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会いたくない
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その日はバイトの日だったが、バイト終わり、いつもの待ち合わせ場所にアキラの迎えはなく、しばらく待っても来る気配もないため、帰るとメールをしつつ、家路についた。
途中入れ違ってはいけないなと、何度もメールを確認するが、返信はない。
もしかして、なにかあったのでは、家で倒れているのでは、と慌てて帰る。
静まり返ったリビングは、明らかに人の気配がなかった。
「アキラ?」
一応、アキラの部屋に声を掛けても返事はない。どこかに出掛けたのか。
出先から直接バイト先に寄っていたら申し訳ないと、家に着いたことをメールで知らせておく。
ここしばらくの平穏な幸せに、すっかりあの日の悪夢を忘れていた俺は、何の疑問も感じずにアキラの帰りを待っていた。
何かおかしい、と感じたのは帰宅から数時間が経ち、まもなく日付も変わろうかとする頃だった。
何回確認してもメールの返事がなく、痺れを切らせて電話を掛けてみれば、無機質な女性の声しか聞けなかった。
徐々に嫌な予感がふつふつと沸いてくる。背筋を一筋の汗が流れるのを感じる。
まさか、そんなことは、ない。
絶対に、チガウ。
否定する気持ちと相反する絶望に、急に部屋の明かりが暗くなったように感じた。
今回は、どこか電波の届きにくいとこで飲んで騒いでいるだけだ。連絡したくても、充電が切れてどうしようもないのかもしれない。そもそも、前の時だって、そんな俺の不安になるようなことは起こっていないのかも。
祈るように、何度も自分に言い聞かせる。
何も、ないんだ、だから、大丈夫。
*****
また、同じように朝を迎えた。
眠って忘れてしまいたかったが、眠ることはどうやってもできなかった。
目を閉じると、勝手にアキラと自分以外の誰かが抱き合っている姿が頭の中に浮かぶようで、ただぼんやりと宙を眺めていた。
時計を何気なく見ると、そろそろ始発が動き出す時間だ。
アキラももうすぐ帰ってくるかもしれない。
・・・会いたくない。
会えば、自分がどうなるかわからない。
アキラが、もしまた他の人間の痕跡を残していたら、俺は、壊れてしまう気がした。
思わず、家を飛び出していた。
駅の方へは行けない。アキラに会うかもしれない。駅と反対方面に向かうと、自然とバイト先へと続く道で、昨日の帰り道の自分を思い出すと、その能天気さに笑えてきた。
どこに行くかのあてもなく、ぼんやりと歩き続ける。
どこか、心の一部が壊れてしまったのかもしれない。
悲しくもないし、胸が張り裂けそうな苦しみもない。涙も一滴も出ない。
ふいに、誰かに後ろから呼ばれたような気がして、足を止めた。
「リョウ、どーしたよ?こんなとこで」
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