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夜になったらパレードとかもやるらしい、けど、俺たちはパレードに人が集まってる間、がらんと一気に人が減る人気アトラクションを攻めることにした。待ち時間なくすんなり入って騒いで、を繰り返して。色気ねーな俺たち、なんて言って。
「んあーー!乗り尽くしたな!あと残ってんのなんだ?お化け屋敷と、観覧車とかー?あ、メリーゴーランドあるけど大輝一人でどうぞ」
「なんで俺が一人でメリーゴーランド乗らなきゃなんないんだよ!シュールすぎる!」
「俺は大輝のそんな姿を写真に収める係すっから!」
「写真、あ、今日写真とってねーなー全然」
と、言われて。あ、確かにと思った。遊ぶことに夢中だったから余計に脳内から排除されていた思い出づくり、そういえば俺が昨日かった大輝へのプレゼントも、目的は思い出づくりなわけで。そう思うと写真撮りたいなーとも、思うわけで。
「撮ろう!写真!!」
思い立ったらすぐ行動。俺の短所でもあり長所でもあるので、リュックからスマホを取り出した。撮ろう、とは言っても、背景はガッツリお化け屋敷なんだけど。
「まてまてまて、ここで撮んの?!なんか映りそー!」
「ビビってんの?大丈夫だって、それも記念記念〜!ほら、真っ暗になる前に写真撮ろうぜ?な?」
ずいっ、と大輝の肩に肩を寄せる。ぴっとりくっついて、インカメに設定しながらカメラを向けると、大輝が見切れる。
「…………かーがーめーよー!!」
「んー、わかった、俺が撮ればいいんじゃね?スマホ貸して」
「あっ、ちょっ、おま、ほらー!今度は俺が見切れた!!でけーよお前ー!」
ぎゃいぎゃいお化け屋敷の前で騒いでる男二人なんて、周りからしたらネタにしか見えないんだろうけど。結局大輝にちょっとかがんでもらってハイチーズ、の合図で写真を撮った。カシャ、と一度だけ押したつもりだったのに、なぜか連写モードになってて、13枚ほど同じ顔が撮れました。それにまた爆笑して、13枚も撮れたら他はもういらねーな!なんていいながら、いい感じに空が暗くなってきたことをいいことに、俺たちはお化け屋敷というものに入ることにした。
先に言っておくけど、俺はべつにホラーが苦手なわけじゃない。これはほんと、マジ。いや、庄司くんや宮内ほど無心で観れるわけでもねーんだけど!人並みにビビるけど、人並みに楽しめる。それは大輝も同じらしい。
スタッフの人が「ホラーナイトツアーにご案内します、いってらっしゃーい!」と言うのと同時に、俺と大輝は屋敷の中に進む。でっけー扉の前で、すーはー、と深呼吸。本日何度目かわからないけど顔を見合わせて、こくり、と頷いた。お互い言いたいことは同じなんだろう。
「ビビって漏らすなよ〜恋〜」
「それ俺のセリフな〜」
「…………。」
「………………。」
「「手離すなよ!」」
「…………ぎゃははは!」
「あはは!!」
まあそりゃ、怖いってわかってるとこに行くんだから心の準備は必要なわけでな。ぎゅ、と固く握った手のひら。どちらともなく扉を開けて、中にはいった。
ギィ、…ぱたん。
雰囲気最強かよ、薄暗いそこは路地のように入り組んでいて、なにやらひんやりと寒い気がする。
俺たち二人の足音しかしない。ときどき、ぽつ、ぽつ、と雨が降ってるような演出がされて、つめてーとかいいながら進む。
「………なあ、なんも出ないな?」
「………もしかして俺たちが今ホモカップルだからお化けがビビってんのかも」
「そうかも!!」
そんなバカなことを言いながら、ぐんぐん進もうとすると、くいっ、と服の裾を掴まれた。
「おい〜大輝〜ビビってるからって服の裾まで掴むなよー!」
「は?掴んでねぇよ?」
「…え?」
でも確かに、くいっ、くいっ、と服の裾を掴まれている。え?…え?
ぞわっと変な鳥肌が立った。大輝もそれを察したのか、なんか苦笑いをしている。せーので振り向こう!ということになって、せーの!といいながら振り向いたら、いた。
青白い肌をした男の子が。
「っっっ、!!!!?!!!だっ、い!き!!!」
「!、!!!?!、、」
「うわぁぁぁまじ、まじかよすげええーー!すげえリアルーー!ハハハハ!」
「リアルリアル!!人形!これは人形!!人形でありますように!!!ハハハハ!!」
ぐんっ!と前をむいて、その男の子を振り払って二人で全力疾走した。ちょっとまって、そういうやつか!!いきなり脅かしてくる系じゃなくて、ガチのホラーハウスかよ!怖すぎ!!!!!
すたすたすたすた、さっきより早足になる俺たち。道中いろんなお化けと遭遇して「ぎゃーーー!!!」「うわっ!!きも!!!」とか叫び倒していた。無我夢中で出口まで走る俺たち。そして無我夢中すぎて、手を離してしまった俺たち。さらにいうと、気がつけば隣を歩いていたはずの大輝がいなかった。
…食われたか、死んだか、食われたか、死んだな…。ご愁傷様…じゃなくて!!あいつどこいった!?つーか俺が迷子か!?いや迷子じゃねぇと信じたい!ただ俺が先を行き過ぎただけ、もしくは大輝に置いていかれただけだ!だってこのお化け屋敷、通路は一つしかないって言ってたし!スタッフさん!
どうしよう、下手に動かないほうがいいかな。きょろきょろ、辺りを見渡すと、少し先に光がみえる。おそらくアレが出口なんだろう。と、いうことは、やっぱり俺が大輝を置いてきたのか!?マジか俺!ビビりすぎか!
自分の行動を振り返ってみる。が、ほんとに無我夢中でお化けから逃げていたから全然覚えてない。あー、どうしよ、出口で待つか?それともここで待つか?とか考えていた時だった。
「っ!!うわああああああ!!」
「ぎゃああああ何!??」
突然、肩にぽん、と何かが乗っかった。さっきの男の子のトラウマで、すげービックリして叫びながら腰を抜かす。…ん?今俺の叫び声と、誰かの叫び声、混ざってなかったか?
恐る恐る振り返る。そこにはでかい壁、もとい大輝が立っていた。
「おーまーえーなー!俺を置いていくなよ!心細いだろ!」
「それはごめん!!だけどお前、どうしてくれんの!?腰抜けた!びっくりしたんだけど!」
「腰抜けたぁ?!まじかよ!ははは!俺だんだん作り物に慣れてきてさ〜」
「俺はお前の肩ポンにびびったんだっつーの!あー…ごめんちょっと肩貸して、脚が子鹿すぎて立てねーー!」
「肩とか届かないだろー、…よいしょ。」
「あ、さんきゅ。」
大輝が腰を支えてくれたから、なんとか立てた。このまま出口出るの恥ずかしいなー!と思っていたら「恋、はずかしいなー!」とニヤニヤ笑われた。うるせー!と言い返しながら、お化け屋敷を出る。
スタッフのお姉さんが「お疲れ様でした、どうでしたか?」と笑いかけてくれたから「ムッチャ怖かったですよ!!とくに序盤に出てきた小さい男の子!俺の服の裾掴むの!ちょー怖い!」と言うと、スタッフのお姉さんが怪訝そうな顔をする。
「…お化けスタッフに、小さい男の子なんていませんよ?」
かちん。俺と大輝は固まった。いや、いたよ、いたいた、だって確かに見た、いたよ、いたよな?
ダラダラ冷や汗を垂らしながら大輝を見ると、大輝もダラダラと冷や汗を垂らしている。そして、二人で「ぎゃーーーー!!!まじかーーー!!」と叫んだ。スタッフのお姉さんが、最後の演出をしてくれただけなのか、はたまたガチもんの幽霊だったのかはわからないけど、とにかく騒いで、騒ぐだけ騒いだらだんだんと笑えてきた。
「たーのしかったなーー!」
足腰もしっかり立つようになってきたので。ぐいーっと伸びをしながら外の空気を吸い込む。すっかり夏の匂い、夏の夜の匂いがする。パレードの明かりで明るい遊園地、眩しさに目を細めた。
「恋ー、今日はありがとな」
なんて、俺の一歩後ろをあるいていた大輝が突然礼をいいだした。なに?突然。そんなに女の子に遊園地断られたのショックだったの?俺は今日超楽しかったんだけどなー!だから礼なんていらねーのに!つーか俺が礼を言いたいぐらいなのに!
振り向く、大輝もパレードの明かりが眩しいのか、目を細めていた。
「何言ってんだよ。今日はデートなんだろ?大事なもの、忘れてる」
「大事なもの?なにそれ」
「あれ。」
アレ、と言って俺が指差したのは、でっかい観覧車。この遊園地が値上げした理由、あの観覧車だったりするぐらい人気なんだよな。だから多分、パレード開催中の今がちょうどいいと思うんだよね。きょとん顔をする大輝に、にーッと笑いかける。
「アレ乗んの!?まじか!」
「俺アレ乗りてーなー大輝くーん」
「以外だなー、あんなの興味ないと思ってた。」
まあ、実際あんまり興味はなかったりする。観覧車なんて彼女にせがまれなければ乗らないし、しかも男二人で観覧車なんてむさ苦しいにも程がある。だけど俺はどーしても、アレに乗りたかった。なんでって?あのな、………遊園地たのしみすぎて、プレゼント渡す機会を逃したから。
本当は昼飯んときに、はいって渡すつもりだったんだ。ハンバーガーが思ったより食べにくくて、そっちばっかに気がいって、すっかり忘れてた。
俺は何も言わずに目で語りかける。いくの?いかないの?
「よし、乗るかー観覧車。久々だなー」
大輝が笑った。
よかった、今日はずっと楽しそうで。いつも、時々上の空になるの、実は心配してたんだ。いつも、ここにいるのに何処かに行きたいような、何処かに焦がれているような、そんな姿が気になってしかたなかった。別に俺は、もう、誰かのヒーローじゃない。それに誰かの恋人でも、誰かの道しるべでもなんでもない。ただ、俺が潰れそうなときに、思いっきり笑わせてくれた人の心の内側、覗かなくていいから、理由なんて知らなくてもいいから、俺も大輝に同じ事をしたい。
部屋、片付けたのなんで?
なあ、ほんとはずっと、何を考えてる?
聞きたいことはたくさんある。
でも、きっと、それは。触れられたくない部分なんだろう。
それは、俺にもあるからわかるよ。
だから聞かない。そのかわり、思い出作ろう。いっぱい。
観覧車に乗り込んで、だんだんと地上から自分達が離れていく。自分より高い建物が、小さく、小さく、なっていく。目を細めて夜景を見ると、今日一日が終わるのを感じた。
「大輝といるとさ、一日が三分ぐらいに感じる!」
座るところに膝をたてて、大輝に背を向けて窓に張り付いていた俺は、ふ、っと振り向いた。大輝も外を眺めていたのか、俺が振り向いたらゆっくりとこっちを向く。「俺もだー!」という大輝に、また、にかっと笑いかけた。
「で、恋くん考えました。」
『置いて行かないで。』
初めて俺にみせたデカイ弱音が、忘れられないでいた。置いていかないで。…俺も、誰かにそんなふうに思われたいな。いつか。そうやって思考を切り替えて、あんまり考えないようにしていたけど。
一つ年上なだけある。ビミョーに触れられたくないことを濁す技。それは俺もよく使うから、わかる。でもそういう時って、ほんとに誰かに助けて貰いたいときだったりするんだ。待ってるんだ、自分が息を吹き返す瞬間を。
それがどれだかわからない。大輝にとって、何が蘇生術なのかはわからない。それが俺であればいいのに、なんてことも思わない。ただ、俺も、俺で、一人の部屋は寂しい。
一人で生きるのは、難しいと知る。
愛と、大輝のおかげだな。
俺の言葉の続きを待っている大輝に「目ー瞑って!三秒!」というと「…キッスか!?まだ天辺じゃないしそういうのはやっぱりごっこでやることじゃないとおもう!」とか意味不明なことを言われた。
「だーれが大輝とキッスなんかするかよ!そんなのはほんとに彼女できたときにして!」
「!?キッスじゃないならなんなの!?怖っ!」
「いーからはやくー!!」
おずおずと、ちょっとした警戒心を見せながらまぶたを閉じた大輝。はは、だからキッスなんかしねーから、つーかキッスってなんだよウケるわ。お前と俺は友達、きっとこの先も支えあってあの壁の薄いアパートで生きる、運命共同体みたいなもんだ。
大輝が瞼を閉じているそのすきに、リュックからオレンジのスケジュール帳を取り出して、大輝に手を出すようにいう。
ますます意味不明だというような顔をした大輝の控えめに出された手のひらに、ぽん、とスケジュール帳を置いた。
「もーいいよ!」
「あれ、まじでキッスじゃなかった!びっくりさせんなよーお兄さんとってもどうしたらいいかわからなくなりました…ってなんだこれ!?」
「スケジュール帳ーというか、思い出帳ー」
デカイ手のひら、さっきまでそれ握ってたんだなー。そこに乗せられた赤みの強いオレンジの、手帳。
大輝はそれをパラパラとめくりながら、なんで?って顔をしている。
「日々のお礼も兼ねてのプレゼント、そこにさ、俺との思い出書いて残してよ。来年の七月まで書けるからさ」
「……。」
「今日の半券、そこに貼れよー!5月の20日のところ。そうやって思い出共有しよ、んで、お互い彼女が出来たら、それ見て笑おうぜ!」
「…恋ってさー!ほんとは無茶苦茶モテんだろ!?」
「モテねーから独り身なんだろーが!怒るぞ!」
「だって、こういうの、マジで男前のすることだぞ!?」
「マジで男前なんだよ!俺は!」
「ははは!思い出帳!思い出帳かー!毎日何か書くことになりそーだなぁ」
「毎日顔合わせるもんなー!」
「ははは、…ありがとう。半券貼るわ」
「そーして。泣きそう?感動した?泣く?泣いてもいいよ?」
「うわーんすげー感動したーうわーん」
「棒読みすぎる!…あ、もうすぐ降りないと。なあ、今日の晩ゴハンどーする?」
「家で食うかーコンビニで酒買って」
「また酒!!」
いーけど、と続けて。観覧車の扉が開いたから躓かないように降りた。お土産屋さんが並ぶ道を横切るように歩く。手は、もう繋いでいない。
ホモごっこはおしまい!
「やっぱ今日最高にたのしかったー!ありがと大輝!」
そう言いながら、遊園地を出た。帰りはまたコンビニに寄って、好きなもん買って、今日は酔い潰れないように気をつけよう。と、思いながら。
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