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告白3
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「君は…なんでそんなに…」
桐生の指が碧の白い肌に食い込んでいる。
「逃げて欲しい…と頼んでいるのに」
「僕のような気狂いの為に…どうしてそこまで…」
冷静を装いながら苦しそうに吐き出される言葉。
久しぶりの桐生の体温。
長くて節だった大好きな指。
「…俺、先生が好きなんです…」
桐生は何かを振り切るように首を振った。
掴まれてた手首が解放される。
はらりとほどけるように桐生の手から白く細い指が離れて落ちる。
「……君の世界は狭過ぎる」
「碧は僕しか知らない…だから今ただそれに縋っているだけだ」
「世の中の大人はこんなではないし、碧が大人になったら見えてくるものが全然変わってくる…」
多分桐生の言うことは正しい。
そして『戻れる』なら今なのだろう。
碧は確かに何も知らない。
桐生からすれば初めての恋に翻弄され、執着をして駄々を捏ねているだけの子供なのだろう。
だけどだからといって今のこの気持ちをどうすることも出来ない。
何かを欲しいという気持ちに大人も子供もあるのだろうか。
「………じゃあそんなものは要らないです」
碧の言葉に桐生が止まる。
「世の中の大人も、違うものが見える未来も、全部要らない……俺は先生だけでいい」
もし桐生と一緒に居たいと願う気持ちが子供が故のものであると言うなら、それが未来を否定するようなものであるのなら…それごと要らない。
桐生を失った毎日は世界が急に色を無くしたようにつまらなく平坦で寂しかった。
碧の17年間生きてきた人生の中で桐生と一緒にいる時間だけが世界を輝かせた。
色とりどりの日々を、夜に咲く花を、眩しい光を、海を撫でる風を、美しいと感じることが出来たのは桐生が一緒にいてくれたから。
だからもう桐生のいない世界にはいたくない。
「俺が欲しいのは先生だけです」
桐生の存在が17歳の碧の全てだった。
桐生がいい。
桐生しか要らない。
桐生が碧にとって毒ならば、その毒に冒されて何も知らないまま枯れていっても構わない。
それは何の曇りのない碧の本心だった。
「先生…俺を側に置いて下さい…嫌いになるまででいいから」
だから…選んで欲しい。
共にいることを。
桐生の瞳が弾かれたまま碧を見つめている。
何かに震えるような澄んだ薄い琥珀色の瞳。
「………」
突然強い力に身体を引っ張られた。
─────!
視界が傾いて目を閉じる。
訪れるかと思った衝撃は大好きな体温に変わっていた。
「……先…生…?」
再び目を開くと碧は桐生の腕の中にいた。
ふわりと香る桐生の匂い。
テーブルでカラン…と崩れるグラスの氷。
強く掴まれた腕の痛み。
「……せっかく決断をしたのに……どうして碧はそっちを選ぶんだ…」
───堕ちていく道を。
桐生の悲しい声が押し付けられた逞しい胸から聞こえる。
慟哭を聞いているような気がした。
だけど碧は例え桐生を悲しませても自分の思いを抑えることが出来なくて『ごめんなさい』と心の中で呟いて、広い背中に腕を回した。
その日から碧の中で桐生は二人の人間になった。
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