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手帳
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いつもより少し長引いたけど、本日の労働が終わった。そして俺は神田くんに渡されたオナホをどーしてやろうかと、そればっかり考えていた。これ、べつに使わなくたってオナニーできるしなぁ。
公園のベンチに座って、缶コーヒーを飲む。タバコに火をつけて、ぼーっとしながら色々と考えることが山積みだ。
もう、愛のことはいい。もういい、たくさんの元気をもらっておいて、いつまでもくよくよしてたら男じゃないよな。胸の蟠り、まだ燻ってるのに押さえつけるように別のことに意識をそらす。次のライブのこととか、大輝へのお礼とか、なんかそんなことを考えてるほうが時間は早く過ぎて行くから。来月はライブだっていうのに、五曲披露する予定なのに、ラスト一曲がどーーーしても、これまたどーーーしても決まらなくて。庄司くんが頭を抱えていた。俺になんかできることねーかなーとか。こんな頼りないギタリストってどーなんだよ!とか、考えてながら、ごくん。コーヒーを飲み干す。
あー、そういえば。大輝にこの間も変に気を使わせてしまったな、あの日の礼しないとな。つーか、あの日の礼というより、日々の礼?んー、なにをしたら喜んでくれるかな。俺バカだしどーしよーもねーんだよなー。んん〜。
「あ。」
少し悩んで閃いた。ので、ベンチから立ち上がってゴミ箱に飲み干した缶コーヒーを投げる。あんまり東京、詳しくねーけど!ちょーっと街にでようかな、って。
電車に乗り込んで5駅、並愛では想像もつかないほど人の多い街、ココを歩くのももう慣れたもんで。大通りをぬけて、少し入り組んだ道を歩く。オシャレな雑貨屋の並ぶその道、さすが、歩いてる人もオシャレな人が多いな。古賀の働いている個人経営の雑貨屋、たしかこの辺だったはずなんだけど。きょろきょろしていると、こじんまりとしているけれどかなり綺麗な店の中に、金色の頭を見つけた。
急に訪れた成長期、とはいえ、古賀の身長が日に日に伸びていく。ちょっと怖いレベルに。最後に会ったのは二週間前、二週間前よりまた背伸びてる?体の骨が痛いのか、肘をさすっている古賀がなんかおかしくって、笑ってしまった。
からん、と小さな音。雑貨屋の中にはいると「いらっしゃいませー」と作りものの古賀の声。それにまた、ぶっ、と吹き出すと、古賀が「あっ!」と言って、俺の方に近づいてきた。
「恋くん!どーしたの?!」
「どーもしないけど、お前販売員にあってんね!」
「うっそだー、今笑ったよね!」
「はははっ、そうそう、あのな、俺欲しいもんあって。」
「欲しいもの?」
「うん。もー5月だけど、スケジュール帳ってある?」
「んー?あるさ?四月始まりだけど。なに?恋くんスケジュール帳なんかつけてたっけ?いつもスマホのカレンダー使ってるよね」
「俺じゃなくて、プレゼント用。」
「だれに?!俺に!?ありがとー!」
「図々しいわ!ちっげーよ!」
けらけら笑いながら、古賀にスケジュール帳の置いてある場所まで案内してもらうと、ああ本当だ。数は少ないけどこれまたどれもセンスがいいというか、シンプルなのにオシャレなスケジュール帳が5種類ほど置いてあった。
ベージュ、ホワイト、黒、ブルー、オレンジ。革製のもの、布地のもの、いろいろあるけど。一際光って見えたのは、プラスチックケースに入ったオレンジの手帳。
ちょーっと子供っぽいか?いやでも、大輝もあーみえてまだハタチになってないんだよなー、これにしよっかな。大輝の、色みたい、だし。
「あれ、即決さ?」
「うん、似合いそうだしこれにするわ!」
「わー、誰にあげるのか知らないけど、…いやだいたい想像つくけど。俺も会ってみたいさー、大輝さん?って人」
「ライブ呼ぼうと思ってるし、そのうち会えると思うぜー」
そんな話をしながらレジに向かうと、古賀がぽちぽちとレジを打っている。あれ。なんか表示された値段が…
「なんか定価より安くね…むぐっ!「しーーっ!友人割さ、店長に怒られるから内緒ね!」」
「こーがーーちゃーん!聞こえてっから!なーにが友人割だこのやろー!」
「ぎゃあああ店長ーーーっ!!ごめんなさいーー!!」
古賀の頭をぐりぐりと押さえつけながら、笑顔なのに青筋たてているその人はこの店の店長らしい。俺と同じぐらいの身長、古賀より小さいのにパワフルだな、とつられて笑ったら「恋くん助けて!」と、髪をボロボロに乱した古賀が半泣きで助けを求めてきた。
「定価でいいから!店長さんそいつを許してやって下さい」
「あー、ははっ、まあ友人ちゃんに免じて許してやるよ、仕方ねーなぁ。もうレジ打ち込んでるし、この値段でいいや。プレゼント?」
「えっ、あ、プレゼントです、男にスケジュール帳って変かなー?とは思うんですけど!」
「変じゃないと思うけど、普通は恋人にあげるものだよね」
「ぎゃーん!やっぱ変じゃないですか!!」
「あはは」
そんな会話をしながら、お金を払う。定価より千円以上安く手に入ってしまった、ちょっと高めのスケジュール帳。プレゼント包装は、なんかちょっとこっぱずかしかったからナシにしてもらった。
「また来てね、古賀ちゃんのお友達ちゃん!次は割引しないけどー」
「うわーん!店長ごめんなさいー!そろそろ離して!痛い痛い!」
「あはは!また来ますよ、今度は友達と一緒に」
古賀の頭を脇腹に抱えるようにしてごりごりと締め付けている店長と、やっぱり半泣きの古賀にお見送りをしてもらって店をでた。俺のリュックの中にはさっき買ったスケジュール帳と、神田くんにもらったオナホが一緒に入っている。なんともカオスだな、と思いながら帰宅。喜んで貰えるかなぁ、…………やっぱスケジュール帳って貰うの恥ずかしいもんか?
んーー、考えたら俺もちょーっと恥ずかしくなってきた!
でも、大輝の言葉を思い出して、その気持ちをごくりと飲み込む。
『もう、置いていかないで。』
あの日、俺の声は大輝の夢の中に届いたんだろうか。「大丈夫」なんてなんの根拠もねーのに、そういいながら撫でた大きな背中が震えていた。
四月始まりの七月終わり、すこし変わってるスケジュール帳。ここに俺と遊んだ日とか書き込んで貰えたらいいな、とか、思ったんだ。そしたら俺がちょっとでも、傍にいることが証明される気がして。思い出の共有、できるんじゃないかな、とか。バカな落書きでいっぱいにしたら、ちょっとは楽になってくれるんじゃないか、とか。…。
なんだこれ、安易な上に恥ずかしいな!
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