけてるってのもどうかと思うし。
イヤホンのコードを引っ張って、耳から離す。イヤホンが耳から抜ける瞬間と、耳にイヤホンをさす瞬間が俺はとてもとてもとても苦手だ。なんか、ぞくっとする。だからわざとトラガスとかいうどうしようもないところにピアスを開けた。トラガスをあけていたらイヤホンができないからヘッドホンつけてても納得されっかなーとか思ってたんだけど、ヘッドホンつけるほうがピアスが押さえつけられて痛かった。ので、やっぱりイヤホンが愛用になっている。そしてやっぱり、イヤホンは苦手なままだ。こんなに耳が弱くてどうするんだってぐらいに性感帯じゃ、今日くる女の子に耳打ちなんかされたら勃っちゃうかも。なーんつって。はは、あり得なくもないからそんなに笑えねーし。
とか、どーでもいいことを考えていたら目の前が突然影に覆われた。そして何かデカイのがドンと立ちふさがる。
「ッ、突然の壁!?」
「壁じゃねえよ」
「え?あ!!えッ!?何でいんの!?」
「いやそっちこそ」
びびびびっくりしただろ!!いきなり壁が現れたかと思った!
見上げると、昨日も、今日の朝も見た顔。大輝だった。黒い七分丈のカットソー、少し余裕のある白いパンツ、黒い革のデッキシューズ。足には見慣れたミサンガ、首元には金色のネックレスが光っていた。なんか、いつもの大輝よりほんのすこしだけチャラい。それを絶妙に着こなしている大輝がチャラいのか、なんだお前は、ほんとになんでここにいんの!!そっちこそ?いやいやこちらこそだし!
「俺?俺は合コン!!」
「合コン!?」
素直に今日の予定を答えると、なぜかびっくりされた。なんでだ、俺だっていい加減温もりがほしい、なんなら女の子のふかふかのおっぱいに埋れて寝たい、それぐらいはフツーに思ってるから!!
「ふははは!俺だって彼女作るから!お前が馬鹿みたいに女つくって隣の部屋でビンタされてる中、俺は新しい彼女とイチャイチャしてやるから!!」
と茶化す。
「嫌味!!!悪かったなビンタされるの多くて!!」
と返ってくる。
「もっとマシな子にしろよー、いい加減さ。で、大輝はなにしてんの?ナンパ?」
いつもよりほんの少しだけ小洒落てみえるし、こんなとこにいるし、何用か考えてみたところナンパしか思い浮かばない。そんな感じで女を部屋に連れ込んでんのかこいつは!ふしだらだ!ふしだらーー!とさらに茶化そうとしたら、「俺はそんなに飢えたように見えるわけか。ちげーよ待ち合わせ」と言われた。待ち合わせ、待ち合わせー?
「え、また彼女できた?」
「違う違う。お前と同じ、合コン。で、相手待ち」
「お前も合コン!?マジかー!」
あんぐり、口が開く。なんつー偶然だよ!ここは合コンしたいやつらのお決まりの待ち合わせ場所かなんかなの?びっくりなんだけどまじで。…って、やばいやばい!多分待ち合わせ時間すぎてる!大輝の笑い声を聞きながら、キョロキョロとあたりを見回すと、少し離れたところに神田くんをみつけた。
「あ、あそこに知り合いいた!!」
「え?どれ?」
「あれ!あー、えっと、あの微妙にデカイひと!」
「は?!どれ?!ていうか恋達の待ち合わせ場所ってどこ?」
「なんか緑のバス?の前!緑のバスってあれだよなー?」
「え、まじで偶然、俺たちもバスの前に集合なんだよなー、相手が来るまで一緒に待つかー」
大輝の言葉に賛成して、神田くんがいる場所まで向かう。みんなでかるーく会釈して、でもやっぱ相手がくる気配はないから自己紹介でもしとくかってことで、大輝が大輝のつれを紹介してくれた。
「恋、こっちが平井くん。俺のバイト仲間」
「初めまして、平井雄大(ひらいゆうだい)です」
「初めましてー!大輝がいつもお世話になってます!俺は方角の西に、浦島太郎の浦、そんで恋愛の恋って書いて西浦恋っていいます~!!」
「わかりやす!!」
「そーでしょ?覚えて帰って欲しいんでー」
「そんなに赤い頭してたら嫌でも覚えるわー」
平井さんは俺の真似をして自己紹介をし直してくれた、なんだかノリのいい人だなー。流れが途切れないように、今度は俺が大輝に神田くんを紹介する。
「大輝、こっちがバイトの先輩の神田くん!」
「はじめまして、神田信路です。神様の神に、田んぼの田。信者の信に道路の路でカンダシンジ!音大、アーティスト育成歌手科のド下手糞です〜よろしく!!」
「はじめましてー!音大かー!すごいっすねー!!西浦恋がいつもお世話になってますー!えーと、なんだっけ?宮崎は宮崎県の宮崎で、大輝は大きく輝くと書いて宮崎大輝です!よろしくお願いします!」
「宮崎県の宮ってなんだよ!なんかもっとかっこいいのあったろ、宮殿の宮とかさー!」
「お前、俺の口から宮殿なんて言葉が出たら笑うだろ!」
「笑うけど!そこはウケ狙おーぜ?!」
「求めてねーー!」
場の空気が明るくなる、お互い相手に待ちぼうけ食らわされてるっていうのに。わいわいと話こんでいると他のメンバーも集まってきた。大輝の知り合いの佐藤さんとか、俺の知り合いの山本さんとか。結構な人数、男だらけのむさ苦しい感じになってきたけどそれらしき女の子はやってこない。どーなってんの!時間守らない女はすきじゃねーよ俺!
「大輝大輝」
大輝の服の裾を思いっきり引っ張る。ぐらっと俺の方に傾いてきた体、肩を支えて聞きたかったことを聞いてみる。
「お前らの相手ってどんな子たち?」
「ん?んーと、音大生」
「音大生?」
…?
おん、だい、せい?
あれ、まてよ、神田くんから聞いていた相手の特徴を照らし合わせる。
ひとりやたらとデカイ子がいる、宅配の人とか言ってた気がする。宅配?あれ?いま考えてみると、女の宅配の人って、なんだ?
新聞配達とか?いやいやそんな、今時そんな古風なバイトをしてる女に出会ったことねーぞ。
あれ?しかもあれ、え?大輝達の相手…?
「え、音大?あれ?」
「恋、どした?」
もしかして、と思ったときだった。
相手の連絡先を知っているのか、目の前でスマホを操作してる佐藤さん、その直ぐそばで高い着信音が響く。神田さんがズボンのポケットからスマホを取り出したのが見えた。
「…ん?」
不思議そうな顔をしている大輝。あ、まってまって、俺今嫌な予感がする。
「もしもし」
「え?」
「え?」
佐藤さんは電話に出た神田さんを見て、スマホから聞こえた佐藤さんの声に驚いた神田さんも佐藤さんの方を向く。たぶんこの場にいる全員が、まさか、と思っているだろう。顔を見合わせる。
「え…音大の、神田、さん?」
「はい、音大の神田、ですけど」
「あれ?…え、宅配の佐藤、さん?」
「はい…宅配の佐藤、です」
「え、この電話…」
神田さんが佐藤さんに近づいてスマホの画面を向ける。画面を覗き込んだ次の瞬間、佐藤さんが額に手をあてながら爆笑し始めた。
「あはははははは!!うっっそ!!まじで!?」
「え、やっぱそういうこと!?」
「先輩、どうしたんですか?」
「間違えてた!!」
「え!?」
「女と男!!間違えてた!!こっちの人たちが今日の合コン相手だわ!!どっちも男だ!!」
「ええ!?」
その言葉を聞いて大輝と顔を見合わせる。やっぱり!やっぱりなんか変だと思った!!俺たちの合コン相手は女の子じゃなくて、手違いで来た大輝たちだった!しんっじらんねー!こんな無茶苦茶おもしろいことがあるかー!?
「あははははははははは!!!マジかよ!!」
盛大に笑ってる大輝につられて、俺もたまらなくなって噴き出す。
「あはははははははは!!なに!!合コン相手大輝たち?!」
「みたいだなー!!うわウケる!!あははは!!いやー、今日はよろしくお願いしますー!!」
「いえいえこちらこそー!!あははは!!マジか!!相手大輝か!!うわー!!俺もう大輝一筋でいくわ!!」
「ターゲットにされたしな!!お持ち帰りされるわ!!!」
「持ち帰る持ち帰る!!っつうかどうせ帰るとこ一緒!!」
「あははははは!!」
なんだこれ!つーか神田くんも、相手が宅配の人間って時点で気づけよーー!!ほんっとどっか抜けてて天然なんだから!こんなとこで発動されたら笑うしかねーじゃん!周りの目なんて気にせず大笑いして、ひーひー言いながら互いの背中を叩き合った。
「なにこれめっちゃウケるじゃん!!えー!!どうせならこのまま飲み行こうぜー!」
「もう予約入れちゃってるから行くしかねーよ!」
へんな縁だけどこれもなんかの縁だよなー!ってことで、満場一致。そのまま居酒屋に直行した。
なんか、いい意味で俺って女運ないのかも!
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