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本屋
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あったま痛ぇーーーーー!!!ガンガンガンガン内側から脳みそ殴られてるみたいな、そんな頭の痛み。間違いなく二日酔いで、なんかビミョーに気持ちわるい。
あの後俺は大輝の部屋の冷蔵庫から炭酸水を拝借した。水道水はちょっと躊躇ったから。炭酸水、しゅわしゅわするくせに味がない、あれがどーにも苦手だったのに、久々に飲んでみたら美味しいと感じた。味覚も変わるもんなんだなぁとか思いながらもう一度大輝の寝てるベッドに潜り込んで朝を迎えて、今。
ほんとはそのまま自分の部屋に帰ったってよかった。というか、そのほうが迷惑はかけないしそのほうがよかった気がする。けど、俺は三秒悩んで、大輝のベッドで二度寝を選んだ。「どこにも行かない」と、声をかけておいて帰るってのはなんか薄情な気がして。
俺が目を覚ますと、隣に大輝は居なかった。またどっか行ったのかな、いやまて、とりあえず頭いてーー!体を起こして項垂れる。がんがん、がんがん、外から聞こえる道路工事の音さえウザいと思うぐらいに痛い。
「うーーーー………まじ、むり…」
こめかみを抑えて痛みに耐えていると、ジャーーッと水を流す音が聞こえた。それは聞き慣れたトイレの水を流した音で、その音が聞こえてきたすぐ後にがちゃり。部屋の扉がひらく。
目線を上にあげるとでかい男がひとり、びちゃびちゃに濡れた手をズボンで拭きながら「あ、」と言った。
「恋。起きた?おーおー、すげぇ二日酔い丸出しの顔、だから言ったのに!」
「はよ〜…ちょっとハメ外しすぎた感ヤバイ。あ、昨日夜さぁ、炭酸水勝手に貰ったから」
「知ってる、飲みっぱなしでテーブルの上置いてあったから。それはいいんだけど、お前大丈夫かー?俺、今日恋と本屋行こうと思ってたんだけど無理そうかー」
「本屋ぁー?あーいけるいける、俺二日酔い治んの早ぇし!熱湯のシャワー浴びたら一発だから、一時間まって!一回部屋帰るわ」
ベッドから抜け出して、脱ぎ捨てられてるズボンと投げっぱなしになっねるリュックをひっつかむ。リュックをずるずる引きずりながら玄関に向かうと、がしっと肩を掴まれた。
「まてまてまて、ズボン履こう!?」
「部屋隣だし今から脱ぐしよくね!?」
「バカか!バカなのか!捕まるっつーの!!」
「うるせーーっ!もー、分かった分かった、分かったって!」
このアパート、入居者が少ないからあんまり人に会うことがない。だから一つとなりの部屋に移動するぐらい、ズボン履かなくたって問題はねーだろって思ってたんだけど、ダメか。そうか。渋々とズボンを履くと、スキニーがぴっとり脚にくっついてくる。ベルトの前のチャックはそのままに、靴の踵を踏んで部屋をでた。
ほらみろ、誰にも会わないまま無事自分の部屋に到着。ズボンを履いた意味を問う。俺ほんっとズボン嫌いなんだよなー、なんかもぞもぞするし。玄関に置いたまま、ソッコー服を脱ぎながら風呂場に直行した。熱湯のシャワーを浴びながら、壁のタイルに手をつく。
…マジで俺、ゴミか?
散々飲み散らかして迷惑をかけてなにやってんだ、もう甘えっぱなしはやめるんじゃなかったのかよ俺のバカ。
今日も大輝と一日を過ごすのか。や、まあお互いバイトのない日は暇だし家は隣だし自然とそうなってもおかしくない、当然だと思う。きっと明日も明後日も顔合わせて、いい友人関係を築くわけだ。…それってまるで恋人みたいだな、毎日毎日飽きもせず、はは。大輝と付き合ったら幸せなんだろうな、辛いことも悲しいこともきっと、そう無いんだろう。と、何故か自分という存在を客観視できるのは、大輝をそんな対象で見てないからであって。いい友達でいれる確信があるからであって。
それになんの不満もないからいいんだけど。あいつが本気になれる彼女ができたら、きっとこんな生活も送れないんだろうな。なーにーそーれー寂しー、とか!思ってみるけど、…それはもっと先の話になりそうだ。
昨日の夜、びっくりしたなぁ。
急にあんな顔、みせるんだもんなぁ。
あんな痛そうな顔、誰がそうさせてるんだろう。俺ができること、なんだろう。
あの様子をみると、新しい恋を本気で探してるようには到底思えないし。それは俺も一緒だし。口先だけで彼女欲しいって言っても、実際そんなに求めてなかったり。今の生活、結構楽しいとか思ってたり。
痛いほどの熱湯が俺の目を覚ましてくれる。冷静になると自分の酒癖の悪さを思い出して、そんで反省して、そういえば昨日の飲み代は大輝が払ったのかな、悪いことしたなぁ。とか、そんなことばっかりで。
感謝の返し方は人それぞれ、気持ちだったりお金だったり、俺はなにで返そうか。
ぼーっとしていた頭が覚醒して、シャワーから吹き出す熱い湯を止めた。蛇口をしめるときゅ、という音、体をふいて髪を乾かして歯磨きをして、適当な服を着た。洗濯物がたまってる。そろそろ一階のコインランドリーにいかなくちゃな、と思いながらも昨日着た服をぽい、と洗濯物カゴになげた。
「だーーーいーーーきーーー、用意できたーーーー!!」
と、ベッドの上に飛び乗りながら大きめの声を出すと、大輝の部屋から「おーーー!今から家出るわー!」と、返事がくる。ほんっとどーなってんだ!ってぐらい、このアパートの壁の薄さに笑いながら昨日と同じリュックを背負って部屋をでると、大輝が丁度、部屋の鍵を閉めていたところだった。
「やーやー、大輝くん!元気かね!」
「お前さっきの死にそうな顔何処に置いてきたんだよ!元気ですよー、恋とちがって酒弱くねーからー」
「お?嫌味か?お?つーか昨日はごめんなー!ありがとなー!本屋だっけ?なんかお目当ての本でも?」
「んー、まあそんな感じかな」
「じゃあその本は俺が買うわ、あと今日の晩飯もね!昨日飲み代出してくれたんだろ?」
「恋はビミョーに律儀だなぁ、別にいいんだけど。たまにはオニーサンさせろって!」
「むりむり対等に生きていこう?やめよ?突然大人みたいな一面見せてくんのほんとやめよ?」
「ほー、俺に惚れたか…」
「ふざけんじゃねーよ、半笑いになるわ!」
「なんだよ、めちゃくちゃ笑ってるくせに!」
じゃあ行こうか、とか、言葉もかけず、お互いなんとなくのタイミングで動き出す。アパートの階段、鉄かアルミかわかんねーけど、男二人が同時に降りると、かん、かん、とうるせー音がする。
この辺、本屋ってどこにあんのかな。俺もギターの本とか欲しいなー、つーか今日、すげーのどかだなぁ。大輝とまったり話ながら道を歩くのは、結構すき。いちいち大輝の顔を見上げなきゃなんねぇから首はちょっと疲れるけどな!
しばらくして大きめの本屋に到着した。微妙に筋肉が固まってんのか、体が痛い。ぐーっと伸びをしながら自動ドアをくぐると、大輝は何故か文庫本のコーナーに向かう。文庫本…文庫本!?
「お?おま、おまえ、小説とか読むの!?欲しい本って漫画じゃねーのかよ!」
意外すぎて目から鱗どころか目からギターでてきそう。恐ろしい男だ…文庫本だと…?俺はいま、きっと信じらんねー!って顔をしてるんだろう。大輝はチラ、と俺をみて、ニヤニヤし始める。
「恋は小説とか読めなさそうだな」
「うるせーよ!びっくりした、古賀が外国の小説読んでた時ぐらいびっくりした!」
「その時々でてくる古賀って誰だよ!」
「うちのバンドのドラムだってば!あいつハーフだから英語余裕なんだよな、頭悪いくせに。うちの曲の英詞、全部あいつが訳してんだよ?有能すぎ〜」
古賀の話を軽くしながら、俺も目の前にある文庫をひとつ手にとってペラペラとめくって中を見てみる。
文字、文字、文字、文字、文字の嵐。軽く目眩がした。
「うげぇ……」
「はは、カエルが潰れたみたいな声だすなよ!小説も読んでみたら面白いから。」
「あーやだやだ、インテリかお前は。買う本決まってんの?」
「ああ、うん、この三冊。」
平積みにされている小難しそうな文庫の新刊を、ぱぱっと三冊選んだ大輝。小説とか読むんだなぁ、俺と小説は相容れない存在だけど。こいつが部屋の中で静かに小説読んでるところってあんまり想像できない。つーか三冊って、三冊って…俺、小説三冊読もうとしたら五年はかかりそう。心なしか嬉しそうな顔してるし、まあいいんだけど。
「俺漫画買おー。ワンパンマンの新刊出てんだよなー。宮内に貸したらさ、あの真顔のプロが笑ってんの!すげーレアだぜ」
「恋のバンドって、かなりキャラ濃いよな。庄司とか真顔くんとかハーフとか、赤キノコとか…」
「赤キノコっていうなー、イケメンと言えー!」
「イケメンイケメン」
「うぜー!」
冗談を言い合いながら、俺もお目当ての漫画を手に取った。用は済んだしレジに向かうのかと思いきや、大輝はまだ店内をウロウロするらしい。
俺も大輝についていく。と、アダルトコーナーの前を通った。素通りしようとしている大輝の服をぐいっと掴んで立ち止まらせる。なんだよ、と言いたそうな顔、俺はニヤニヤ顔。
「どの子がお好み?」
アダルト雑誌の表紙を指差しながらそう言うと、大輝は少し目を細め、「んーー」と悩みはじめる。
「この子」
「ぶはっ!!巨乳ーー!!」
「胸があればあるほど越したことはねーよ?!巨乳は夢が詰まってんの!」
「巨乳すきとか言って揉まねーヘタレのくせにー!俺は美乳派だけどな、大きさより形だろー。」
自分の好みを告げながら、大輝の胸を揉んでやろうと手をのばす。胸板あるんだから少しぐらい揉めてもいいはずのそれは筋肉の塊で、岩か何かかと疑うぐらいに硬かった。
「………人ですか?メタル仕込んでんの!?何これ硬っったい!!」
「人ですよ。恋だってこれぐらいあんだろー」
と、いいながら、今度は大輝が俺の胸に手を伸ばし揉んできた。残念ながら俺は腹筋は割れているものの別に筋肉質なわけじゃない、ふつーに揉めてしまう。もみっ、と音がしそうなぐらい鷲掴みにされたので、「あん、えっち!」と笑うと、「…美乳派、か」とほくそ笑まれた。
「おまえ俺のパーフェクトの乳を揉んでおいてなんだその顔!!!!」
「パーフェクト?パーフェクト?ははっ、なんもなかったけど?魅力ねーな!」
「俺だって岩みたいに硬い乳に興味ねーよーー!!」
「はー!?俺だって恋みたいなつるっぺたに興味ねーからー!」
ぎゃいぎゃい騒いでいると、周りの視線が痛かったのでお互い口を押さえて一瞬黙る、そしてまた、ぶはっと吹き出した。
あー、楽しいなー。結局エロ本を買ったりすることもなく、文庫三冊と漫画一冊をレジにもっていって、ブックカバーをお願いしながらお会計を済ませる。大輝に「ん」と言って文庫を渡すと、「あ、カバーつけてくれたのか、ありがと」と言われたけど、よく考えたらこいつ、カバーとか要らなかったかもしれない。
そのあとは適当にぶらぶらしながら時間を潰して、一緒に飯くって、またくだんねー話して、同じ帰路を歩く。今日は俺は自分の部屋に帰ってきた。しん、とする部屋がなんか寂しかったから、ギターをにぎってギターの練習をした。もしかしたら隣の部屋につつぬけかも。煩かったらゴメンね!でも大輝は、気にしないんだろうなーとか思いながら、あ、明日朝からバイトだ、夕方は暇だな、とか、思いながら。
なんとなく、この東京でやっていけている。
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