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会いたい
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また、痩せ始めた俺を見て、八嶋さんが何か言いたげな様子を見せてはいたが、気付かないフリを続け、言わせる隙を与えなかった。
夕方のバイトだけでなく、深夜や早朝までの時間帯にも入り始める。
周りには、金が必要だと言えば、それ以上追求されることもなく、いつしか、そんな日々にも慣れていく。
あっという間に、時は流れる。
バイトを増やしていく内に、時間の流れが変わったように感じた。
ふとカレンダーを見て気がつけば、アキラが何もない部屋で俺に衝撃的な告白をした日から、今日でちょうど一年で。
記念日なんて女々しいことは、今まで意識したこともなかった。実際、自分の誕生日すらバイトで終わってしまったことに後から気がついたくらいだった。
でも。この日だけは、忘れられなかった。アキラと俺との関係が変わった日、アキラと俺とが始まった日だ。
今日だけは、少しはワガママに動いてもいいんじゃないだろうか。
アキラに会いたい。嫌がられても、やっぱり会いたい。
そんな思いに突き動かされ、バイトで疲れた足を必死に動かす。
俺が知っているアキラの居場所はイタリアンの店と、バーのKだけだ。
イタリアンの店は、人で溢れていたが、アキラの姿はなかった。
落胆しつつも、Kを目指す。
久しぶりに見るKは、落ち着いた雰囲気で俺を出迎える。
ここでも会えなければ、諦めよう。
そう、覚悟を決めて、あの日アキラに抱かれながら入った扉を開ける。
薄暗い店内で辺りを見回すのは無謀だと悟り、あの日のようにカウンターへと向かう。
「・・・いらっしゃい、珍しいね」
ケイさんは、一瞬俺を見て、目を見開くがすぐに営業スマイルで俺を出迎える。
「アキラ、来ていませんか」
挨拶もなしに、目的を告げる。切羽詰まった表情をしていたのだろう。
ケイさんは、少し切なそうな憐れむような表情で俺を見たあと、カウンター席に腰かけるよう勧める。
「ちょっと、コレ飲んでごらん。落ち着くよ」
大人しく座った俺の前に、持ち手の付いたグラスを置いてくれる。湯気のたった、カフェオレのような色をしたそれは甘い匂いで俺を誘う。
一口飲むと、甘さとほろ苦さが染み渡った。
「ホットカルーアミルク。ほとんどリキュールは入れてないから、安心して」
優しい微笑みに、ふと涙が滲みそうになった。
「あ、の、・・・アキラは」
ここにいないのかともう一度尋ねようとしたその時、扉が開いて誰かが入ってくる気配がする。
「やだぁ、もお、アキラってばぁ」
甘えるような高い声は、男性のものだった。それに続く声は、俺がずっと求めていた声で。
「だって、ホントのことじゃん。可愛いよ、お前」
久しぶりに生の声を聞いた。こんな内容聞きたくなかったけど。
振り返ってはいけないと知りつつも、扉から入ってくる二人を見てしまっていた。
親密さが一目でわかる距離。肩と腰とに互いに手を回し、耳元に口を寄せるように会話を交わす。
アキラが腕に抱いているのは、以前見たあの美形の男の人だった。
やっぱり二人はお似合いだ。
壊れていきそうな心で、静かにそう思う。
俺の後ろで、ケイさんの舌打ちが聞こえた気がした。
アキラは、俺に気付いているのかいないのか、そのままでカウンターに近づいてくる。
手を伸ばせば、届きそうな距離。
でも、アキラはこっちなんて見もしなくて。
アキラの前に立ったケイさんが、アキラに俺の方を示して初めて、ゆっくりとゆっくりとアキラが俺を見た。
何の感情も写っていない、アキラの顔。俺はどんな顔をしてるのだろう。
「どしたの、リョウ、こんなとこで」
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