アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
96
-
あの晩の後、何度か耀子に誘われてはいたのだが、恭司はのらりくらりと躱していた。
今日、耀子がアポ無しで会社まで会いに来たのは、先日既に商談が成立し、調印も済ませたのでこの先恭司が会ってくれる事が気薄だと判断したからだ。
調印後とはいえ今後の仕事にも関わるので、無下に扱う事もできず、この辺が仕事を理由に断るのも限界かと恭司は本日の耀子の誘いを承けた。
私のハイヤーで御一緒にと言う耀子に、自分の車で行く事を口実に酒を断る事も考えたが、耀子を自分の車に乗せる事に凪はどう思うかと思案し、耀子のハイヤーに乗せて貰うことにした。
会議室にコーヒーを持って来た凪が耀子の側に行った時、一瞬訝しげな顔をしたのを恭司は見逃さなかった。
恐らく凪はあの晩、自分が一緒に居たのが耀子だと気がついただろう。あの晩から今日まで、凪があの日の事を聞いてきた事は一度も無い。何かを悟っての事だろうと恭司は思っており、だからこそ自分の車に耀子を乗せる事を嫌った。凪にこれ以上不信や不安を与えたくなかった。
「今日は弊社まで足を運んで戴いて有難う御座います。私も、中津川社長と御一緒したいと常々思ってはいたのですが、中々時間が取れずに申し訳ありません。」
恭司の言葉を社交辞令とは受け取らず、嬉しそうな顔で耀子は言う。
「では御社に出向いて正解でしたわ。先日お会いしてから、ずっと高嶺専務とお会いしたいと思っておりましたの。調印も終えた事ですし、今夜はプライベートとして、仕事抜きでお付き合い下さいね。」
耀子の言葉を受け、恭司は内心舌打ちする思いだった。
「どちらに、向かっているのですか?」
「丸の内のホテルです」
恭司は見覚えのある景色に、嫌な予感がしてそう聞いたが、耀子の返答にやはりと眉間にシワを寄せる。ハイヤーの向かう先は、先日凪が田邊に呼び出された隆雄のホテルであった。
「何処へ行っても高嶺専務は目立たれるので、今日くらいゆっくりお食事やお話しを楽しみたくて、部屋を取りしましたの。お嫌でした?」
行き先を聞いた後、明らかに表情が変わった恭司を見た耀子がそう言う。ホテル内のリストランテで食事をするだけでも隆雄に変な勘繰りをされそうで嫌なのに、耀子の言った部屋を取ってあるの一言で事態は一変した。
確かに隆雄のホテルでは、宿泊客の希望があれば、ホテル内のリストランテメニューを部屋で食べられるサービスがある。
だが、リストランテで食べるのと、部屋で2人きりで食べるのとでは訳が違う。
況してや耀子は確実に自分に好意をもっている。
恭司は一人、この場を切り抜ける打開策を模索していた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
96 / 160