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親しくなる
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もう二度と会うことはないだろうと思っていた相手と、意外な場所で出会うと、人間は呆然とするものだと知った。
あのカラオケの日から数週間後、バイトの給料が入った俺は、以前からずっと欲しかったものを買いに来ていた。
それは、昔から好きな写真家の、久しぶりに出版された写真集で、値段も張るため、買うのを躊躇していたものだった。
本屋に入り、早速目当ての本に辿り着く。家でゆっくり見ればよいのだが、見本と帯のかかった封のされていない写真集を見つけると、思わず手が伸びてしまっていた。
しばらく夢中で写真集に見いっていると、またしても後ろから声が聞こえてきた。
「あれ、この間の。こんなとこで会うなんて偶然だねぇ」
本屋なんて、コイツに似合わないのに。追い討ちをかけるように、
「オレもその写真集買いに来たんだよ、びっくりしたわ」
と言われ、なぜか頭が真っ白になり、なんと反応すればいいのかわからなくなる。
「お前も、好きなのか?」
かろうじて、それだけは言えたがみっともなく声がかすれていた。
そのあと、黙ってしまった俺を気にする様子もなく、同志を見つけた興奮からか、一方的に俺も好きな写真家のことについて、アツく語り始めた。
その勢いに負けて、連絡先を交換し、そいつの名前が市ノ瀬アキラだと知った。
******
それからは、急展開でアキラと仲良くなっていった。写真家だけでなく、音楽や映画の好みも似ていて、知れば知るほど共通点が増えていった。
なんと言っても、俺の名前が楠木リョウで、アキラと同じ亮という漢字を使うと知ったときには、鳥肌がたった。
親しくなればなるほど、共通点だけでなく些細な違いも見つかったが、俺にはそちらのほうが嬉しく感じられた。
そうして、アキラと出会って三ヶ月後には、すっかり10年以上の付き合いがあるかのように、親しくなっていた。
高校三年になる頃には俺は、ほぼ毎週のように週末はアキラと映画を見たり、下らない話をして過ごすようになる。
自分が、こんなにも他人と一緒に居られるなんて少し前の自分からは想像もできなかったが、今ではアキラを中心に生活している自分がいて、そんな自分が全く嫌ではなかった。
*****
進路の話になった時に、急に真面目な顔をしたアキラに突然切り出された。
「リョウ。オレ、リョウと同じ大学行きたい。んで、大学入ったらさ、一緒に住まねえ?」
特にこれといった目標はなく、ただ家の経済力を考えると国公立だな、としか考えていなかった俺は、素直にその案に乗った。幸いにも、俺とアキラの学力はほぼ変わらず、行ける大学のランクもほぼ同じだった。
アキラは行きたい学部があるらしく、将来のことを考えられているのだと知ると、初めてアキラとの違いが寂しく感じた。
そして、お互いが無事に同じ大学に合格し、電車で15分の距離に手頃なマンションを見つけた日に、俺は、またしてもアキラに頭を真っ白にされることになる。
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