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目撃
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「大輝〜〜〜〜見ちまったぞ〜〜」
「は?」
「隅に置けないなぁ大ちゃあん」
「え?」
長倉さんと二人で口元を隠しながら中腰で、なんともまあ怪しいポーズのままニヤつきながら大輝を茶化すと、凄く怪訝そうな顔をされた。それもお構いなし、というかのように「美優ちゃんとはどういうご関係で〜〜?」と続ける長倉さんに便乗して「そうだよ大輝〜〜!」というと、大輝がますます意味がわからないという顔をする。
「今の何だよー!!俺という存在がありながら…ううっ」
口元を隠していた手のひらはそのままに、涙を堪えるフリをするとぺちんと一度頭をはたかれた。妙に焦ってみえる大輝が面白い。
「ちょっと待てお前はそうやって話をややこしくするな」
「私とは遊びだったのね!!」
「れーーーんーーー!!」
「はははは!!!ごめんごめん!!」
あんまりふざけて茶化すのもな、と、中腰をやめて、さっき選んだバットを地面について支え、杖のようにして立った。が、俺の表情筋はニヤニヤをやめてくれない。
さっきの一連の流れ、ドラマのワンシーンみたいだった。あんな青春ドラマあるよなぁ、少女漫画の実写みたいなやつさ。思い出しながら、思っていたことを口に出してみる。
「いやー、なんかいい雰囲気だったからさー!狙ってんの?美優ちゃんだっけ?」
さっき美優ちゃんのこと内心散々ディスってた!ごめん!と心の中で謝った。大輝の、ああいうところをはじめてみた。ああやって、人に触るところを。
人に触んの、嫌なんだとばっかり思ってたんだけどなー。俺の周りは、スキンシップの多い奴のほうが多い。だけど大輝とは、なんていうんだろう。少しの距離を開けるのが当然っていうか。いや、まあ、女相手と男の俺じゃそれが普通なんだろうけど。
「あ?あー…狙ってねえよ。ほっぺにまつげついてたから取っただけ」
って、思ってたのに、美優ちゃんを狙ってるわけではなかったらしい。ちょっと困ったような、うざったそうな顔をする大輝。本心なんだろう、もっとふざけて「すきなんだろー照れんなって!」と返すのは簡単だったはずだけど、地雷を踏む気がしてやめた。
「はっはー。お前そういうの普通にできるんだからモテる筈なんだけどなあ。なんで彼女できねーのかな!!」
「俺が聞きたいわ!!」
うまい具合に話題を変えようとしたのに、隣にいた長倉さんがきょとん。とした顔をして、また口元に手を添えて大輝を見た。
「あれ?より戻ったんじゃないの」
ん?
なん…?え? …え!?
「よ、より、戻った…え!?なに!?大輝あの子と付き合ってたの!?」
ビッッッッックリなんだけど!?
まじかよ、あの子大輝の元カノかよ!?うっわーーー!ますますごめん、心の中でではあるけどいっぱいディスってごめん!と、変に焦る。
もしかして、大輝が言ってた「一緒にいたい人」は美優ちゃんなのかな!?
「中学の時な、付き合ってたんだわ」
「へー!!!まじか!!」
「フラレたけど」
「ぎゃははは!!!!やっぱ大輝がフラれたのかよ!!」
…いや、違うな。もしそうだったら、こんなめんどくさそうな顔はしないはずだし。やめよ、そういうの考えんの。こんなにいい顔いい体いい性格に恵まれてんのに、大輝は女にフられる星に生まれてきたのか?ってぐらいフられまくりで、それがほんとに面白くて大笑いした。
長倉さんがなにかをぼやいていたけれど、俺は自分の笑い声で長倉さんの声がきこえなかった。なにかをぼやいた後にこの場を去る長倉さんを気にも留めず、大輝が「着替えっからついてきて」という。なんで俺がお前の着替えに着いていかなきゃなんねーの!と、これまた笑いながら、さっき俺がユニフォームに着替えた更衣室に着いて行く。
がちゃ、っと扉をあけると、すこし埃っぽい。大輝はリュックの中から取り出したインナーとユニフォームをロッカールームの中央にある青いベンチの上に並べて、着替え始めた。おいおい、なんだよ、なにか話すことがあるから更衣室まで連れてこられたのかと思えば、どーにもそうではないらしい。更衣室の外からおじさんたちの笑い声が聞こえてくる。
「へー、どんだけ付き合ってたの」
青いベンチに座った大輝の隣に腰掛けて、さっきの話題をふってみた。興味本位、どんなふうに人と付き合ってきたのか知りたくて。だけど帰ってきた返事はそっけない。
「んー、覚えてねーな」
同時に、バサ、とTシャツを脱ぎ捨ててた大輝の表情はみえないけれど。なんとなく察した。あんまりこの手の話はしなくないんだろうな、と。だからそれ以上、詮索することはやめた。
狭い、更衣室の中。すこしの沈黙と、ドアの隙間から漏れている外の光。すこし薄暗い更衣室の、コンクリートの床。そして、隣にはとんでもねーいい体した男。
「大輝やっぱ筋肉やべーのな」
「ん?」
口から思ったことがそのまま溢れた。服の上からでも分かるほどいい体してるけど、実際に見るとますますすごい。まじまじと、こうやって大輝の体を見るのははじめてかもしれない。前に男だけで合コンしたときに泊まった日は、大輝もTシャツを脱いで寝てたけど、あんときはそれどころじゃなかったし。インナーを手に取りながら立上がった大輝がこちらを振り向く。思わず「おー」と声をあげてしまうほど、鍛えられた体。男ならフツーに憧れる。
「いいなー、俺もそんくらいになろーかな」
「やめて」
「何で!!」
「お前が酔っぱらったとき、それ以上重くなられたらおぶって帰れないでしょ」
「あー、それもそうだな!!」
大輝とは多分、骨の太さから違うんだと思う。俺がどんなに鍛えても、あんなふうに筋肉はつかないだろうし。それにたしかに、俺が酔いつぶれた時に大輝におぶってもらわないと困るな、なんて。はは、甘えんなよって感じだけど!
足をバタバタとさせて大輝の着替えが終わるのを待っていると、大輝がズボンをぬいだ。目の前いっぱいに、ちんこを隠してる布の柄が飛び込んでくる。俺は目を疑った。ちょっとまて、なんだそれ、なんだそれ!?
「ぶはっっ!!何そのパンツ!!」
「え?あーーー!!」
やべえ忘れてた!!くっそ恥ずかしい!!と続けた大輝、ごめん、ちょっとまって、ほんとやめてそうやって不意をついて笑わせてくるの!!やばい!!まじでやばい!!どっかのご当地キャラクターの顔がちんこ部分にドンと印刷されてるという最強にファンキーなパンツ。前を隠そうと一瞬後ろを向いた大輝のケツには、さっきちんこ部分にプリントされてたのと同じキャラが、割れ目に向かって視線を向けてる。おまけに、右のキャラが吹き出しで「大峡谷」って喋ってる。だいぶやばい。ちょっと、やばすぎて鼻水出てきた!
「ぎゃはははははは!!超笑える!!!」
「笑うな見るなエッチ!!!」
「エッチとかそんなデカい体で言うんじゃねーよ色気もなんもねーーー!!!」
しぬ、死んでしまう、笑いすぎてしぬ。190越えの大男が、キャラパン!しかも大峡谷ってどこだよ!マジでウケる、腹筋おかしくなりそう、笑いが止まらなくて、腹つってるんじゃねーかってぐらい痛くて、青いベンチにごろっと寝転がった。大輝は恥ずかしいのか、早々にユニフォームのパンツを履いたけど、焦ってんのか急いでんのか、体の重心がぶれて、ガンッ!!と後ろのロッカーに背中をぶつけている。それもまた面白くて笑うと「恋笑い過ぎだぞ!!もういいだろ!!」と怒られた。よくない、なんもよくない!どーしてくれるんだよ!俺、お前のパンツ二度と忘れられねー自信があるんだけど!!
「ひっひー!!あー、めっちゃ面白かったー!」
大輝が荷物をまとめるのを見計らって、俺も立ち上がり、ドアの近くまで歩く。やべーな、二週間ぐらいは思い出し笑いしそう。そしたら壁が薄いから、大輝にも丸聞こえでさ。怒られんのかな、恋うるせー!とか、壁越しに言われたりして。それもそれで面白いからアリか!なんて考えて、また口元がにやける。
そして、ハッとした。
俺は。あの部屋が嫌いなはずなんだ。だって愛のことを思い出すから。バイトが終わって、自分の部屋に帰る道、すげえ憂鬱で帰りたくなくて、わざと遠回りして帰ってた部屋。大輝の部屋に転がり込んで入り浸って、頭のすみっこに追いやっていたはずの、部屋。
そこに帰ってからの想像をして、楽しいと思えたのは初めてだった。
驚いた。そんな風に思えるようになった自分にも、そんな風に思わせてくれる大輝にも。
ここ最近、すこし落ち着いていたのに、また心が騒がしくなって困っていた。気を抜けばすぐに暗い気持ちが顔を覗かせて、いい加減にしたいのにいい加減にできない。そんな俺を誰か叱ってくれないかな、なんて思っていて、ますます自分が馬鹿らしすぎて、苦笑して、誰にもバレないように顔の内側にぜんぶ隠した。
そんな、生活に、疲れていたのになぁ。
この隣人は凄い。
ほんとに俺の、ビタミン剤みたいだ。
更衣室のドアをあけるまえに、さっきのことを聞いておこうと思ってふりむいた。どっからどーみても整った顔が、疑問符を飛ばしながら俺をみる。
「つーかさっき何話してたの?俺なんかやばかった?指差されてたからさー、もしかしてこんな赤い髪で野球とか舐めてる!とか言われてんのかと想って」
もし、そうなら、申し訳なくて死ぬ。俺はこんなに笑わせてもらってんのに、大輝に迷惑しか返せてないとしたら、人間やめるべきだと思う。
「はははは。それはねえよ、大丈夫大丈夫」
リュックを片方の肩にかけた大輝が笑った。そして、グッと帽子をかぶって、一歩一歩と歩いてくる。
「マジか」と、不安が微妙に隠せてない声色で問い直しながら、被っていた帽子を脱ぐと、「ちょっと最近態度悪いから、心配されただけ」と返された。俺のせいでなにか言われたわけじゃないならよかった、と、 胸を撫で下ろす前に、大輝のでかい手のひらが、俺の頭にポン、とのっかった。するり、と、その手が俺の髪を撫でて離れる。人に髪を触られるのは久しぶりで、くすぐったかった。
「俺のまわり面白いやつ多いからさ。前に連れて来たやつとかと色々あって、何かちっと心配だったんだと。恋は俺の大事な友達で、心配とかも必要ないってちゃんと言ったから。ごめんな、やな想いさせて」
申し訳なさそうに大輝が俺の目を見つめる。前に連れてきた奴、…ああ、さっきおじさん集団に囲まれた時になんかきいたな。大輝が前に連れてきた子とはタイプがちがったからどうのこうのって、そこでやっと事の糸がつながった。そっか。それならいいんだ、本当に。
「ふーん。いやー?別にやな想いとかじゃねーけどさ。」
と、できるだけなんでもない顔で答える。
「まあ、迷惑になってねえならいいや」
これが本心だから、そういってニッと笑ったら、大輝も笑い返してくれた。
「ん。よっしゃ、さっさと肩慣らして試合だ!!」
「お〜〜!やっとか!!」
二人して、ふざけて肩を組みながらロッカールームを後にする。
まあ、身長差が開きすぎてたから、大輝がちょっと屈んで中腰だったけど。…ほんっっと、でけーな!!
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