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「なんて、暗い話してごめんな。食べよ」
下手くそすぎる笑みを浮かべて、大輝が俺に謝ってくる。
俺は、自分が無力な人間だとは思わない。というか、それは俺にかぎらずこの世に生きてる全ての人間に言えることだと思う。生きてるだけで丸儲けじゃー!って、庄司くんが言ってた。その通りだと思う。どんな人間だって、生きてるだけで宝くじで三億円あてるより運がいい。そして、必ず誰かの支えになるんだ、人間は。関係が深ければ深いほど、より一層。…だけど、相手の一大事のそのときその瞬間を知らないで、ただ過去の話を聞いただけではやっぱり、すこし、足りない。
人を一人真っ暗闇の中からひっぱりだすには、足りない。
缶ビールを喉の奥に流し込む大輝を見つめて、すぐに視線を手元の箸に移した。俺は、大輝の気持ちがわからないようでわかる、けど、わかるようでわからない。
恋人を、好きでいないといけないと思って、失敗した俺。すきだけど恋人になることは絶対にできなくて、そして置いていかれた大輝。互いに責める場所は心で、痛めつけるのも心で、だけど、一番癒されたいのも、心で。
春夏秋冬、俺が過ごした春夏秋冬には必ず愛がいた。今年はじめて、愛のいない夏を迎えることになる。不安とか悲しいとかはもう、ない。意外とそんなもんなんだな、と思う。
だけど、大輝は違うみたいだな。そんなもんなんだな、と思う自分をさらに責めるから、疲れてしまうんだと思うけど。責めるな、とは言えなかった。だって、そんなの、言えるわけない。俺が言えることじゃない。
「悪くはねーよ」
「…ん」
こんな曖昧なことしか、言えない。今は。
ただ、思っていたより自分の心境は穏やかだった。大輝がずっと抱えてた悲しいや苦しいを打ち明けてくれたことが、純粋に嬉しいと思った。不謹慎だけど。
今度は。
今度は、俺が助けるからな。
そう思うんだけど、どうしたら大輝の心に俺の声が突き刺さるのかはわからない。取り敢えず、俺にできることを探そうか。
一緒に飯食う毎日、一緒に出かける毎日、そうやって日々をすごしていたらいずれ…なんてことは、ない。
もしその可能性があったのなら、もう十分と大輝の心は癒されていたはずだし、完全に千田さんのことはふっきっていたはずだ。
大輝は俺と、すこしちがう。
この話を俺にしてくれたのも、きっと多分、話を誰かに聞いて欲しかっただけなんだろう。特別な意味なんてないんだろう。でも俺は、たったの4文字を信じてる。
「たすけて」
俺に縋り付いた涙を、信じてる。
だから俺も、大輝に元気になる魔法をかけてやりたい。魔法、魔法、魔法といったら、もう、アレしか思い浮かばなかった。
「美味かった!」
たらふく食べて、両手を合わせてごちそうさまを言う。
「お、良かった良かった。久々に作ったから、ちょい心配だった」
「大輝飯作れるなら早く言えよなー。めっちゃうまかったんだけど!!」
元気をわけるみたいに、色んな話をした。今日あった出来事、庄司くんの無茶振り、メンバーの期待の重さ。今度は俺の番!というかのようにいっぱい話した。大輝は相槌をうったり、ときどき笑ったり、昨日ほど元気はないけど、さっきよりは随分、マシな顔をしてくれるから、俺の選択は間違ってなかったんだと思う。
その後、飯を作ってくれたんだからせめて、と後片付けを一緒に終えて、部屋の中も綺麗に片付けた。
今日、1日、すごい濃かったな。
そう思いながらあけた窓から入ってくる風を楽しんで、ぐーっと伸びをする。背骨が二回ほど、ばきばきっ、と鳴った。
「うーし、じゃあ帰るかなー」
「んー…色々ありがとなー。よく寝ろよー」
「んー」
靴を適当にはいて、大輝の部屋から出ると、大輝はいつもそんなことしないくせに、何故か俺を見送っている。…ああ。なるほど。
俺の部屋は千田さんの部屋だったんだもんな、そうだよな。…複雑だよなぁ。
引っ越してきた当時、大輝の様子が変だったことを思い出して納得した。俺の部屋に一度も遊びに来ないことも、そういうことだったんだな、と今ならわかる。
鍵の閉まってない部屋のドアを開けて、がちゃん、と閉めた。大輝の視線に気づいていたけど、手を振ったりはしなかった。だってきっと、俺の姿をみて、千田さんを思い出しているだろうから。だから。手を振ってしまったら、傷つける気がした。
「……………、はぁ。」
緊張して、いたんだろうな。
ドアをしめて、肩の力が抜けるのを感じる。
取り敢えずシャワー、あびたい。
収納ボックスからパンツを取り出して、脱衣所に向かいながら考える。
恋とは
愛とは
まだ19にもなってないクソガキの俺がいくら考えたってわかるはずのないことだった。
だって俺はまだ、一世一代の大恋愛なんてしたことがない。流されて、なあなあにして、こわして、そんな恋愛ばっかで、ほんとちっぽけだと思う。ただ、でも、みんなきっと、そんなもんだ。世界でこの人しかいない!とおもえる人間に死ぬまでに出会える確率って、多分宝くじで三億円あてるより、ただこの地球に生まれてくるより、ずっと難しい。
「だからそんなに苦しまなくてもいいのにな」
口をついた言葉、今日言えなかったことを後悔する。大輝の顔をみないで今日のことを思い出すと、さっきまで思い浮かばなかったのに、言いたいことが山ほどあふれてきた。
服を脱いで、温めに設定したシャワーを頭からかぶる。
「恋なんて 愛なんて 脳みそで考えて答えがでるなら 、」
一気に、曲のフレーズが浮かんできた。あ。これ、だ。そう思ったらつぎつぎとフレーズと歌詞が頭の中に流れ込んでくる。
「おれも、おまえも、泣いたりしなかったはずだろ」
「心臓が 、破れるほど 恋をしていた 」
「お前はなんにも悪くない」
「取り敢えずまあ 生意気なぐらい自分のために、生きてよ」
あ、あ、あ!きた!
新しい曲、なんか勢いでつくれちゃいそう…!!!って、そんな時に限って風呂場かよ!!
音速で体をながして、風呂場から飛び出すようにして濡れた体を適当にふいてパンツだけ履いた。慌ただしくどたどたとギターの元にむかって、ふやけた指の腹にイラつきながらギターを握る。じゃ、じゃ、ととりあえずコードの確認、あ、まってわすれてた、俺バカだからすぐ忘れるんで、メモっとかないと。使わないと思ってたメモ帳と、ボールペンを引き出しからとりだして、どかっとベッドに座る。
「みてろよ大輝。」
新曲つくるまでに、あと一週間しかないと思ってたけど。どうやら時間の心配はしなくても良さそうだ。微調整をふくめて、3日でつくってやる。今、歌詞もメロディーも降りてきた俺は最強だ。
これからライブまで、相当忙しくなりそうだな。…でも。すげぇと思わねぇ?
歌ってさ、たったの3分で人の人生を変えるんだよ。だから俺、お前のハート狙い撃つ弾丸詰めてライブやるから、絶対来いよ。大輝。
それから近所迷惑なのは100も承知で、朝になるまでギターを握って曲作りに励んだ。歌詞が大輝に聞こえたらすげぇ意味ねぇから、鼻歌を歌いながら音を調整する。やべぇな、俺天才なんじゃねぇの?!粗方の目メロディー、できちゃったんだけど!
メモ帳にズラッと並ぶコードをTAB譜に写す作業して、気絶するかのように眠った。……翌朝バイト先から鬼電がきて起こされて、バイトを二時間ぐらいすっぽかしたことに気づいてちょっと死にたくなったけど、みんな許してくれたから結果オーライってことで!
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