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困惑
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バチっ、と、目が覚めた。
馬鹿じゃねーのってぐらいの頭痛と、馬鹿じゃねーのってぐらい居酒屋臭い自分、うーわ最悪風呂入る前にベッドインしちゃったよ…。
むくりとおきあがって、寝起きのニコチンを求めて、ベッドから手を伸ばせば届く距離にあるテーブルの上を漁っていると、足元で何かがもぞりと動いた。
まだ霞む視界、ぱちぱち瞬きをしてそちらを向くと、でかい男が一人床に転がっている。大輝だ。
「ん…?」
あれ?
大輝だ。大輝がいる。
そして俺は部屋を見渡した。
カラフルな家具に柄物ばかりのクッション、布団、赤いマグカップ、積み上げられた漫画、雑誌、ギター。確実にここは俺の部屋だ。足元に転がってる男も確実に大輝だ。
?
違和感が凄い。なぜか。
それは、いつもなら俺が大輝の部屋に転がっているはずだから。
少しずつ冴えていく頭、思考を整理しながら頭痛に耐えつつ、とりあえずタバコを吸いにベランダにでた。
えっと……………、?
昨日は飲み潰れた。大輝が帰り道、俺をおぶってくれた。そんで?そっから俺は眠りの世界で過ごして、今さっき目覚めた。…?
「え?」
なんで大輝が俺の部屋にいるんだよ!?
ガラララッ!!
乱暴にベランダの扉を開けて、火のついたタバコを消すこともせず、ずかずかと自分の部屋にはいる。
「大輝!!!大輝!!!大輝ってば!!!!」
大声で名前を呼びながら大輝の肩を揺らすと、眉間にくっきりとシワをよせて大輝が目を開けた。
「なーーーんだよ………まだ眠いんだけど」
「いや、まだ眠いんだけど、じゃなくて!!ここ俺の部屋だよ!?」
「んーー知ってるよ、んなこと」
すやり。また大輝はまぶたを閉じる。驚きが先立って、なんて言えばいいかわからない。とりあえず伸びに伸びたタバコの灰が床に落ちそうだったから、急いでベランダにむかって、灰皿に灰を落とした。ついでに火種も消した。また自分の部屋に戻って、べしべしと大輝の肩を叩く。
「二度寝!?二度寝すんの!?なあ!なあって!!」
「んあーーーーもーー!うるせーー!何!?なんなの!?」
「なんなの!?じゃなくて!お前なんで俺の部屋にいんの!?」
「え?!だって昨日、お前が潰れたんだろ!?」
「俺がつぶれたらいつも大輝の部屋で転がってんじゃん!今日はお前が俺の部屋で転がってんじゃん!大輝って、」
そこまで勢いで言ってしまって、後悔。ごくりと唾を飲むのと同時に、言葉も飲み込んだ。
「?なに?」
大輝って、俺の部屋に頑なに入ろうとしなかったじゃん。この部屋には思い出がどうだの、って言ってたじゃん。入れないんじゃなかったのかよ、何普通に寝てんだよ。
ほんとにもう、もう吹っ切ったって?
だからもう、気になんないって?
そーいうこと?どーいうこと!?
かける言葉に迷っていると、大輝も何かに気づいたような顔をして、「あれ?」と言った。
「………ほんとだ、なんも考えてなかった…」
「び、びびったわ!ほんとに!ようこそ西浦家?」
「うわ、まじか俺。好奇心が勝っちゃったよ」
「好奇心?」
「ん、そういえばどういう部屋に住んでんのかなって、昨日唐突に思ってさ」
「こういう部屋だよ!」
「想像してたよりずっと片付いててマジかーって思った。物は多いけど。」
「こーみえて几帳面なA型だからな。つーかお前、その…平気なの?」
「それが………、びっくりするぐらい平気だ。つーか、恋の匂いがするなぁみたいな感想かな」
「その感想もどうなの?…ま、平気ならこれからも遊びに来てネ」
別に、大輝が平気ならそれでいい。
俺ばっか大輝の部屋に入り浸っててちょっと悪いな、なんて思ってたぐらいだし?
「テキトーに寛いでてくれていいよ、つってもテレビとかねーから暇かもしんねーけど。あ、マグカップなら余ってっからなんか飲むなら勝手に冷蔵庫からとって飲んで。そのまま口つけるのは禁止なー」
くあ、っと一度あくびをして、俺は収納ケースからパンツを取り出してシャワーを浴びに向かう。
大輝は「お前意外とアレ?潔癖?」とか言いながら、冷蔵庫を開けた。
潔癖なわけじゃないけど、口つけちゃったら次飲むとき何か嫌じゃん。それっくらいのこだわりだよ。
それを説明することもなく、シャワーを浴びた。夏だから冷ためのお湯を頭からかぶる。んーーあーー、やっぱ酒でやられた次の日のシャワーサイコーなんて思いながら体を洗って、浴室からでる。バスタオルで体を拭いて、パンツだけ履いて、暑いし服を着る前に俺も飲み物を飲もうと脱衣所から出ると、大輝がぶはっ、と飲んでいたコーラを吹き出した。
「ちょ!!!!っと!!!何やってんだよきったねーー!」
「ごほっ、ごほ!!おま、お前こそ何やってんだよ!?なに!?なんで服は!?」
「はあ…?何言ってんの、べつに良くね?熱飛ばしたら着るって!ってか床!拭いて!」
「あーーぁぁ、すまん、って…そーじゃないじゃん!服先着ろ!」
「だからなんで!?」
「なんで!?って、なんでだ?」
「知らねーよ!疑問系で聞いてんのこっちなんですけど!?」
俺も自分のマグカップにコーラを注いで飲む。グラスのコップなんてもんはないから年がら年中マグカップ、まあ飲めりゃなんでもいい。コーラを飲んでる間、大輝は何故かこっちを見ない。
昨日も、思ったけど。
なんかおかしくないか?
「大輝、最近変じゃね?」
どう変か、というと、形容しがたい変。
パーソナルスペースが近くなった、なのに、こういう時は離れていく。男同士なのに何を意識する必要があるんだよ、今時女でも素っ裸で出てくることあるよ!?いや、さすがにそれはないか!?
この間も、俺がバイト先の女の子と電話をしているとき、むすっとしていた。なんで?って聞いても、いや…なんでだろ、って言われた。
その次は、二人で大輝の部屋で遊んでるとき、俺の髪を触ってきた。思ってたより柔らかいって言われたけど、俺は硬い髪の直毛なんだから柔らかいはずがない。なんで髪さわんの?って聞いたら、なんでだろ?って言われた。こっちが聞いてんだよ!って思ったけど、ま、いっかってほっといた。
それから、大輝の部屋に泊まってると、夏だっていうのに抱きかかえてくるようになった。人肌恋しいのかと特別ツッコみはしなかったけど、今思えば男が男を抱きかかえて寝るって相当オカシイ。
んで昨日、昨日だけじゃないけど「恋と楽しい時間を過ごしてんのに」だとか「恋のことなら覚えてる」だとか、なんだそれは、って言いたくなるようなことを平然と言うようになった。
?おかしくない?
そして今、大輝は俺の方を見ない。
…恋愛対象として意識されてるような気分になる。そんなわけないよな、だって友達だもんな?
俺もお前も失恋から立ち直ったばっかだし?
つーか俺、男だし?
お互い男と付き合ってたんだから、今更性別を理由に否定はできねーけど。………いやいや、いやいやいや。まさか。まさかな。
変な汗かくわ、変なこと考えんのやめよ。俺もどうかしてるんだな、男が簡単に男に落ちるわけないって、いくら男と付き合ってたからって、相手がその人だから好きになっただけでゲイってわけじゃないし、大輝も巨乳がすきだって言ってたし。ぶんぶんと首をふって、マグカップをシンクに片付ける。ドライヤーで髪を乾かすのも面倒で、今日はバイトだからテキトーに服を着る。
さっき、大輝にした質問は、大輝の耳に届いていないのか、なんの返事もない。ちょっと俯きぎみに、ベッドを背もたれにしてマグカップを抱えている。
「大輝ー?今日はなんもない日なの?」
「えっ?あー、うん、夜にちょっと予定あるだけ」
「へー。俺あと一時間ぐらいでバイトなんだけど、なんか食う?食いにいく時間ねーからパンとかなら焼けるけど。あ、チーズとかベーコンとかあるよ、宮内がくれたやつだけど。サンドイッチなら作れるでしょ?つって!」
「あ、あーうん、いや、…いい、かな」
「いいの?俺食うけどー」
5枚切りの食パンの袋を開けながら、大輝の隣に座る。宮内は俺にサンドイッチなら作れるでしょとか言ってきたけど、作れるわけなくない?
大輝が食うなら頑張ってみようかと思ったけど、食わねーならいいや。と、食パンをそのまま、焼くこともせず袋からとりだして食べる。
もっさもっさと口の中に食パンの味が広がる。大輝はちらっと俺の方をみて、俺の肩…というか、首筋にぼすっと頭を乗せた。
「恋の匂いだ」
「…………………。」
「すげー落ち着くのなんでだろ」
……………。
俺はですね、あんまり鈍感な方ではない。どちらかというと、こう、気がついてしまう方だ。
……。頭をすりすりと擦り寄せてくる大輝。俺は口の中に入ってるパンを咀嚼しながら、すげー冷静に考える。
これはーー、これはもしかしてなんだけどーー、もしかしてなんだけどさぁーー、俺、マジで大輝のハート奪っちゃったんじゃないのーー?
自惚れならいいけど、自惚れじゃなければどうすりゃいい。
疑惑と疑問とほんの少しの予感。
大輝の肩を押して、自分から離す。
「…あのー?大輝さん?」
「髪濡れてる」
また髪に手をのばしてくる。濡れてるのに触ってどうする。
「乾かさねぇの?」
「後で乾かすけど」
「ふーん…水、シャツに落ちてるけど」
「…じゃなくてさ!?最近なんなの!?」
ええええい!!!!もうじれったい!!!なんなの!?なんなの!?マジでなんなの!?カップル!?カップルなわけ??付き合いたてのカップルみてーなことされてもこまる!だって俺たちフレンドだから!!
なんなの!!って聞いてんのに、大輝はキョトンとした顔をしている。は?無自覚?無自覚でやってんの!?こういうこと!?無自覚でタラシこんできてんの!?ヤバくね!?
「なんだよ恋、今日なんかオカシイぞ」
「オカシイのは大輝だろ!ここ最近ベタベタしてきすぎだから!俺たちなに!?友達だよね!?」
「あ、………おう、友達、だな」
「なんでそこに間を作るわけー!?なんなの!?お前さ、もしかして、俺のこと好きなの!?」
言ってしまった。
食パン、5枚切りの袋を右手に持ったまま。なんてことを叫んでるんだ俺は、違ったらどうすんの?って、友情に亀裂はいるわ!ってことを、叫んでしまった。
「は、はぁーーー!?そんなわけないじゃん!!!!」
大輝が慌てて否定してくる。
俺はちょっと安堵して、ほっ、とため息をついた。
「そうだよな…、ごめん俺の勘違いだったわ!大輝が最近やけにくっついてくるからさー、ってやべ、そろそろまじでバイト行く支度しないと。昨日はありがとうな、悪いけど今日はかえってー」
「…おお、そうだな、帰るわ!また!」
少し慌てたように、大輝が部屋を出て行ったのを見送って、俺もバイトに行く支度をはじめる。
えーっと、財布、携帯、タバコ…だけでいいよな。適当にリュックにモノを詰めながら髪を乾かす。鏡の前で身なりを整えた。さあ、後一服したら家を出よう、とした時だった。
ピーンポーン、と、インターホンが鳴る。インターホン?なんで?
誰だろう、なにも通販とか頼んでねぇけど?
一服しようとしてたけど、まあいいや、ついでに家出て、バイト先で吸おう。そう思って特に誰が来たのかも確認せず扉を開けると、…なぜ?
「なんでインターホン?」
そこには大輝がいた。
「忘れ物?ちょうどよかった、俺今家出ようと思っててさー「あのさ!!」」
「え?」
「ごめんやっぱ、…ごめんな!?好きだわ!!」
え?
「恋が、好きみたい…なんだけど!どうですか?!」
ばたん。
俺は何も考えることなく、部屋の扉を閉めた。
たしかに、けしかけたのは俺だ。
お前俺のことすきなの?って聞いてしまったのは俺だ。
でもお前さっきそんなわけないって言ったじゃん!!なんで!?なんで戻ってきてまで言っちゃうわけ!?
「ちょ、恋!?れーーん!?」
扉の向こうで大輝の声がする。待って、普通に考えて、いや、無理!!無理だろ!!?
「なんで扉しめんの!?何か言って!?」
「無理!!!困る!!!」
「困る!?」
「困る!!!ってか、馬鹿じゃねーの!?」
扉を開けることなく、俺は叫んだ。
「ここ、壁薄いの忘れてんだろ!!馬鹿!!!」
最悪なんだけど、絶対近所に筒抜けだ。
頭が大混乱、疑惑と疑問とほんの少しの予感は、完全な確信に変わった。なんなら告白されちゃったよ。どーすんのこれ、どーーすんのこれ!!!
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