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両親
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遊園地デートを終えた後も、俺と大輝の関係は変わることはなく。週休二日のバイトをこなしながら、適当に稼いで飯食って、タバコ代馬鹿になんねーなぁとか思いながらブーストを潰す。そんな毎日の中で、少し変わったのは、俺がライブを来月に控えているから毎日ちょっと、忙しくなってきたということ。庄司くんが作ったギターをアレンジして、宮内と古賀とセッションする。なんか微妙なとこは修正して修正して、そうやって曲を完成させて。夜中にスタジオに行くことが多いから、毎日眠い。今日はバイトもスタジオもない、久々の休日。だけど頭ん中はライブのことばっかり。このライブが終わったらすぐにまた別のライブが控えてる。Gactとして飯食っていくって決めて東京にでてきてから、初めてのライブ。そりゃぁ疼く、早くステージで暴れたい。
ニヤつく口元を隠しもせず、冷蔵庫に突っ込んであったレモンティーの蓋をあけて、ごくごくと飲んだ。そしたらブーッブーッとスマホのバイブが鳴って、それがラインの通知だと気づく。ベッドの上に放置してあるスマホを手にとって、内容を確認すると…クソバ…いや、母さんからだった。
『猫か犬どっちがいい?』
なんの話だよ。
俺の母さんはちょっとばかり個性が強い。元ヤンで口は悪いしサバサバしてるしすぐグーパンが飛んでくる。飯はまずいし声は枯れてるしちょっと美人なぐらいが取り柄だけど父さんにメロメロ、多分息子より父さんにメロメロ。父さんは世間的にはすこし有名な小説家らしいけど、俺は父さんの小説を読んだことがない。文字が、ヤバイ。まじで、ヤバイ。大輝が小説買うときにパラ見した文字の羅列が脳裏に浮かんだ。いやいや、いやいや…はは。TAB譜を見るのは苦ではないけど文字の羅列を見るのは苦。だって俺!勉強嫌い!いや、でも小説は勉強じゃねぇよな、あれは趣味…趣味で…文字と触れ合うってなんなんだよ…自分には到底理解できそうにない。と、そこまで思ってもう一度ラインの内容を確認しなおす。猫か犬、どっちがいい? ってこのバ…いや、母さんはほんとに小説家の妻か?
もっとなんか、ヒントくれよ。その質問のヒントを。レモンティーのペットボトルの蓋を閉めて、ごちゃついたテーブルの上に置く。スマホを握って『意味わかんねー』と返すと音速で既読がついた。そしてこれまた音速で『さっさと答えろ』と返ってくる。理不尽すぎるわ!
どっちが好きか?ってことでいいのかな。猫…犬…どっちも好きだけど。まあいいや、適当に返そう。猫の絵文字だけを打ち込んで送信したら、また既読がすぐについた。ラインの見過ぎだろ…と思いながらも返事を待っていると、『今ペットショップにいるよ』という文字と、すげぇぶっさいくな猫を抱えたバ…ばあさん、じゃなかった、母さんと、父さんの写メが送られてきた。もうほんっと意味わかんねーんだけど!!飼うの!?猫!?がしがしと頭を掻き毟る。
『飼うの?!』と返したら『だってお前が連絡のひとつも寄越さないから』とのことで。あーーーー、っと、そこでまた、俺は自分が余裕なく生活していたことに気づく。
思い返せば怒涛の毎日だった、いろいろあった。言い訳するわけじゃないが、こっちに越してきてから一回も連絡したことなかったかも、と思い反省する。『ごめん』と送る。『この猫の名前はレンにするから』と返ってくる。親バカめ…と、デコに手を当てて頭を抱えた。親に心配かけてどうするんだよ、俺。家を出るときの約束、ちゃんと守れてねぇなぁ。これから気をつけよう。自分に言い聞かせながら『恥かしいからやめて』と返してベッドに転がった。
そういえば、愛と二人で暮らすつって出てきたのに、現状一人暮らしです、ってことも直接言ってない。でも愛はお隣さんだし、美咲ちゃんも事情はしっていたみたいだし、きっと母さん達にも伝わってるんだろう。だけど、咎めもしないし突っ込んでもこないのは、俺を信用してくれているから、なんだろうな。ふう、と軽く息を吐く。
親からの信用を欠くようなことはしないようにしよう。あんなにすぐに返信が返ってきていたスマホも沈黙をキメている。猫に夢中なんだろうな、とその情景を想像して目を瞑った。あー、久しぶりの休日だし、今日は大輝誘って昼飯いこうかな、さっきから壁の向こうでごにょごにょと、会話は聞き取れないけど何か話してる声がするから、アイツも今日休日なんだろう。この間結構オシャレなピザの店見つけたから気になってんだけど、一人で行くのは気がひけるし。片目をあけてチラリと時計を見ると、時計の針は11時を指していた。昼飯にしては早いなぁ、何して時間を潰そうか。ギター触るかちんこ触るぐらいしか考えつかない。そういえばオナニーもご無沙汰だったな、神田くんに押し付けられたオナホはどこに置いたっけ。…いやもうなにもしないで二度寝したいかも、意識が微妙に微睡んでいる。こういう微睡んでるときにちんこ触るととんでもなく気持ちいいけど、昼だよ。昼飯前にちんこ触るのはなー…というか問題はそれよりこの壁の薄さだよな。絶対声、抑えられねぇもん俺。大輝にドン引きされたら困る。大輝のいない時を狙ってやるしかないんだけど、生活リズムが似てるせいでなかなかにそんな時間はない。…もういいかなぁ、大輝も男だしわかってくれるだろー、あーでもさすがにケツの良さ知ってますとか言ったら友達やめられるかな、はは。
あーあ。
手の甲で瞼を隠す。春の日差しがやわらかくて、眠さがどんどんやってくる。一時間…一時間したら起きるから寝よ、あ、レモンティー冷蔵庫にもどさねぇと…いやでもそれは後ででいいか、もうめんどくせぇし、…おきたら、大輝を昼飯にさそって、飯食ったらCD買いについてきて貰お、あのバンドの新曲…昨日…発売された……らしい、し………。
ぐんぐん睡魔に意識が引っ張られていく時だった。
コンコン、と壁を叩く音。いやほんと、この音聞くたびに壁の薄さに驚くわ。壁、2センチぐらいしか無いんじゃねーのって思う。意識を壁の向こうに戻す前に「れーーーんーーーーくーーーーん」と俺を呼ぶ声がした。微睡んでいた瞼を閉じたまま、「…あー?なにー?」と返事をする。
こんな、女の子連れ込んでセックスもできねーようなうっすい壁越しのこの会話にも慣れた。お互いに用があれば、こうやって壁を叩いて名前を呼べば聞こえるんだから便利だな、とか思っちゃってたり。それでも反応がなければバイトか寝てるかだから、俺が勝手に大輝の部屋に押し掛ける。ちなみに、大輝が俺の部屋に来たことは一度もない。大輝がこの部屋の扉を開けたことはない。きっと理由があるんだろうから、話してくれるまで聞かないけど。
壁の向こうの声に集中すると、でかめの声が耳に届く。
「デートしない?」
「デート?」
またデートか、お前ほんと女誘えよ!笑いそうになるのを堪えながら、身体をもっと壁の方に寄せた。すると、壁の向こうからぎしっ、とベッドの軋む音がしたから、大輝もベッドに乗ったんだろう。やっぱ、気になる。ここの壁何センチなんだろう。俺たち今、壁を挟んで普通に会話できてるんだよな、ってことは顔ひとつ分もないのかな。そんなことを考えながら大輝の返答をまっていると「アクティブでちっと熱くなれるやつ」とのことで。
デートで?アクティブで?ちっと熱くなれるやつ?んなもんホテルでキメこむぐらいしか想像できないんですけど!!
「何それ!!えっちなやつか!!」
「何でそーなるのかな!!?」
口を突いて出たツッコミにツッコミが返ってきた。そりゃーそうだ、俺と?大輝が?ホテルで?キメんの?笑うわマジ!想像したら色々とモザイクがかかっていて、それ以上を考えられなかった。ギャグだな、と思ってニヤついていると、壁越しの会話はまだ続くらしい。
「おにーさんを構ってくれよ」
そのつもりだったけど。あと一時間したらメシに誘うつもりだったもん。だけどわざわざそんなことは言わない。
「何だよ暇なのかよー!!」
「暇だからお前とゆっくりしようかなって想ってたらさー、ちょっと面倒な遊びに誘われちゃったんだよね〜」
壁越しに、少し困った顔をしているのだろうか。そんな顔が安易に想像できる。面倒な遊び、に俺を誘うつてどういうことなんだよ。しかも他にも人がいるならデートじゃねぇじゃん!色々つっこみたいことはあるが、全部飲み込んだ。
「仕方ね〜な〜。危ない遊びじゃねーよなー?」
「危なくはねーよ?」
「何すんの?」
「お楽しみ」
「ははっ!何それ!」
大輝のことだ。俺を危ないことに巻き込んだりはしないだろうとわかっていたけど、まあ一応確認。正直、暇すぎて微睡んでいたぐらいだ。誘いを断る理由がない。こんこん、とまた壁が鳴る。「いこーぜ。頼むよ」と言われたら、もう断れない。身体を起こしてグーッと伸びをする。固まった筋肉が生き返るようなスッキリ感を得た俺は、その腕で壁をこんこんと叩き返した。
「わかったよー、はいはい。10分待って、準備するから!」
今日は何着て出かけよう、そんなことを考えながらテーブルの上に置きっぱなしにしてたレモンティーを冷蔵庫にしまった。
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